Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

3版用語の基礎知識:最果てのパラディン編

古代の文献によるとサードとよばれた時代に魔物のカテゴリーに異変があったと言われている  「来訪者」だ  魔獣や魔物と呼ばれていた存在が異次元・異世界から来たものと想定されたのだ

上記文章はD&D3rdにおけるクリーチャー種別:来訪者/アウトサイダーの説明…ではない。
氷川へきる氏の漫画『CANDY POP NIGHTMARE』5巻58p上原レポートからの抜粋である。へきる氏の漫画には『ぱにぽに』の頃から、このような卓ゲーマーしか気づけない小ネタ(D&D系に限らない)がちょいちょいとぶっこまれているので注意が必要である。

 

追記:ぱにぽにスピンオフセルフパロディ本『まほぽに ~異世界魔法学校は本当にめんどくさい~』にて「メローヴァントスチームローラー」("Delsenora's Malevolent Steamroller" AD&D2ndプレイヤーズハンドブック1990年和訳に記載されたオリジナル新呪文の名前例)を確認。……日本語でググって検索結果が1つも出ないようなドマイナーネタは、それはもうギャグとして成立していないのでは?

 

さて、アニメ絶賛放映中の『最果てのパラディン』であるが、これにも作中にD&D3版系要素が頻出する。
まあ中身の設定としてはD&Dと関係無いことも多いのだけれどD厨としてはついつい反応してしまう絶妙なチョイスが多く、せっかくだからここで解説しておこう。


〈創造のことば〉
《創造の言葉》はサプリメント『高貴なる行いの書』に収録された善人専用特技、効果としてはクラス:バードの持つ各呪歌の効果を倍化する。

逆説的に倍化してもゲームバランス的に問題ないくらい通常バードの呪歌の効果はささやかな物だったとも言えるのだが、しかしながら各サプリメントに散らばったバード強化の為の特技、マジックアイテム、呪文などを駆使し、最終的に創造の言葉で強化することによりトンデモないバフ能力を発揮する事が出来た。
過去に2ch D&D3版スレに書き込まれた極端な例によると12Lvの手数特化キャラ(分裂シュリケン連打速射二刀流束ね投げ)を高貴バードがバフ(勇気鼓舞の呪歌+Dragonfire Inspiration)する事により1ラウンドのダメージ期待値が2000ほど上がるとかなんとか…
モンスター・マニュアル記載で一番HPの高いタラスク(ゴジラみたいな伝説の怪物)でもHP858、オーバーキルにも程がある。

この他にも『高貴なる行いの書』にはPCを雑に強くする要素、呪文が多々あり、DMはなにかと高貴なキャラクターに難癖を付けて行動を制限しようとしたり、あるいはこの本を危険物として丸ごと使用禁止にするといった事例が後を絶たなかった。

 

〈不死神の木霊/エコー・オブ・スタグネイト〉
神格のアスペクトについてはこちら
木霊/エコーは設定的にどう見てもアスペクトだなあと思いつつ、アスペクトを翻訳しても「木霊/こだま」にはならないからどうなんだろ。と思案していたのだが、かつてHJ文庫より出版されたD&Dリプレイ本 『若獅子の戦賦-雷鳴山編』にてラスボスであるグルームシュ神のアスペクトを《グルームシュのこだま/アスペクト・オヴ・グルームシュ》と表記していた為、これにちなんだ命名のようである。

 

〈あぶら/オレーム〉グリースの魔法
《グリース/脂》 ウィザード1Lv呪文
10ft平方を脂の層で覆い、この範囲内のクリーチャーは反応セーヴに失敗するとすべって転倒する。
またころばなくても技能:平衡感覚5ランクがなければ立ちすくみ状態という、1Lv呪文としては極めて有用な戦場コントロール術。
ちなみに上記『若獅子の戦賦』においては最終決戦でグルームシュ神のアスペクトを転倒させるのに成功したため、かつては「神すらも転ばせる呪文」としてその勇名を轟かせた。

追記:
ポール・キッド著の『ホワイトプルームマウンテン』から始まるグレイホーク世界を舞台としたD&D小説3部作の最終巻、『Queen of the Demonweb Pits』(2001、未訳)最終章では、エスカーラ(まいっちんぐフェアリー)の放った必殺のグリース呪文により、何百フィートもある巨大なトート神を"まるでバナナの皮を踏んだ道化師のように"転倒させていた。
これは、奇しくも日米両方のD&D小説展開で「神ですらグリース」が行われていたということであり、当時の環境で「最低レベルの呪文で最高の効果」を発揮するグリース呪文が、いかにゲーマーに愛され猛威を振るっていたかの一端を知ることができる。

 

〈蜘蛛網/アラーネウム〉蜘蛛糸/ウェブの魔法
《ウェブ/クモの巣》 ウィザード2Lv呪文

何層にも重なった強靭な粘着性の糸の塊を作り出し、入り込んだものを絡めとる。効果範囲内の者は「絡みつかれた状態」となり、さらに反応セーヴに失敗するとその場から動けなくなる。抜け出すのに筋力判定または脱出術判定が必要と、これも強力な戦場コントロール術である。地味に呪文の持続時間が長く、フリーダム・オヴ・ムーブメントの無い低レベルでは引っかかってしまうと抜け出すのが困難である為、そうなったら火属性の呪文や松明で焼き払った方が早い。

なお『最果てのパラディン』では上から網が降ってきたが、D&Dでは網を張る為に「2つ以上の相対する固定点(床と天井、両側の壁など)に固定しなければならない」とあり、この条件を満たすかどうかルール裁定で揉めることが多く(壁から地面に向けて斜めに張れないかなど)、このため時間の限られたコンベンションなどでは事前に使用禁止を通達される事も多かった。

 

〈灯火の川港/トーチ・ポート〉

『君が作る街、トーチ・ポート 』、略称「みがる=まとと」
これはD&D系ゲームサークル<RAINBOW>のメンバーが中心となって多数のユーザーからの投稿を募り作り上げた、「D&D初心者に便利な町を」という理念にのっとってデザインされた日本オリジナル街設定資料集である。(ホビージャパン刊、2006)

街の特徴としては中央の入り江を挟んで西町(男爵領)と東町(伯爵領)左右に分かれており、それぞれ権力中枢が違っている。
このことによりNPCのレベルやGP上限(買い物出来る金額、販売品の上限)を低めに抑えているが、イベント解決により2つの町から「小さな都市」へとランクアップすることで買い物上限を上げ高レベルとなったパーティにも対応出来るようデザインされている。また上記『若獅子の戦賦』でもキャンペーン・セッティングとして使用されていた。

D&D 3.5版がフィーバーしていた当時はこの『トーチ・ポート』以外にも『ワースブレイド/d20』、『メタルヘッド/d20』(評判は最低)などの日本オリジナルD20関連書籍が次々と刊行されたもんだが…今となっては本棚にずらりと並んだサプリメントだけが、往時のD20バブルを偲ばせる。