Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

はじめに

このブログは丸山くがね氏の小説「オーバーロード」について、
そのユグドラシル世界に大きく影響をあたえているであろう、ダンジョンズ&ドラゴンズ3.5版(以降D&D3.5e)視点から、元ネタを考察していく個人的な備忘録です。
オーバーロード」内からのものは〈山カッコ〉、D&D3.5e出典のものは《二重山カッコ》で表記しています。
またD&D3.5eについては、特に記載ない限り基本ルールブック3冊(PHB,DMG,MM)からの出典です。

自分は3版系で邦訳された分はほぼ全てルールブックを揃えていますが、なにぶん物量が多く未訳まで含めると甚大な量となります。また丸山くがね氏がプレイ経験を明言しているクラシックD&D(赤箱)、ダンジョンズ&ドラゴンズ4版、ソードワールドガープスなどについての知識はほとんどありません。
そのため勘違い、的外れな考察もあるかもしれませんがそこはご了承ください。

追記ログ

2024/10/26 二刀流レンジャー ~ダークエルフと共に歩んだ40年~
1983年 TVアニメのハンクについて追記

2024/10/01 1986年の怪物誌
わかったことにTruth In Fantasyシリーズの影響について追記

2024/09/26 クラス考察 その9
交渉特化キャラのテレパシーについて追記

2024/09/22 クラス考察 その8
3.5パラディンの必殺コンボについて注釈追記

2024/09/16 二刀流レンジャー ~ダークエルフと共に歩んだ40年~
1987年ドラスレファミリーのロイアスについて追記

2024/08/05 呪文 その1
ウィザードリィ#1カティノ呪文について追記

2024/06/12 スクウェア製RPGにおけるAD&D(とクラシックD&D)要素
河津氏のツイートからシムラクラムとドルアーガについて追記

2024/03/25 3版用語の基礎知識:最果てのパラディン編
氷川へきる『まほぽに』について追記

2024/02/05 ファンタジーRPG必読作家リスト
ロバート・E・ハワード及びJ.R.R.トールキンの箇所に追記

2024/01/26 D&D(←この時点で要注意)というお話
ウィザードリィ談義あるあるについて追記

2024/01/22 トールキンにまつわるガイギャックス語録
ホブゴブリンに関する注釈を追記

2023/12/09 呪文 その29
呪文〈デハイドレーション/脱水〉ついて追記

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「カッツェ平野の幽霊船」描写から見るルール その2

祝『ヴォクス・マキナの伝説』第3シーズン!いやー2期で終わってなかったんか、続きが出て良かった。そして……祝異世界マンチキン』アニメ化決定!!キタ━━(゚∀゚)━━ !大丈夫?WotCに見つかって怒られない?(藁)

これで「D&Dは映像化に恵まれなかった」という認識も最早過去の物、ガイギャックスも草葉の陰で喜んでいるだろうよ。

ところでグロッグがタイタンストーン・ナックルの能力で大型化してるような描写があったんだが、グロッグの種族はゴライアス:人怪/Monstrous Humanoidだからエンラージ・パースンは効かなくない?などと思い調べてみると、5版ではエンパの対象が人型生物のみの制限はなくなり、呪文名もエンラージ/リデュースになってたんだ、知らなかった~!と、些細なことが気になるお年頃なのでした。

以下本題

 

"空を飛ぶ相手との撤退戦など御免だ。というか基本的に空を飛ぶ敵というのは難敵だ。特に空中でホバリングできたり、自由自在に上下移動ができるようなものになると、討伐難易度が一つは跳ね上がる" 上巻68p

討伐難易度はともかく、飛行による3次元移動は旋回半径、旋回角度、上昇量、最小移動速度などが絡み合い処理は非常にややこしくなりる(とDMGに書いてある)。

これらの諸要素は飛行クリーチャーの持つ飛行移動速度と機動性により詳細が算出される。

飛行機動性には「完璧」「良好」「標準」「貧弱」「劣悪」の5段階があり、良好以上の機動性であればその場でのホバリングが可能であるし、特技《ホバリング/Hover》を取得することでもこれが可能となる。

なお巨大サイズを超えるようなドラゴンは飛行移動速度は大きいものの(200ft. 疾走時146km/h)機動性は劣悪であり、飛行しながらブレスの範囲にPCを収めようと大きく旋回し戦場を見下ろすその姿はさながらAC-130ガンシップのようであった。またこの劣悪な機動性を補うためドラゴンが自身にフライ呪文(機動性:良好)をかける、というのもよく使われた小技だ。

プレイヤーキャラクター向け飛行呪文や飛行アイテムの中には標準以下の機動性しか持たない物もあるが、DMとしては「とりあえず空飛びたいならフライ使っとけ、それ以下はめんどくさいから」といったところが本音である。

 

"スケリトル・ドラゴンは空に飛び立つたというよりも浮かび上がつただけだった。そのまま一気に落下してくる。巨体が狙っているのは自分。ヒットアンドアゥエィも嫌だが、押し潰されるのは不味い" 上巻82p

超大型サイズを超えるドラゴンの持つ能力《押し潰し/Crush》は、竜が飛行または跳躍から敵の上に着陸して押しつぶす攻撃で、身体の下に収まるすべてのクリーチャーが対象の範囲攻撃となる。対象は反応セーヴに失敗すると"押さえ込まれた状態"になり、抜け出せなければ継続的に殴打ダメージを受ける。

まあ英雄レベルを超えるような冒険者ならば前衛には事前にフリーダム・オヴ・ムーヴメント呪文を配っておこう(クレリック9Lvなら1時間半持続する)。あとは「押し潰し」や「蹂躙」「急降下突撃」に対しカウンター攻撃できる特技《頭上への突き上げ》もあるが、そのようなややレアな状況に対する使用頻度を考えると、特技が豊富なファイターでも取得は考え物であるし、なにより前提特技2個は重い。

 

"壁系の魔法は大体の場合、使用者の意思で解除できる" 上巻83p
"同時に〈石壁/ウォール・オブ・ストーン〉が幻のように消える" 上巻85p
D&D3版系ではウォール・オヴ・ファイアー、ウォール・オヴ・フォースなどの持続時間が決められている呪文は術者の意思により消去する事が可能だが、ウォール・オヴ・ストーン、ウォール・オヴ・アイアンなどの持続時間が「瞬間」となっている壁系呪文はいったん創造したらずっと石壁そのままであり、術者による消去やディスペルでの解呪は出来ない。ここはD&Dルールとオバロの明確な相違点であり、二次創作者は注意しよう。
 

"モモンは大剣二刀流と聞くが、今は片手にしか剣を持っていない。~中略~(今回の戦いにおいては手数よりは一撃の重さを重視しているということなのだろうか?)" 上巻93p

実例をあげてみよう、筋力18(ボーナス+4)の人間戦士がグレートソード両手持ちの場合、ダメージは2d6+6、期待値13
ロングソードとショートソードでの二刀流の場合、利き手は1d8+4、逆手が1d6+2、期待値合計14

これだけ見れば殆ど変わらないか二刀流の方がチョットだけいいように思えるかもしれないが、二刀での攻撃は特技《二刀流》を取得した状態でも各攻撃命中に-2ペナルティ、特技がなければ利き手-4逆手-8とほぼ当たらない。

更にD&D3.5eで両手持ち武器を有利たらしめている要因としては特技《強打》とダメージ減少の存在が大きい。
特技《強打》は「命中ボーナスを減らした分、ダメージアップ」という効果なのだが、そのダメージ変換率は武器の種別により変化する。
両手武器:減らした命中×2のダメージ、片手武器:減らした命中×1のダメージ、軽い武器:強打不可

つまり「戦士に筋力や命中を上昇させるようなバフ呪文をがっつり積んで両手武器で強打」が3.5版当時一番手っ取り早くダメージを出す手法であったし、敵モンスターのダメージ減少(要するに物理耐性)で二刀それぞれのダメージが引かれるよりは強打の一撃で強引にブチ抜いた方が与ダメ効率は良くなる。

二刀流が両手持ちに与ダメで勝つとすれば、それはダメージを直接上昇させるようなクラス能力やバフ、つまりフレイミングやホーリーなどの武器魔法的強化、ローグの《急所攻撃》、バードの《勇気鼓舞の呪歌》、レンジャーの《得意な敵》ボーナスなどを複数乗せた場合となる。

例えばD&D3.5eをベースとしたMMORPG『Dungeons & Dragons Online』では、エンドコンテンツで矢鱈と高アーマクラスの敵が出現し、こういったモンスターに対しては魔法的強化を複数付けた武器による二刀流、手数で殴りまくった方が両手武器強打より与ダメ期待値が高くなるといった状況で最終的に二刀流レンジャーがアタッカーとして活躍していたそうな……紙版と大違いだ。

なおモモンのようなクソデカ剣二刀流をD&D3.5eで再現しようとすると大型サイズのバスタードソード×2、特技《特殊武器習熟:バスタードソード》《二刀流》《大刀二刀流》《大業物》と特技が大量に必要な上命中に-4ペナと、出来ないことはないが実用性はほぼ無い(でもカッコいいよね)。


"船員スケルトンの力は普通のスケルトンに比べて強いようだが、基本的にクロスボウという武器は 膂力に依存しない固定値ダメージなので、力の強さはあまり意味をなさない" 下巻77p

特定の筋力等級に応じて作られた適切な弓、すなわちコンポジット・ボウ(複合弓)ならば、ダメージに筋力ボーナスを加算することが出来るが、すべてのクロスボウは筋力ボーナスが乗らず、そのダメージは素のダイス分+魔法による強化だけとなる。

3.5eDMG記載のクロスボウはハンド・クロスボウ、ライト・クロスボウ、ヘヴィ・クロスボウの基本3種。続けて射撃するには手を使った装填が必要であり、複数回攻撃には特技《高速装填/Rapid Reload》または『武器・装備ガイド』記載の魔法強化《クイックローディング》(異次元空間の弾倉に100発装填)などが必要となる。

複合弓と比べ筋力乗らないし、連射には特技が必要。サーペンツアローなどの特殊矢による斬撃化とかも出来ない3版系クロスボウはまったく良いとこ無しに見えるかもしれないが、弓と違い伏せ状態でも射撃可能、両手に構えてのクロスボウ二刀流も可能など一応利点が無いでもない。

なお5版になるとクロスボウ関連特技が強化され、近頃ではクロスボウファイターがブイブイ言わしてるようだが、これは特技《射撃の名手/Sharpshooter》の危険度を見抜けなかったデザイナーの失態というほかない。インフレが過去の版より抑えられモンスターのACがそこまで高くないD&D5eで射撃強打とかヤヴァいのは火を見るより明らかじゃん。

 

"アインズは自らが持つアンデッドを支配する能力を船へと向ける。 あまりキャパシティに余裕はないのだが、問題なく支配下に置くことができた。やはりレベル自体はそこまで高くないのだろう" 下巻65p

悪属性のクレリック(または一部ネクロマンサー系クラス)の持つ能力、アンデッド威伏/Rebuke Undeadではクレリックレベル+魅力ボーナスを基本として影響を与えるアンデッドの最高レベル及び総数を算出し、判定結果が対象アンデッドLvの倍もあれば支配も可能。(全部説明するのは大変だからココ見て)またアンデッドを創造したり支配する呪文では術者レベルを係数とした算出となる。もしアンデッドが他のクリーチャーの制御下にあり、命令がなんらかの矛盾や葛藤を引き起こす場合、要するに支配権の奪い合いでは魅力ボーナスによる対抗判定を行う。

今回、幽霊船の支配権をアインズが簡単にネトリしたので、当然のことではあるが船長よりアインズは高い魅力を持っていると言えるだろう、なんというイケメン!

というかアインズが書籍のどこかで自分がアンデッド支配される可能性について考えていたシーンの出典元を調べようかとオバロwikiを見てみたら!閉鎖してるじゃねーか、どうすんだよファンコミュニティが無くなっちゃうよ、クソがぁぁあ!!

 

"私は言ったわよね? あの御方こそが世界の頂点だ、と 。それを圧倒的強者? 言葉が軽すぎるわ" 下巻65p
ナーベラルよ。アインズは圧倒的強者ではあっても絶対的強者では無いし世界の頂点でも無い、それはアインズ自身が最もよく理解しているところだぞ

日本を代表するRPGのクラス

とくれば、とりあえずサムライ&ニンジャがその二大筆頭であることに疑念の余地はないだろう。ところがそれに続く3番目となると識者の間でも意見が分かれるところだと思われる。

とりあえずD&D系でサムライニンジャに続く日本的クラスといえばケンセイ/Kensaiが1985年の登場以降、シリーズ通して参戦率が比較的高くオバロ英訳版でのケンセイもわざわざセイバーセイジなどと訳さなくとも、そのままであちらのオタクには通じたのでは?というのが私見である。

また、ケンセイに次ぐ著名な日本的クラスとしてはシュゲンジャ(修験者)、ソーヘイ(僧兵)、或いは中華風五行使いのウーイァン(巫人)あたりのオリエンタル系術者クラスがそれに続くのだろうが、ここで忘れちゃいけないメンバーとしてクラス:ヤクザについて触れておきたい。

日本産RPGではまず見ることがないクラス:ヤクザは和訳こそされなかったものの、AD&D1st及びD&D3.0eそれぞれのオリエンタル・アドヴェンチャーに登場し、それに続くサプリメントでも深堀りされることが多く、またD&D4版以降もDragon誌やサードパーティーサプリメントに定期的に顔を出す程度には人気のあるクラスである。

東洋の神秘ヤクザ、その恐るべき能力とは!?……版によって詳細は違えどおおむね「秩序、悪属性よりの都市型ローグ(急所攻撃無し)」といった物で、地域の調査、人脈コネを使った情報収集、気パワーで身かわし、組員招集など、良く言えば頑張って調べてデザインしたんだろうが、とにかく地味。

剣聖が気パワーで大旋風!とかしてるんだし、もっと色々はっちゃけても良かったのでは?(ヤクザランクが上がるとマジック・イレズミが増えるとか、ユビツメで名誉点回復とか色物しか思いつかないが)

 

なお個人的にRPGファンタジー異世界にサムライ、ニンジャがいても全く違和感を感じないのだが、さすがにヤクザは脳が拒否反応を起こしてしまう。何とも身勝手な話であるが、全てウィザードリィが悪い(笑)

もしAD&D1stコアルールブックにヤクザが掲載され、これを模してウィザードリィファイナルファンタジーウルティマなどにも採用されていれば……日本産RPGにもヤクザが登場し、モンク程度には馴染みのあるクラスになっていた世界線があったのかも?いやないわ(反語)

 

*以下、D&Dシリーズで見る様々なヤクザたち

AD&D1st『Oriental Adventures』(1985)のヤクザイラスト、至って普通の時代劇ヤクザである

 

オリエンタル・アドベンチャーズ4番目のモジュール『Blood of the Yakuza』(1987

四方から襲い掛かるニンジャを迎え撃つヤクザ、まるで映画のポスターのようでカッコいい

 

D&D3e『Oriental Adventures』(2001)記載の上級クラス:ヤクザ

ライブハウスでバイトしてるモギリの姉ちゃんみたい(偏見)

 

D&D4版時代のDragon誌#404(2011)掲載ヤクザ。ぱっと見はベトコンだが、その肩から覗く刺青が何よりの証拠。奥に秘めたエロス&暴力をチラつかせる感じが良きかな

 

Pathfinder RPGサードパーティーサプリメント『Way of the YAKUZA』(2011)

GoogleでYakuzaを検索すれば半数近くが『龍が如く』で占めているこのご時世に、これがヤクザとは一体……その足元でたそがれている精気の無いポケモンは何なのか?

 

「カッツェ平野の幽霊船」描写から見るルール その1

今回の映画よかったなぁ、やっぱスクリーンだと見ごたえあるよね。というわけでサイト訪問者も増えているようだし聖王国編のおさらい、旧記事リンクはこちら

 その1  その2  その3  その4  その5  その6

 

では、いつものルール解説を

"また馬などの騎乗動物に乗る者がいないどころか、運搬に使ってすらいない。これは一部のアンデッドが動物を恐怖させる能力を持つため、対峙するアンデッドによっては、馬などが暴走して手がかかるという理由があってのことだ" 上巻33p

スペクターやレイスの持つ能力《異様なオーラ/Unnatural Aura》、動物はこのオーラに気づき範囲30フィート内には近づこうとはせず、そうすることを強要すれば恐慌状態となり全力で逃げ出す。

 

"同族作りの能力を持つアンデッドの仕業だった場合、適切な処置を施さないと殺された者がアンデッドとなってしまう恐れがある" 上巻64p

ヴァンパイア、ワイト、モーグ、レイス、シャドウなどのアンデッドの持つ能力《同族作り/Create Spawn》、同名で纏められている能力ではあるが、その仕様は各クリーチャーにより様々である。殺されてから数日後にゾンビや吸血鬼として復活するものもあれば、レイスに仲間が殺されると数ラウンド後にレイスとして復活、襲いかかってくると言うマジで止めてパターンもある。

 

"カンデロンと同じように全身鎧を着用した男が無言で歩いてくる。タワーシールドと言われる大きな盾を持ち、メイスを持っている" 上巻44p

"運搬人たちの背負子は薄いとはいえ鉄板が入っており、タワーシールドのように完全な遮蔽を取ることが出来る" 上巻48p

タワー・シールド、通称"タワシ"はおっきな木製の盾である。そのACボーナスは+4とヘヴィ・シールドの倍もあり、また構えることにより完全遮蔽を得ることが可能。基本クラスの内、タワシを標準で習熟しているのはクラス:ファイターのみであり、戦士はこれをぜひとも活用したいところだろうが、タワシは大きくかさばるため攻撃時命中に-2のペナルティが付くという大きな欠点があるのが悩ましい所。

低レベル時にたったの30gpでAC+4はタンク職として非常に魅力的だが、もともとからして命中の安定しない低レベルで攻撃-2ペナでは、それこそ敵前で突っ立ってるだけの木偶の坊になりかねない(キングメーカーヴァレリーを思い出してほしい)。なおサプリメント『石の種族』にてタワシ習熟の代わりに他の特殊盾の習熟を得るという代替ルールが出てきて以降、殆どのファイターが特殊盾エクストリーム・シールド(AC+3)に鞍替えし、ただでさえ少なかったタワシ使いもほぼ絶滅した。


"その中央には査察官。いざという時は魔法を使うつもりなのだろう。聖印を片手に持ち、周囲を見渡している" 上巻48p

D&D系のクラス:クレリックは呪文発動時に焦点具として《聖印/Holy Symbol》を使用する、またアンデッド退散にもこれを掲げる必要がある。つまりクレリックは戦闘時にも片手を開けられるようにする必要があり、武器を落とさないようにするため「メイスにストラップ付けて手首からぶら下げれるようにしていい?」などとDMに聞くプレイヤーも当時は見られたが、後発サプリメントにて手が使えるガントレット・シールドや盾や鎧に聖印を埋め込む追加ルールが出て以降、このような細事でDMを困らす事も無くなった。

オバロでは現地勢の神官がたまに聖印を掲げているシーンがあるが、ナザリックのシャルティアやルプーが聖印を使用していた描写は記憶にない……これもユグドラシルと転移後の世界の相違点か?

 

"「〈第三位階怪物召喚〉」 黒い毛皮の大きな狼が一頭、エンヴァリオの前に姿を見せた" 上巻61p

プレイヤーズ・ハンドブックを紐解くまでもない、「summon monster 3 SRD」でググればすぐに出てくる。サモン・モンスターIII呪文により下方次元界から召喚したヘル・ハウンドで間違いないだろう。

 ヘル・ハウンドは種別:来訪者/Outsiderであり、基本的にはアケロン九層地獄に住むモンスターだが、物質界に住み着き繁殖している個体もいるという。暗視、鋭敏嗅覚、特技 《追跡》持ち、隠れ身&忍び足&追跡時の判定にボーナスあり。また動物や魔獣に比べ知力も高く会話できずとも意思疎通は可能なので、スカウトサポートとして非常に優秀。


"召喚されたのは毛皮がほのかに光る大型の熊。それが一頭" 下巻85p

同じくサモン・モンスターIII呪文召喚リストにあるセレスチャル・ブラック・ベアであろう。

セレスチャル種は上方次元界(雑に言えば色々な天国)に住むクリーチャーであり、種別は動物ではなく魔獣となる。また通常クマの能力に追加で[酸][雷撃][冷気]に対する抵抗や特殊攻撃:悪を討つ一撃(オバロでの聖撃)を持つ。これを踏まえての対スケリトルドラゴン、アンデッド向け壁タンクとしての起用と思われる……が、実はセレスチャル・ブラック・ベアのサイズは大型ではなく中型、サモン・モンスターIIIで召喚できるモンスターの内でもかなり弱い方であり、このような状況であれば選択はセレスチャル・バイソン一択であろう(黒熊より2Lv高く大型サイズ、魔化されてない武器に対する物理耐性も持つ)。まあ光る野牛よりかは熊の方がイメージしやすいのでこのような改変調整(クマ大型化)を行ったのと思われる。

また今回、エンヴァリオは善悪それぞれの属性/アライメントを持つクリーチャーを召喚出来ていた為、エンヴァリオ自身の属性(カルマ)は中立と考えられる。

 

"森渡りみたいな特殊能力を持っていないなら足跡は絶対に地面に残ると思うんだよね? それと地面を割って出て来たという様子もない。つまり――"  上巻66p

食い荒らされた死体と地面に割れた跡があれば、それは十中八九ブレイ(ランドシャーク)がメインタンクブロー急浮上して襲いかかってくるフラグである。また場所が洞窟などであれば、アース・エレメンタルのような《地潜り》を持つクリーチャーの可能性もあるが、今回は平原ということもあり飛行能力を持つクリーチャーの仕業と考えるのが妥当であろう。

ツイートちょっと解説 その3

丸山くがねちゃん(11歳)@maruyama_kugane · Aug 11

"教えて偉い人!
3.5eで仮に28HDモンスター(ソーサラーとして呪文を使え、CL11)がソーサラー7lvを持っていた場合、そいつのシミュレイクラムは(28+7)/2=17HDと見なして魔法(特殊能力に呪文があるので)を使っても良いの?"

 

上記ツイートを雑に要約すると「合計35Lvで18Lv分の呪文発動能力を持つモンスターの強さ半分ってどうなるの?」となるが…

非常にめんどくさい問題である。ウィザード7lvシミュレイクラム呪文は大雑把に言えば、本体の半分のレベルを持つコピー雪像を作りだす呪文(ロマサガの風術シムラクラムの元ネタ)だが、ヒット・ダイスと術者レベルが同一でない場合や種族として術者クラス相当の呪文発動能力を持つクリーチャーの処理について呪文説明には何も書かれていない。


このツイートに対するリプライの多くは質問に無関係な物、よくわからんけど半分でいいんじゃね?(くがね氏はクリーチャーによってはコピー元より術者Lvが上がってしまうのを問題視しているのでよくない)、DMが好きに決めろ、等々くがねちゃんの求める答えは殆ど無いようだが、一人だけルールに基づいたリプライ返しがあった。

 

烤面筋焖饭@komeiji_menfan ・ Aug 29
17hd,14cl as sor. But I think you can refer to the shadow simulacrum template on page 156 of Shadowdale: The Scouring of the Land to determine the specific HD situation.

 

ヒット・ダイスは17、術者LVは14になるとの事だが、これは恐らくモンスター種族生来の呪文能力はヒット・ダイスの増減に基づかない=シミュレイクラムで半減されない、ソーサラー7Lvは半減(端数切捨て)され、11+3=CL14といった計算なのだろう、まあまあ納得がいく答えだ。

*しかしながら「Shadowdale:The Scouring of the Land(2007,未訳)記載の156ページにあるシャドー・シミュラクラム・テンプレートを参照すればいいと思います」というのは今回の事例にはあまりよろしくないような……本にサンプルキャラとして書かれているものは

ファイター11/ソーサラー12/シャドウ・アデプト4/ディヴァイン・チャンピオン4
↓シャドー・シミュラクラム化
ファイター11/ディヴァイン・チャンピオン4

というようにソーサラーとシャドウ・アデプトLvがごっそり抜け落ち呪文発動能力が無くなってしまっているし、どうしてそうなるのかテンプレートの説明に書いて無い…よし、見なかったことにしよう。

 

めんどくさいルール解釈はこのくらいにして皆さん、このツイートにはくがねちゃん本人に関わる幾つかの重大なヒントが含まれているのにお気づきだろうか?

まず、くがねちゃんが未だにD&D3.5版をプレイしているという件に関してはD&D3.5eが最高のロールプレイング・ゲームだからちかたないとして、ソーサラーCL11として呪文発動能力を持つ28HDモンスターという所、妙に具体的なデータじゃないか?

 

というわけで手元にあるモンスターマニュアルにざっと目を通したところ、以下2つのモンスターデータが該当した。

オールド・シルヴァー・ドラゴン
超大型サイズの竜(冷気)ヒット・ダイス 28d12+168(350)
11Lvソーサラーとして呪文を発動(加えて、クレリック呪文、風、善、秩序の各領域呪文も習得)

オールド・レッド・ドラゴン
巨大サイズの竜(火)ヒット・ダイス28d12+196(378)
11Lvソーサラーとして呪文を発動(加えてクレリック呪文、悪、混沌、火の各領域呪文も習得)

 

つまり!今でもD&D3.5版で高レベルキャンペーンをぶん回してるプレイグループを探し出し参加して、オールド・シルヴァー・ドラゴンのコピー雪像を作ろうとしているマンチプレイヤー、または敵ボス術者のお供としてオールド・レッド・ドラゴンのコピー雪像を出したDMがいたらビンゴ、そいつはくがねちゃん本人の可能性が非常に高いってわけだ!(名推理)

我々は賢いので(Anthropomorphic OwlはWis+6)

前記事の補足説明……というか本来こっちを先に書くべきだったのだが、資料集め(段ボール箱の山の何処からかクロちゃんのD&Dがよくわかる本を発掘するミッション)に手間取ってしまったもので。そんな訳でまあ、ウィザードリィでは【Piety/しんこうしん】、ファイナルファンタジー2では【せいしん】とか呼ばれている能力値についてのお話です。

 

クラス:クレリックの主要能力値であるWisdom/ウィズダムについては、古より「Wisdomって具体的には何なの?Intelligence/知力とはどう違うの?」という疑問がRPGの基礎知識として定番のFAQとなっていた。

また「Wisdomの適切な和訳は【知恵】?【賢明】?【かしこさ】?それとD&D3版の【判断力】って訳はどうなのよ」といった意見もよく見られたものである。

この質問に対する答えについて80年代中頃(日本RPG黎明期と言える)、クラシックD&Dベーシックルールセット(赤箱)では以下のように説明されていた

For example, imagine that you feel wet drops on your arm. Your Intelligence would tell you that it’s raining; your Wisdom would tell you to go indoors to avoid catching a cold.

(Frank Mentzer. D&D Basic Rules. 1983)

「空から水が降ってきたときに、知識度は雨だと悟らせ、賢明度はどうやって雨やどりをしようかということを考えさせる」

黒田幸弘『D&Dがよくわかる本』1987年)における訳文

クロちゃんもぼやいていたように、わからんわけじゃないけど今一つピンとこない説明である。
ともあれ、これがフランク・メンツァーの回答であり、当時のTSR公式見解だったのだろう。


時はさかのぼり70年代末期、あらゆるRPGの源流であるAD&D1stダンジョンマスターズ・ガイドの能力値補足説明においてはWisdomが以下の様に説明されていた。

An example of the use of wisdom can be given by noting that while the intelligent character will know that smoking is harmful to him, he may well lack the wisdom to stop (this writer may well fall into this category).

【判断力】の例を挙げると、知的なキャラクターは喫煙が自分にとって有害であることを知っているが、止める判断力がない場合がある(筆者はこれに該当する可能性が高い)。

(Gary Gygax. Dungeon Masters Guide. 1979)より抄訳

 

なんとまあガイギャックスらしい諧謔味あふれる一文だろうか。その上わかりやすい(笑)

また上記訳文ではWisdomに【判断力】を充ててみたが、全く違和感の無い文章に仕上がっているので、D&D3版での訳も案外的を射たものだったと思われる。


余談であるが、上記ダンジョンマスターズ・ガイドの能力値補足説明:Charisma/魅力の項目では、肉体的な外見だけではない真のカリスマを持った歴史上の人物例としてユリウス・カエサルナポレオン・ボナパルトと共にアドルフ・ヒトラーの名を挙げている……今じゃ絶対ポリコレ的にNGで書けないやつだ