Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

はじめに

このブログは丸山くがね氏の小説『オーバーロード』について、そのユグドラシル世界に大きく影響をあたえているであろう、ダンジョンズ&ドラゴンズ3.5版(以降D&D3.5e)視点から、元ネタを考察していく個人的な備忘録です。
オーバーロード内からのものは〈山カッコ〉、D&D3.5e出典のものは《二重山カッコ》で表記しています。
またD&D3.5eについては、特に記載ない限り基本ルールブック3冊(PHB,DMG,MM)からの出典です。

自分は3版系で邦訳された分はほぼ全てルールブックを揃えていますが、なにぶん物量が多く未訳まで含めると甚大な量となります。また丸山くがね氏がプレイ経験を明言しているクラシックD&D(赤箱)、ダンジョンズ&ドラゴンズ4版、ソードワールドガープスなどについての知識はほとんどありません。
そのため勘違い、的外れな考察もあるかもしれませんがそこはご了承ください。

追記ログ

2026/03/01 "鮮血の戦乙女" シャルティア・ブラッドフォールン
アイテムや能力の補足説明について追記

2026/02/13 「半森妖精の神人」描写から見るルール その5
根源の土精霊について追記

2026/02/08 ワールドエネミー 『九曜の世界喰い』
画像追加、データ微修正、戦闘の補足、AMF対策について追記

2026/01/16 D&D(←この時点で要注意)というお話
ベーシックビギナーズガイドについて追記整理

2025/12/16 D&D(←この時点で要注意)というお話
赤箱D&Dにおける豚オークについて、もひとつ追記

2025/10/21 私はな、根本的に自分だけが選ばれたとは考えていないのだ。
『亡国の吸血姫』における描写について追記

2025/10/12 没データ
『やってきたよ、ドルイドさん!』について追記

続きを読む

どうしてRPGの中世ファンタジー世界では、キリスト教の扱いが軽いの?

そりゃあ扱い方次第では厄介なことになるのは火を見るよりも明らかで、実際色々と厄介なことが過去にあったわけで……この話はやめよう  ハイ!やめやめ

とはいえ、せっかくなので最初のRPGであるD&Dにおいて宗教や神格がどのように生まれ、どのような性格を持っていたのか、昔話として解説してみたい。

もちろん「D&Dは悪魔のゲーム」バッシングを受けてのAD&D2e時代ゼブ・クックによる「ママに見せられるゲームにしよう!」という方針転換、デーモン/デヴィル/エンジェルといった用語の改名、さらにはD&D3eでそれらが種族設定として整理・定着していく過程、古参デザイナーからの『不浄なる暗黒の書』批判など、面白エピソードはいくらでもある。

だが、それらはいずれもD&Dシリーズが商業的に成功し、ゲーマー以外にも知られるほどの影響力を持った「後の話」だ。今回はさらに源流であるゲイリー・ガイギャックス個人卓の時代まで遡る。

 

時は1972年頃、オリジナルD&Dが出版される2年前である。後にD&Dと呼ばれることになるファンタジー・ゲームを遊んでいた当時のプレイヤーたちは、各々好き勝手に「クロム」だの「オーディン」だのの名を口にしていたらしい。だが、その中には「この世界専用の、ちゃんとした神を用意してほしい」とガイギャックスに求める者もいた。

その要望に彼がユーモアたっぷりに応えた結果、生み出されたのが次の二柱である。

  • 聖カスバート/Saint Cuthbert of the Cudgel
     不信心者の頭を棍棒でどつき、「教え」を物理的に叩き込む神。*1

  • フォルタス/Pholtus of the Blinding Light
     「フォルタスこそ唯一の神、フォルタスこそ秩序にして善。他はすべて異端!」

この、なんとも世俗的で、心が狭く、癖強な神々こそが、RPGの歴史において最初に生まれた完全オリジナルの神格なのである。

 

 

このように最初から“敬虔さ”ではなく“皮肉”を込めて作られていたD&Dの神々だが、だからといってガイギャックスが不信心者だったわけではない。むしろ当時の彼は敬虔なキリスト教徒であり――はっきりと言ってしまえば「エホバの証人」の信者であった。

 

この事は和訳された伝記では触れられてない点であるが、「ゲームの仕事が忙しくなって、なかなか教会の集会に出席できないことを心苦しく思っている」趣旨の書簡が残っていたり「敬虔なキリスト教徒はクリスマスを祝わない」発言、また息子アーニー(Ernest Gygax)が学校での「忠誠の誓い」に際して国旗への敬意表明を拒み教師から体罰を受けた場面を、同級生で後にD&Dデザイナーとなるスキップ・ウィリアムズが目撃した、という闇深エピソードも伝わっている。

 

そうした背景を踏まえると、1980年代に「D&Dは悪魔のゲーム」というバッシングが巻き起こり、ガイギャックス自身がメディアの前面に立って反論せざるを得なくなったのは、なんたる悲劇。

彼はテレビ番組で「D&Dは空想の遊びにすぎない。実際に悪魔崇拝や殉教が行われるわけでもなければ、現実の暴力を助長するものでもない」と説明したが、そのような主張は(彼の皮肉ったフォルタス信者のような不寛容な人々には)受け入れられることは無く、結局長年所属した信仰コミュニティからも排斥処分を受けることになった。

敬虔な信徒であった男が、自ら創造した架空の悪魔や神々のせいで“悪魔の代弁者”のように扱われ、信仰と創作の板挟みで苦しむこととなる……これ以上の歴史の皮肉があるだろうか。

 

 

話題を記事表題の「RPGの中世ファンタジー世界におけるキリスト教の扱い問題」、ここではガイギャックスの個人卓「グレイホーク」世界の宗教について戻そう。

 

そもそもオリジナルD&Dは中世ミニチュア・ウォーゲームを源流としているし、またクラス:クレリックのイメージソースには、中世の宗教騎士団(おそらくはナイト・ホスピタラーのような存在)がDMGに挙げられている。そんな状況を鑑みればグレイホーク世界も、より「騎士道物語」寄りの構造、すなわちガイギャックスが愛読しアライメント(属性)概念の着想源ともなったポール・アンダースンの著作、『魔界の紋章/Three hearts and three lions』や『折れた魔剣/The broken sword』の世界ように

ヨーロッパの妖精や古き神々=混沌の勢力
VS
新しき「白い神」=法の勢力(キリスト教的秩序)

といった明確な(いっそメガテン的な)宗教的二項対立を導入することも可能だったはずである。またトールキンの『指輪物語』のような「基本的には宗教的でカトリック的作品」という方向性を取ることもできただろうが、そうはしなかった。

そこにはファンタジー小説愛好家としての嗜好、宗教や倫理を主題に据えるのではなく、何よりも重要なのは「冒険の舞台」であるという姿勢。

そして同時に「現実の信仰と空想のゲームは別物である」という創作者としての理性的な判断があったと考えるのが自然だろう。

 

フリッツ・ライバーの『ファファード&グレイ・マウザー』に登場するランクマーの世俗的な神々。

ジャック・ヴァンスの作品でキューゲルが出会った様々なイカれた宗教たち

ハワードの英雄コナンは「クロム!」と神の名を叫び、だんびらを振り上げる。

そこにあるのは救済を約束する唯一神じゃない。
人間と同じく、気まぐれで、偏狭で、時に滑稽な神々がうごめく世界だ。

そういった幻想世界を、彼は愛したのである。

 

 

参考書籍:『Slaying the Dragon: A Secret History of Dungeons & Dragons』(アマゾンリンク

*1:個人的に聖カスバートのイメージは漫画『ベルセルク』のモズグス様。かつて「ふたば」でよく見かけた、例のコラ画像である。

バランス調整による再構築 『ウィザードリィ:狂王の試練場』の再評価

本ブログでは以前よりウィザードリィ#1についてAD&D1eルールとの比較・検証を行ってきた。
しかし筆者のシナリオ1プレイ体験は何十年も前のファミコン版によるものであり、記憶も薄れつつあるうえACバグの存在する環境だったというアレな問題もある。

そこで今回はACバグのない、かつ元祖Apple II版に比較的近いと思われるPC-88版を改めてプレイし、データから読み取れるウィザードリィの変更点が実際のゲームプレイの体感と齟齬がないかを検証することにした。(……というほど大層な目的もなく、ただ単に古いゲームをちょっとやりたくなっただけ)

 

ウイザードリィのせかいにようこそ
デュプリケイトディスクをつくらないとプレイできません

さて、ゲームを始めてまず最初にファミコン版との違いとして気になったのが、キャラクターメイキング時およびパーティ編入時に、毎回パスワードの入力を求められる点である。(めんどくさっ)

この仕様はウィザードリィの出自がPLATO上で動作していた最初期コンピュータRPGにある点、すなわち複数プレイヤーが各自のキャラクターを持ち寄って遊ぶマルチプレイヤー型RPGであったことの影響を色濃く残したものだろう。キャラクターの個別管理を前提としたセーブデータ設計がパスワードとして残ったのだと思われる。

 

能力値ボーナスの厳選もそこそこに(ファミコンに比べもっさり動作のPC版で何度もやりたくない)キャラメイクを終え、いつものように酒場で仲間を集め街はずれから迷宮に潜る。

ENTERING
PROVING GROUNDS OF MAD OVERLORD

漆黒の闇のただ中、淡く浮かび上がるワイヤフレーム。
完全な静寂に支配されたダンジョンの奥底に響く、冒険者たちの足音(ビープ音)。

今まさにキミは「運命の大迷宮」へと降り立った。死と隣り合わせの探求の旅が始まろうとしている……

 

で、さっそくオークやらコボルドたちと戦ってみたわけだが……攻撃がまったく外れない。事前の予測では命中率は7割程度になるはずだったのに、実際には9割オーバーのほぼ全弾命中である。
サクサクと敵を屠る勢いのまま、地下二階へと進む。

するとこちらのLv1プリーストやLv1メイジ相手では、ようやく攻撃を外す場面が出てきた。体感命中率はおよそ7割ほどで事前の予想どおりの感触に落ち着く。

ここで一旦、「物得屋」掲載のモンスターリストを確認して納得。地下二階に出現するモンスターはガスクラウドのAC10を除けばAC6~4と、Lv1パーティに対しては常識的な数値になっている。
ところが地下一階の出現モンスターは、AC12、AC8、AC10、AC10、AC8と、どれもやたらと柔らかい。

オーク AD&D1e ウィザードリィ#1
HP  1d8  1d4
AC  6  10
ダメージ  1d8 or 武器による  1d4

 

コボルド AD&D1e ウィザードリィ#1
HP  1d4  2d3+1
AC  7  8
ダメージ  1d4 or 武器による  1d2+1 ×2

まずAD&Dにおいて人間が防具を一切装備せず、棒立ち(=Dexボーナスが無い)状態でのアーマ・クラスが10(≒50%回避)とされる。

またオークやコボルド、ホブゴブリンといったヒューマノイド系モンスターは、武装しているのが当たり前である。そのためACは概ね5~6程度になるのが一般的だ。

それを踏まえて上記データを見てみると、オークの著しい弱体ぶりが目につく。対してコボルドのほうはAD&Dでの1HD未満という扱いから2HDへと引き上げられており、これは大きな強化と言える。しかし2回攻撃でもダメージは抑えられ気味でACは8しかなく、結局はオーク同様にサクサク殺れてしまい、体感的にはそこまで強さの差を感じなかった。

ウィザードリィ#1はシビアだ、いや簡単だ。そうした評価はプレイした環境や年代、ゲーム遍歴によってさまざまに分かれるだろう。だが一つ確かなことがあるとすれば「地下1階はヌルくしてある」という点だ。
そのようなバランス調整の意図が、ACの変更点から垣間見えてくる。

 

 

そしてさらに驚かされたのが、バブリースライムのステータスである。

過去のファミコン版からの経験によりウィザードリィ#1においてバブリー・スライムが最弱モンスターであり、D&D系スライムの凶悪な部分が全く再現されていないことについては十分承知していたのだが、今改めてそのデータを確認して驚いた。

なんとアーマ・クラスが12である。

 

……と言われてもピンと来ないかもしれないので、順を追って説明しよう。

まず上記の通り、基点となる無防備状態でのアーマ・クラスが10。

次にモンスター・マニュアルを見てみると、グリーン・スライムやイエロー・モールド(黄色カビ)といった、そもそも回避行動が不可能なモンスターのACが9に設定されており、これらが実質最低限の数値となっている。

さらにダンジョンマスターズガイドの命中判定表を確認すると、そもそも表自体がAC10からAC-10の範囲までしか無く、そこには「アーマークラスが10より悪くなることは、呪われたアイテムによる場合を除いてありえない」とも記述されている。

以上を踏まえればバブリースライムのAC12という数値が、AD&Dモンスターの常識からいかに逸脱したものか理解できるだろう。

これはもはや、当時のプレイヤー(少なくともアメリカではAD&Dを知っていて当然だった層)に対し、グリーン・スライムと勘違いさせて驚かせるためだけの、一種のジョークモンスターだったのでは?

 

そういった観点から改めてウィザードリィのモンスター配置を見てみると、地下1F~5Fまでは、それぞれ1種類ずつ、ユーモアのある捻った名前のモンスターが配置されていることに気づく。

B2Fにはボーパルバニー(首切りうさちゃん)

B3Fはカピバラ(不確定名称は「巨大げっ歯類」)

B4Fがドラゴン フライ/DRAGON FLY(DRAGONFLYすなわちトンボではなく、ドラゴン・フライだ火を噴くぜ!)

B5Fにはドラゴン パピー(PUPPYは日本語にすると「子犬」、「わんこ」ぐらいの意味)

これらも「日本では理解されなかった」ウィザードリィのユーモア成分になるのかな?

 


個人的に重要な変更点と考えているもの、まとめ

  • 命中修正および攻撃回数の調整による戦闘テンポの改善

AD&D1eに比べWizardry#1の戦士系クラスは、低レベル帯での攻撃命中率が大きく底上げされており、その上昇幅はおよそ30%に達する。

またレベルアップによる命中修正はAD&D1eに比べ1/3と穏やかなものの、攻撃回数の上昇スピードはかなり大きく、これらの調整によって戦闘のテンポは早まり、彼ら戦士は前線を支えつつ敵を次々と倒していく「主戦力」、「英雄」としての存在感が強調されている。(古参D&Dゲーマーの中にはファイターを「ただの肉壁」呼ばわりする声も少なくなかったが、ウィザードリィゲーマーからそのような意見は聞いたことも無い)


またWizardry#1のモンスターにはAD&D1e『Monster Manual』のステータスをほぼそのまま踏襲しているものも少なくない。しかし実際にはヒット・ポイントを複数種類のダイスで細かく調整するなど、独自の手が加えられているものが多数である。

さらに最初の冒険の舞台である地下1階では、各種モンスターのACが全般的に(AD&D準拠と見なした場合には不自然なほど)高く設定されており、ゲームバランスに対して入念な調整が施されていることが明確にうかがえる。

もしこれら「戦士系クラスの命中率」に関わるボーナス修正がAD&D1eのままであった場合、低レベルでは『Rogue』(1980)のように「攻撃の2回に1回は外れる」という、戦闘テンポの悪いものになっていただろう。

 

  • 一部モンスターのダメージ調整

バランス調整の顕著な例として、AD&D1eの「Red Dragon」と比較するとWizardry#1の「ファイアードラゴン」はブレス・ウェポンのダメージも物理攻撃のダメージも、いずれも半分に抑えられている。 この差異は以下のような要因によるものと考えられる。

1. Wizardry#1はCRPGであり、TRPGのようにDMとのやり取りを通じて戦術的優位を得ることができない、正面戦闘するしかない。
2.  AD&D1eに存在したResist Fire(レジスト・ファイア)呪文に相当する防御魔法が実装されていない。
3.  AD&D1eにあった「巣穴でドラゴンが寝ている確率」ルールが存在せず、能動的に不意打ちを仕掛けることが出来ない。


こうした要素を踏まえるとWizardry#1におけるドラゴンの攻撃力が抑えられているのは、プレイヤー側の選択肢の少なさを補い、ゲームバランスを成立させるための意図的な調整であると推測できる。

 

  • 固有の武器データ:最低攻撃回数

AD&D1eには無いWizardry#1オリジナルのルールとして、各武器に固有の「最低攻撃回数」が設定されているという特徴がある。

分かりやすい例を挙げると、ロングソード+1は最低2回攻撃、ロングソード+2は最低3回攻撃といった具合に、武器の強化段階に応じて攻撃回数の下限が保証される仕組みになっている。D&D系における武器+1強化が、ダメージと命中が1増えるだけで強化を実感しにくかったのとは対照的である。

これにより上位武器を早期に入手できれば、与ダメージの増加や戦力の上昇を攻撃回数として実感しやすい。この設計は戦闘における成長と報酬を直感的に結びつけるものであり、ハック&スラッシュを強く意識した改変と言えるだろう。

 

 

他にもセーヴィング・スローの上昇率など調べ上げていけば細かな調整(AD&Dを再現できなかった故の仕様ではなく、意図的な変更点)はまだいくつも見つかるだろうが、自分が特に感じた重要点は以上である。

稀に「ウィザードリィはAD&Dを不完全に移植したものでCRPGとしての昇華など行っていない」といった言説も見かけるが、両者のルール変更点を精査してみると、とてもそうとは思えない。

確かに内部解析から見える計算式はAD&Dに基づいている。しかしTRPGの文法を一人用コンピューターRPGへと適応させるために施されたデータ変更、バランス調整により両者はもはや似て非なる別物へと変貌を遂げている。

その戦闘バランスの完成度はウィザードリィ#1を今なお「初期コンピューターRPGの金字塔」と呼ぶにふさわしいものだろう。そして何より、ゲームとして純粋に面白い。

 

 

補足情報

※標準的なAD&D1eファイター1Lv(筋力18/01-50)が、オーク(一般的な1HDヒューマノイド、AC6)に対し攻撃する場合、ダイス目13以上で命中する(命中率40%)。

一方、オークがファイター(チェイン・メイル+シールド、AC4)を攻撃する場合、出目15以上で命中する(命中率30%)。これらの命中率は後のD&D3eや5eに比べると10%ほど低く、独特の泥仕合感がある。この戦闘感覚はD&Dの出自がウォーゲームであったことと深く関係していると考えられる。

 

※ウィザードリィ#1が大きな影響を受けたとされる『Oubliette』(1977年11月)におけるオークはAC4、コボルドAC7。AD&D1eやOD&Dに比べてオークが硬いのが特徴。なおOublietteは開発時期及びルール的にオリジナルD&Dをベースとしているのが大部分だが、現在参照できるモンスターデータを見たところリリース当時には存在しないAD&D1e『Monster Manual』(1977年12月)初出のデータが複数含まれている。これはOublietteの開発が1977年春から始まり、1982年頃まで継続的にアップデートが行われていたとされ、その間に参照ルールもオリジナルD&D→AD&Dへとデータを追加、拡張していった為と思われる。

 

※そも初期D&Dは敵対ヒューマノイドの集団やドラゴン、巨人など強敵に対する正面戦闘は必ずしも推奨されるプレイスタイルではなかった。ヒーローが雑魚相手に大暴れする(1HD未満の敵に対し攻撃回数増加)ルールもある事にはあるが、低レベルPCにとって正面突破はあまりにリスク(死亡率)が高すぎるし、経験値の多くは財宝(ゴールド)からも得られるからだ(財宝=経験値がオプションルールになったのはAD&D2eから)。直接戦闘は避け、知恵と工夫で困難を乗り切り、生きて財宝を持ち帰る。そんなプレイを美徳とする傾向は当時の代表的なモジュール(シナリオ)の構造からも見て取れる。

対してウィザードリィは経験値獲得の手段はモンスターを倒すしかない。当時のコンピューター性能による制限により、AD&Dが持っていた多面性をそぎ落とすしかなかったのだろう。最初期CRPGは経験値およびレベルアップ手段も色々と模索されていたようだが(例えば『Oubliette』では経験値だけでなくギルドへの寄付が必要だが、これはAD&D1eのトレーニングルールが着想元になっていると思われる)、そうした流れの中で経験値取得をモンスター討伐一本へと単純化し、レベルアップに訓練費用も不要としたウィザードリィを前向きに評価するならば「正面戦闘前提のハック&スラッシュ」へとシステムを再定義したとも言える。

 

※D&Dにおいて戦士系クラスの強化を求める声は初期の頃よりコミュニティ内で根強く存在していたが、それがAD&D公式として結実したのは1985年刊行のサプリメント『Unearthed Arcana』におけるWeapon Specializationルールの導入を待たねばならなかった。この時系列を踏まえると、攻撃回数が5レベルごとに増加していくウィザードリィのシステムは、戦士系クラスの数値的強化をかなり早期に実現していたと評価できる。

もっともD&Dゲーマーにとってはハウスルールによる調整は当然の感覚であり、いかにウィザードリィがそれを早期に実現していたとしても、革新的とはいえないだろう。

 

※スライムの攻撃について「顔に張り付いて窒息させる」「酸による攻撃」などといった伝聞が日本では多く見られるが、本来のグリーン・スライムのそれは接触した部位から肉体が溶解、同化していくという、きわめておぞましく致命的なものだった。(死体もドロドロなので蘇生できない、ウィズ的に言えばロスト)

モンスターマニュアルにステータスこそ書かれているものの、もはやグリーン・スライムはモンスターというより環境型即死トラップである。(実際、後の3.5版ではクリーチャーではなく、"ダンジョンの環境"扱い)

「洞窟の通路は幅10フィート。岩肌は湿気が強く、頭上からは時おり水滴がポタポタと落ちてくる。壁面にはところどころ、苔やヘドロのようなものがへばり付いている……」こういったDMの状況説明に対して、プレイヤーが「天井を松明で注意深く照らす」「10フィート棒でつついてみる」といった適切な行動宣言を行わなければ地獄への超特急となる。

 

※PCのアーマ・クラスについて:ウィザードリィ1lvの前衛キャラクターが初期ゴールドで防具を買いそろえると、おおむねACはAC5(チェインメイル+スモールシール)となる。また後列キャラからお金を集めた場合はAC3(ブレスト・プレート+ラージシールド)まで下げれるだろう。この値はAD&D1eファイター1Lvの平均的なAC4~3(チェインまたはスプリント・メイル+シールド、あればDexボーナス)に近い値であり、被弾率の体感もあまり変わらないと思われる。そしてAD&D1eも3.5eと変わらず、オークに2回殴られると死ぬ。

ウィザードリィではオークが弱体化されているため、これに殴られても期待値的にすぐには死なないが、かわりにブッシュワッカーに2回殴られると死ぬ。(というかB1Fモンスターの中では飛びぬけて与ダメ能力が高く危険)

 

※ウィザードリィ#1~#3までの戦闘システムにおける命中修正「低レベル時の底上げ」については、実のところロングソード系武器に付与された+4という命中修正が単純に大きすぎただけという気もする。

レベルあたりの命中修正はウィザードリィ#5において見直され、戦士系クラスで「底上げなし、レベル÷2」の上昇率へと改められたが、低階層モンスターのACは引き続き高めに調整されており、#1のB1Fのような「ほぼ全弾命中」こそ見られないものの、命中率はおおむね50%を上回る水準に保たれている。

また#5の大きな特徴として、上位武器のダメージが「見かけ以上に大きい」点が挙げられる。
D&D経験者、あるいはローグライクゲーマーであれば「ロングソードのダメージは1d8、+2強化したなら1d8+2(期待値6.5)」という数値は疑いようのない前提知識だろう。

ところがウィザードリィ#5では、この前提が大きく覆されている。たとえばロングソード+2が1d10+7といった形で再設計されており、上位武器への乗り換えによる与ダメージの上昇を強く体感できるようになっている。
これはすなわち戦闘能力における装備品の比重を明確に増やす方向への調整であり、ハクスラRPGとして見れば、きわめて順当な進化だと言えるだろう。

(もちろんウィザードリィシリーズを一括りにハクスラとするのには問題がある。ロバート・ウッドヘッドはそれ以前の最初期CRPGと比較した際の『ウィザードリィ#1』の独自性としてシナリオの存在を挙げているし、それ以降の展開(とくに#4、#6、#7)の方向性を見ても、物語性を重視した進化であったと言えるだろう。そう考えると「日本では戦闘システム重視のシビアなゲームバランスが好まれた(ゲームボーイの外伝作など)が、一方海外ではそうではなかった。4以降の『ウルティマ』のようにRPGは世界観や物語の広がりが重要視された」といった方向へ議論を発展させることも可能だろう……が、自分の狭い見識で断定的な結論を下すことは避けておきたい)

 

※このブログでは以前に、AD&D1eの呪文ルールに存在する「術者レベルによるダメージの増加」および「術者レベルによる魔法抵抗(MR)突破率への補正」といった要素がウィザードリィに実装されなかった点について愚痴めいたことを書いていた。しかし少なくともクリア想定レベルがおよそ14程度であるシナリオ#1に限って言えば、これらが欠落していることは大きな問題とはならず、呪文レベルによる段階制スケーリングによって戦士系クラスと術者クラスのパワーバランスは概ね適切に保たれていたと評価できる。

……のだが和製ウィズの「ドラゴンの洞窟」などといった高レベルインフレ環境では、これはもはや破綻しているとしか言いようがない。しつこいようだが「和製ウィズは、いつまでも古いシステム引きずってないでD&D3版系からパクれ!」というのが持論である。

 

※なお、ここで無装備状態のニンジャ=全裸、AC10=全裸というゲーマー見解をもってウィザードリィを再解釈すると、以下のような危険地帯(デンジャー・ゾーン)が出現してしまう

『狂王の試練場』地下1階には、「みすぼらしいおとこ」や「にんげんがたのいきもの」が全裸で突っ立っている!

「ウホッ!いいオーク」 「俺はノンケだってかまわないで食っちまうハーフオークなんだぜ(キングメーカーのレゴンガー )」などといったよろしくない妄想が次々溢れ出してくるが、いいかげんやめておく

D&D3.5e突撃兵ビルドとサイ皮鎧のその後

D&D3.0eにおけるマジックアイテム「ライノ・ハイド」アーマー(サイ皮よろい)の効果についてはビオラインリードの記事で知った、というローグライクゲーマーの方も多いかと思われる。

突撃/チャージ時にダメージを2倍にする*1という単純にして強力なその効果は、チャージ特化キャラビルドのシナジーにおいて「壊す」ための最重要要素の一つとなり、Rhino Hide(3.0e)は、その設計思想・費用対効果・ゲーム内影響から、D&D3.0eのバランスの粗さを象徴するマジックアイテムの一つとして語られることもあった。

当然ながらこれは後継アップデートであるD&D3.5eでは弱体化され、効果は「突撃時に追加で2d6ダメージ」へと変更された。そのため3.5e のチャージャー系ビルドにおいて必須アイテムではなくなり、3.5e時代の最適化論(Min/Max)ではライノ・ハイドはほとんど話題に上らなくなった。*2

 

しかしD&D3.5eにおいてもチャージ特化ビルドは依然として最強クラスのダメージディーラーであり、その中でも特に著名だったのが、いわゆる「飛びかかり突撃兵/Ubercharger/Pounce Charger」などと呼ばれていたビルドである。

 

下記がその主要成分となる

  • 突撃/Charge:最低10フィート直線移動後1回の近接攻撃。命中+2ボーナス、およびACに-2ペナルティ。
  • 特技《強打/Power Attack》:攻撃ロール(命中)に任意のペナルティを与える代わりに、その値をダメージに上乗せする特技。両手武器では下げた命中の2倍をダメージに加算でき、ペナルティは基本攻撃ボーナス(BAB)まで選べる。
  • 飛びかかり/Pounce :突撃後、1回攻撃ではなく全力攻撃/フルアタック(複数回攻撃)が可能となる。通常は主にネコ科動物が持つ特殊能力だが、PCにもバーバリアン代替クラス特徴《ライオン・トーテム》*3やサイオニック・パワー《サイオニック・ライオンズ・チャージ》*4、ライオンズ・チャージ呪文*5など、複数の取得手段がある。今回のビルド成立には多数の特技が必要なため、基本的にバーバリアンベースにファイター2~4Lv混ぜを想定してる。
  • 特技《跳躍突撃/Leap Attack》*6:突撃時、跳躍/ジャンプで水平距離10フィート以上を移動すると、《強打》のダメージ変換率が上昇し両手武器なら3倍になる。
  • 特技《突撃兵/Shock Trooper》*7:3つの戦術効果を持つ特技。中でも《無謀な突撃》の効果は、突撃時に《強打》を使う際、強打の命中ペナルティを命中ではなくアーマークラスに移せる。

 

これらを組み合わせることにより、戦闘開始→バーバリアンが敵一番の大物にすっ飛んでいく→突撃、相手は死ぬ。といった具合になる。バーバリアンも《無謀な突撃》の効果で紙装甲となっており放っておくと死んじゃうためサポートは必須だが、このような盤面から敵主力を短時間で排除できる火力ユニットは、高レベル帯になるほど特に有益である。

この時点で十分強力なビルドであり、10レベル、ヘイスト込みでダメージ期待値200近くは出せてしまい、同レベル帯でこれに耐えられるモンスターはほぼ存在しないのだが、下記要素を加えるとさらにダメージが爆発する

 

  • 上級クラス:フレンンジード・バーサーカーのクラス能力《強打強化/Improved Power Attack》および《強打超強化/Supreme Power Attack》*8:強打のダメージ変換率がさらに上昇する。とくに《強打超強化》を取得すると両手武器使用時の強打ダメージは「1点の命中ペナルティにつき+4」へと上昇し、これに《跳躍突撃》を組み合わせた場合、「1点の命中ペナルティにつき+5」のダメージを得られる、ヤバスギ。
  • 鳥人種族ラプトランの持つ能力《急降下突撃/Dive Attack》*9:刺突武器を持ち、ダイヴしながら突撃するとダメージ2倍。条件として最低30フィートの水平移動と、少なくとも10フィートの降下が必要。

 

雑に20Lv時のダメージを計算してみると:基本攻撃ボーナス(BAB)は20なので、ACに-20ペナでダメージに+100ボーナス、ヘイストまたは狂乱の追加攻撃込みで5回攻撃、それが急降下突撃で2倍なので1000ダメージは確実に超えちゃいますね……

 

まあバーサーカーは勝手に《狂乱/フレンジー》して味方まで殴りに行く危険なクラス*10だし、《急降下突撃》と《跳躍突撃》の両立も条件が厳しく(跳躍判定が相当高くないと成立しない)、そこまで無理してビルドに組み込む必要があるのか?とは正直思う。

だがデータがある以上、破壊力の限界を求めずにはいられないのがパワーゲーマーの性である。

だってこれ、マジック:ザ・ギャザリングの会社がつくったゲームだよ?

データいじくりまわしてシナジー爆発させるのが楽しくて仕方ない、そういうふうに出来てるオモチャなのよ!!

 

……と、一人盛り上がってしまったが、上記のようなビルドが猛威を振るったのはもう20年近くも昔の話であり、いまさら掘り返すほどの話題でもないやもしれぬ。それでもオバロ二次創作かなにかの参考になるかもしれないし、また漫画『異世界マンチキン』にスパイクト・チェインを振るうH.F.O三人組が登場したりなど、どこかで D&D3版系の雑学が再び脚光を浴びる可能性もゼロではない、のかもしれないので(笑

*1:ルール補足:D&D3版系において2倍は+100%として計算する。すなわち騎乗ランスチャージのダメージ2倍にライノ・ハイドの2倍を合わせても4倍にはならず、これは3倍ダメージとなる。ウォーズマン理論も2×2×3=1200万パワーとはならず、500万パワー・スクリュードライバーとなる

*2:ルール補足:クリティカル・ヒット等でダメージが倍加される場合、「武器本体のダメージ」と筋力修正、強化ボーナス、強打などの「固定値のボーナス」は倍化されるが、急所攻撃や属性エネルギー・ダメージ付与(フレイミングなど)などの「追加ダメージ・ダイス」は倍にならない。よって3.5版ライノ・ハイドの追加2d6ダメージはランスチャージなどの倍々系と絡めても数字が増えず、おいしくない

*3:バーバリアン1Lvの能力:高速移動と振替。『勇者大全』記載

*4:サイキック・ウォーリアー2レベルパワー、『サイオニック・ハンドブック3.5版』記載

*5:レンジャー、ドルイド呪文、『呪文大辞典』記載

*6:サプリメント冒険者大全』記載

*7:サプリメント『戦士大全』記載

*8:サプリメント『戦士大全』記載

*9:サプリメント『自然の種族』記載

*10:これに対して「朝一で近所の森に一人で行って《狂乱》を使い切ってきます」などと宣言するマンチプレイヤーもいたという……もともと《狂乱》がなくてもフレンジード・バーサーカーは十分に強力な上級クラスなのだが、戦闘で狂乱しない狂戦士というのも、いかがなものか

フルプレートって誰が言い出したの?

ウィキペディアの記事によれば「全身を覆う板金鎧」、すなわちプレート・アーマーを指す「フル・プレート」という呼称は、ファンタジーRPGの普及によって一般化したものであり「完全な造語」とされている。

またメイル=鎖帷子であるためチェインメイルは重複表現で誤りとされること、リング・メイルやバンデッド・メイルは実在が疑われていること、スタデッドレザーアーマーはブリガンダインを誤解したものなど、近年よく挙げられる鎧ガチ勢からの指摘はいったん脇に置くとしても、プレート・メイル/ハーフ・プレート/フル・プレートといった鎧名称そのものが、中世当時に実際に使われていた用語ではない点は押さえておく必要がある。これらの呼称は近代以降の軍事史研究や歴史復元の分野で、鎧の発展段階を整理するために作られた分類に由来しており、その後ゲーム向けに再編されて広まったものである。

 

では「フル・プレート」を何時、誰が、どこから広めたのか?といえば……皆さんお察しの通り、1985年にAD&D1e追加ルール集からガイギャックスが広めたのである。

 

ガイギャックス!!!
時空を超えてあなたは一体何度 ――
我々の前に立ちはだかってくるというのだ!(キバヤシ談)

 

順を追って解説してゆこう

まずは実在の板金鎧の発展状況についてまとめ

時代 鎧のタイプ 中世ヨーロッパ?
13〜14世紀 チェイン主体+部分プレート 中世(盛期〜後期中世)
14〜15世紀初期 トランジション(ミックス) 後期中世
1450〜1480 全身プレートに近い 中世末期~初期近世
1480〜1520 完成したスーツアーマー ルネサンス/近世

注:19世紀ヴィクトリア朝の武具研究家たちはmailを「鎧全般」を指す語として誤用しており、それが“Plate Mail”などの用語を生むことになった。

しかし現代の研究では、このような用法は否定されており(アジア圏の一部の鎧を除けば)西洋の板金鎧にmailを付ける表現は用いられていない。

以上を踏まえたうえで初期D&Dシリーズ、ルールブックの記述を追ってみる。

 

『Chainmail: Rules for Medieval Miniatures』(1971初版、1972第2版でFantasy Supplementが追加)

*D&Dの原型であるミニチュア・ウォーゲームにおいては「APPENDIX B:MAN-TO-MAN MELEE TABELE」(個人対個人の近接戦闘命中表)においてLeather Armor、Padded Armor、Chainmail、Banded Mail、Splint Mail、Plate Armorの7種と盾/shieldの組み合わせによる対ミサイル防御段階、"Class of armor worn by defender"の記述がみられるが、各種鎧がどういった区分なのかの具体的説明は無し。

 

オリジナルD&D Vol.1『Men & Magic』 (1974)

*p.14「BASIC EQUIPMENT AND COSTS」(基本装備の費用、装備品リスト)では“Plate Mail”と記述されているが、エンカンブランス(重量値)を用いた計算例では同装備が“Plate Armor”と表記されている。また、命中判定表「ATTACK MATRIX 1 : MEN ATTACKING」でも“Plate Armor”が用いられており、版内で用語が統一されていないことが確認できる。

 

『Dungeons & Dragons Basic Set』(1977)

いわゆる「クラシックD&D第2版」と呼ばれるもので、それまでに出版されたD&Dルールをまとめ直し、1〜3レベルまでの低レベル帯に対応した入門用ルールブックである。AD&Dへの導入を目的としておりD&D愛好家のホームズ教授が編集を担当した。

*本書における板金鎧の記述はおおむね“Plate Mail”で統一されているが、シールド呪文やプロテクション・リングの解説に一部“Plate Armor”が残っている

 

AD&D1e『Player's Handbook』(1978)

*本書も記述は“Plate Mail”で統一されているが、エンカンブランスの「非常に重い装備」例やサイオニックパワー:分子操作/Molecular Manipulationの解説に“Plate Armor”の表記が残っている

 

AD&D1e『Dungeon Master's Guide』(1979)

プレート・メイルは軽いチェインにプレートのパーツ(胴当て、肩当て、肘と膝のガード、すね当て)が組み合わさった鎧であり、重さはうまく分散されている。プレート・アーマーとは“full suit of plate”(フル・スーツ・オヴ・プレート、全身板金鎧)であり、一般にフィールド・プレート(field plate)と呼ばれるものは、従来のイメージより重さはそれほど変わらず、むしろ少しだけかさが減っている。キャンペーンでこのタイプの鎧を許可する場合、同じ重さを使用し基本の移動速度は9インチ、基本アーマークラスは盾なしで2となる。そのような鎧は非常に高価で、約2,000g.p.ほど。

出典:p.27「TYPES OF ARMOR & ENCUMBRANCE」より抄訳

 

注記:中世の各種鎧に詳しくない場合、チャールズ・フールクス/Charles ffoulkesの『ARMOUR AND WEAPONS』(オックスフォード 1909年版)が簡潔で役に立つテキストである。ここで私が選んだ鎧の種類はゲーム・システムに合わせて整理したものであり、それぞれ次のようなものを含意している。

  • レザー・アーマー(LEATHER ARMOR):キュイール・ブイリ(煮革)製で、上衣・レギンス・ブーツ・ガントレットから成る。
  • スタデッド・レザー(STUDDED LEATHER):レザーに補強用の小板(金属片)が打ち込まれ、肩の部分に追加の防護層がある。
  • リング・メイル(RING MAIL):革製の鎧に鉄の環を密に縫い付けたもの。
  • スケイル・メイル(SCALE MAIL):レザー・アーマーに小さな鉄製の鱗(スケイル)を重ねて取り付けたスーツ。
  • チェイン・メイル(CHAIN MAIL):説明不要であろう。
  • バンデッド・メイル(BANDED MAIL):チェインメイルの上に、横方向の帯状の連結された金属板を重ねて着る鎧。
  • スプリント・メイル(SPLINT MAIL):衣服の層の間に縦方向の金属板を挟み込み、チェインの上に着用する上衣。
  • プレート・メイル(PLATE MAIL):肩、胸、背中、肘、腰・股、脚部などの部分的なプレート(板金)をチェインメイルの上に装着したもの。

プレート・アーマー(Plate armor)は後期の発達形態であり、ここでは扱わない。すなわち1500年頃に用いられた、全身を覆う完全な板金鎧は本ゲームでは鎧の種類として使用しない。しかし読者は知っておくべきだが、このタイプのアーマーはプレート・メイルよりも軽く、より可動性が高かった! また価格も二倍から三倍した……

出典:p.165「ARMOR AND SHIELD (III.F.)」より抄訳

*ここで“full suit of plate”という記述が登場する、フル・プレートへ一歩近づいた形だ。またプレートメイルとプレートアーマーの相違点、さらにはAC2のプレートアーマーについての説明も見られるが、この時点では基本的に使用できない装備である(中世の鎧ではないから)。

ガイギャックスが参照している資料も古く、チャールズ・ジョン・フォークスは19世紀ヴィクトリア朝、ロンドン王立武器庫の管理人を務めていた人物。

そして、これまで幾度となく耳にしてきた「プレートアーマーは見た目より軽くて意外と動けるよ」というオタ雑学もここで述べられている……何十年も後になってもそれ言われてるから!

 

『Dragon』第72号(1983年4月号)

*TSR公式D&Dサポート誌のドラゴンマガジン72号において、ファイターのサブクラスである新クラス:キャバリア/Cavalier/騎兵が初登場。同時に、このクラスの装備としてプレート・メイルよりも高性能な板金鎧2種、フィールド・プレート・アーマー(Field Plate Armor)およびプレート・アーマー(Plate Armor)も紹介されている。

プレート・アーマー(Plate Armor)
地所を有する家柄の騎士または貴族的な生まれのキャバリアは、常にプレートアーマーを着用することになる。
この鎧は「プレートメイル」とは異なり、広範囲に鎖かたびらや金属板、厚い詰め物を用いる必要がない点に注意せよ。したがって、板金鎧は重量と嵩(かさ)の点でチェインメイルとほぼ同程度である。着用者は基本移動速度9インチで動くことができる。

すべてのプレートアーマーは個人に合わせて丁寧に仕立てられるため、千着に一着として他人に合うものはない。
プレートアーマーのアーマークラスは、製作の品質によって2または1である。
ゲーム上はこの二種を区別し、それぞれ「フィールド・プレート・アーマー(Field Plate Armor、AC2)」および「プレート・アーマー(Plate Armor、AC1)」とする。

この種の防具が個人専用である性質上、魔法のプレートアーマーが「発見」されることは決してない。もしキャバリアがこの種の魔法鎧を望むなら、自ら特別に製作し、付与の魔法を施させねばならない。その工程には複数週にわたる採寸、最も熟練したドワーフ鍛冶師による数か月の鍛造作業、最高級のミスリルまたはアダマンティン合金鋼、そして一年以上に及ぶ魔法の付与が必要となる。
その費用は付与される魔法の「プラス」ひとつごとに少なくとも十万ゴールドピースを超えるものであり、そのような鎧はきわめて稀少である。

出典:Gary Gygax “The Chivalrous Cavalier,” Dragon #72, 1983 より抄訳

*プレートアーマー/全身鎧が貴族階級だけの所有に限られる高級品・貴重品であり、しかも完全なオーダーメイドの装備であるというリアル志向の描写がある一方で、ドワーフ鍛冶師によるミスリルやアダマンティン製の板金鎧といった、RPG的な想像力が史実的な記述に溶け込んでいる点が面白く、なんともガイギャックス的である。

 

AD&D1eサプリメント『Unearthed Arcana』(1985年6月、著:Gary Gygax)

*上記ドラゴン誌のクラス:キャバリアを再録。同時に全身鎧も掲載となったわけだが、これら2種の鎧は既存のプレート・メイル(Plate Mail)と名称が紛らわしいためか、名称がそれぞれフィールド・プレート(Field Plate)、及びフル・プレート(Full Plate)へと改められた。
ここにおいてD&Dシリーズで初めて“Full Plate”という語が公式に用いられ、ここから「フル・プレート」という呼称がゲーマー間に広く定着していった。

 

1eルールにおける鎧の性能・価格は次のとおり:

  • プレート・メイル:AC3(-7良化) 400gp
  • フィールド・プレート:AC2(-8良化) 2,000gp
  • フル・プレート:AC1(-9良化) 4,000gp

*フィールド・プレートとフル・プレートはダメージ吸収能力を持ち、ダメージダイス1個ごとにそれぞれ1点・2点を吸収する。吸収量以下のダメージは無効化されるが、蓄積された一定量を超えると修理が必要となる

この区分はそのままAD&D2e(1989)にも受け継がれ、さらにD&D3e(2000)では整理統合のうえ、以下のように再定義された。

  • ハーフプレート: AC+7 600GP
  • フル・プレート: AC+8 1,500GP

フル・プレート:この金属の鎧にはガントレット(篭手)、じょうぶな革のブーツ、面頬のついた兜、鎧の下に着る分厚い詰め物が付いている。フル・プレートは腕のいい鎧鍛冶が一領一領、持ち主の体に合うように作るものと決まっている。とはいえ、分捕った鎧を新しい持ち主に合うようにしつらえなおすことはでき、これには200~800(2d4×100)GPかかる。

出典:『プレイヤーズ・ハンドブック』3.5版(2005)「防具の説明」より抜粋

*D&D3版系では、フル・プレートは敏捷力ボーナス上限・判定ペナルティ・秘術呪文失敗確率のいずれもハーフ・プレートやスプリント・メイルより優れており、「全身鎧は見た目よりも動ける」という要素をデータ面で表現している

またD&D3版系ではAD&D1eのフル・プレートに存在したダメージ吸収ルールは廃止されたが、そのかわりアダマンティン製の金属鎧にはダメージ減少(Damage Reduction)が付与されるようになった。減少値は鎧の種類により、軽装鎧で1、中装鎧で2、重装鎧で3となっている

このように「フル・プレート」という名称は、実質AD&Dゲームデザイン上の分類の中で生まれ広まった用語であり、後のファンタジーRPG作品における"最強ランクの鎧"のイメージを形作ることとなった。

 

なお上記鎧の価格を見て、思わず驚いたクラシックD&D世代(いわゆる赤箱経験者)の方もいるかもしれない。

クラシックD&D4版(赤箱、メンツァー版、BECMI、1983年)では、最初のソロアドベンチャー(バーグルとの死闘)を生き延びた戦士である「君」が、次の冒険に備えて街で買い物をする場面がある。そこで「君」は鎧職人にチェインメイルを下取りに出し、プレートメイルをわずか50ゴールドで購入するのだから。

  • 『ベーシック・ルールセット』 プレートメール AC3 (-6良化) 60gp
  • 『マスター・ルールセット』 スーツアーマー AC0  (-9良化) 250gp

*スーツアーマーはブレスウェポンなどの範囲効果ダメージを軽減し、ダメージダイス1個ごとにつき1点減少。またセービング・スローに+2のボーナスを与える

これを見ればAD&Dの板金鎧(400~4,000gp)との価格差は歴然である。
初心者向けで遊びやすさを重視するBECMIと、階級・経済差・キャラクター成長をゲームに反映し、よりシミュレーション性を重視するAD&Dという設計思想の違いが、両システムにおける板金鎧の価格差を生み出したと考えられる。

 

最後になるが『オーバーロード』考察ブログとしてオバロ作中のフル・プレート描写に少しだけ触れておきたい。
オバロ作中ではしばしば「全身鎧(ルビ:フル・プレート)」という表現が登場するが、おそらくこの名称はD&D3版系からの影響によるものだろう。

一方でアルベド装備の〈ヘルメス・トリスメギストス〉については「スーツアーマーともいうべき全身鎧」という記述が見られる。この表現はクラシックD&Dマスタールールセット(黒箱)において最強の鎧として扱われていた「スーツアーマー」の影響を強く想起させる。〈ヘルメス・トリスメギストス〉が三重装甲とアルベドのスキルを併用することで超位魔法すら三発耐えうる点も、「スーツアーマー」が唯一有していたダメージ減少能力という特殊ルールに着想を得たのではないだろうか?

オーバーロードみたいなゲームはありますか?:MMO黎明編

オーバーロード、あるいはユグドラシルのようなMMORPGはありますか?という質問に対し、いくつかの有名どころMMORPGと共に『 エバークエスト』、あるいは『リネージュ』の名を挙げる回答者をネット上で何度か見かけたことがある(日本、海外問わず)。

ただ単に両作品がMMOとして過去に著名であった、あるいはクラン同士の攻城戦があった事などを踏まえた単なる連想にすぎないのかもしれないが、あえて「RPGの系譜」という観点からエバークエストおよびリネージュの特異性(あるいは普遍性)を考えたとき、もしかすると回答者はそこにオバロと同じAD&Dの血の匂いをかぎ取っていたのではないか?とも思えてくる。

 

EverQuest』(1999)は、もともとAD&Dのゲーム体験をPC上で再現しようとした初期MUD(マルチユーザー・ダンジョン)、特にDikuMUDの流れを強く受け継いでいる。また開発スタッフの一部はインタビューの中で、D&D/AD&Dゲーマーであり大きな影響を受けたことを明言している。
とくに種族設定やクラス設定にはAD&D由来と思われる要素が多く、同作のファンタジー体系が EverQuest のデザインに濃厚な形で反映されている。

 

まあ言ってしまえば「ファンタジーRPGの普遍的な設定」であり、後続のMMORPGでいえばWorld of Warcraftの設定なんかも似たようなものである。

そして、その普遍的な設定がどこからきたといえばAD&Dが確立したものであり、ジャンル初期のMMORPGであるエバークエストが、その系譜を踏襲したのは自然な流れとも言える。

 

次にリネージュについてなのだが……

リネージュ/Lineage』は1998年にサービスが開始された韓国製MMORPGで、世界観は同名の漫画を原作としており――といったWikiに書かれていそうな一般情報はさておき、このゲームは当時ローグライクゲーマーの間で時折話題になることもあった、というか震源地をはっきりと書けば、2chUNIXNetHackスレにて「これってNetHackのパクリじゃね?」と言われていた。

リネージュ作中に見られるNetHack要素、これはなにもモンスターや各種アイテム名だけではない。10を基点として少ないほど良化するアーマクラス。武器防具をスクロールで強化するも、一定以上の強化ではアイテムが蒸発する可能性のあるオーバーエンチャントのルール。スクロールの不確定名称や、やたらと種類の多いポールアームなどなど、どれもシステムの根っこの面でNetHackをそのままMMO化したとみて間違いない。

しかもリネージュ初期には、NetHackには存在しないAD&D由来の呪文やモンスター、さらにはトールキン作品由来のモンスターや設定までが混在していた。
こうした背景から、当時の2ちゃんねらーの間では「韓国いつものパクリ」と揶揄されることも多かった。

 

しかし今になって思えば、それを単なる模倣として片づけるのは早計だったのではないか?

まずNetHackをMMO化するという考えについてだが、MMORPG黎明期においては、過去の名作RPGをオンライン化するというコンセプトは決して珍しいものではなかった。

ウルティマウルティマオンラインは当然として、上記AD&DおよびDikuMUDの影響が大きいエバークエスト/EverQuestハック&スラッシュゲーとしてAngbandの系譜であるディアブロ/Diabloなど、それは当時の必然的潮流だった。

そう考えるとリネージュの開発スタッフがRogueの直系であるNetHackという古典、AD&Dという体系、そしてトールキンという文化的基層を下敷きにしたのは、単なる模倣ではなく「RPGという文化の精神的系譜」への自覚的な接続だったのかもしれない。
そこには単にゲームを作るのではなく、「RPGとは何か」という問いに対する答え、静かな“気負い”が感じられる。

 

補足:1990年代中頃の韓国におけるD&DシリーズおよびTRPGの普及状況といえば、まだごく限られたマニア層に留まっていた。当時は正規の翻訳も無く、情報源の多くは日本語版(新和赤箱の海賊版が流通していたという噂も何度か耳にした)や英語原書を輸入したゲームショップ、個人のファンのネットワークに依存していた。結果としてD&Dは「存在は知られているがマニアのゲーム」という位置づけにあり、AD&Dに至っては『バルダーズ・ゲート』の原型ルールとして知られる程度だった。日本に比べても10年遅れと言わざるを得ない韓国のこのような状況下で、初期『リネージュ』にAD&D要素が多数見られるのは「あえてそうしたかった」という開発スタッフの強い意志の表れなのでは?(かつてのファイナルファンタジーがそうであったように)

 

まあ今となってはパクリ要素の数々もアップデートとともに姿を消してしまい、『リネージュII』には呪文名などにわずかな面影を残すのみとなっているのだが。

すでにそのブームは遠のいたが、あのMMO胎動の時代。複数のゲームの中にたしかにAD&Dの血脈が息づいていたことを、ここに書き留めておきたい。