オーバーロードにおけるモンスター:トロールは書籍8巻の描写を見るに下記のような特徴を持つ
1:容姿:長い鼻と長い耳を持つ醜い巨人、筋骨たくましい肉体、身長二メートル後半、オーガを超える筋力を持つ、虎にも似た生き物の皮で作った服
2:強い再生能力を持ち肉片からでも蘇る(炎や酸で焼けばこれを防げる)
3:適応能力が高く場所に応じた多様性を見せ、亜種が多い(ウォー・トロール、ヴォルケイノ・トロール、ケイブ・トロール、シー・トロール、トール・トロール、マウンテン・トロール)
4:鼻が利く(ンフィーレア談)
このブログでは度々「RPGのトロルはポール・アンダースン由来」と雑に書いてきたが、当然すべてのRPGがそういった訳ではない(原典まで追えてるか怪しい)だろうし、D&Dシリーズ及びオバロのトロールも完全に『魔界の紋章』そのままとは言えない。
そこで、より正確を期すためにもオリジンから順にD&Dシリーズのトロル描写を追っていこうかと思う。
①原典 Poul Anderson,『Three Hearts and Three Lions』(1961)
The troll shambled closer. He was perhaps eight feet tall, perhaps more. His forward stoop, with arms dangling past thick claw-footed legs to the ground, made it hard to tell. The hairless green skin moved upon his body. His head was a gash of a mouth, a yard-long nose, and two eyes which were black pools, without pupil or white, eyes which drank the feeble torchlight and never gave back a gleam.
"大男は、よたよたと近よってきた。みたところ、八フィート、あるいは、それ以上はあるにちがいない。両手をうしろにぶらつかせ、ふとい爪のある足でかがみこんで歩くさまは、見るだに恐ろしいものだった。毛のない緑色の肌が体のうえで波うち、頭部には耳まで裂けた口と一ヤードも突出した鼻がついていて、落ちくぼんだ眼は、黒い眼窩がプールのように穴をあけ、瞳孔も白眼もみえず、松明の光を吸い込んでしまうだけで、ひとかけらも反射しなかった。"
ハヤカワSF文庫ポール・アンダースン著、豊田有恒 訳『魔界の紋章』(1978)22章より抜粋
*この後、主人公ホルガーたちはトロル/大男と戦うが、剣による斬撃や馬キックでは致命傷を与えることは出来ず、切り落とした手首がまるで「巨大な緑のクモのように」這い回り、最終的には体に再癒着してしまう。しかし松明による火傷痕が回復していないことに気付いたホルガーは、新たな攻略法を見出す。
②ミニチュアウォーゲーム『Chainmail』(1971)における描写
一般にトロルと呼ばれるものは正確にはオーガであり、人間とジャイアントの中間的なクリーチャーである。彼らは隊列を組んで戦い、重装歩兵6人分の近接戦闘能力を持つ。トロル(とオーガ)は暗闇でも目が見えるが、明るいところでもペナルティを受けない。真のトロールはもっと恐ろしい怪物である(Poul Andersenの "THREE HEARTS AND THREE LIONS "を参照)。オーガは通常戦闘ルールでミサイルや近接攻撃を6回受けると死亡する。エルフは3回命中させれば殺すことができ、ヒーロータイプや魔法の武器は1回命中させれば殺すことができる。トゥルートロルはヒーロータイプ、バルログ、エレメンタル、ジャイアントでしか殺すことができない。
*D&Dの原型となったチェインメイル・ファンタジーサプリメントは、登場ユニット的にJ.R.R.トールキン著『ホビットの冒険』における「五軍の戦い」の再現を目的としたゲームに見えなくもないが、再生能力こそルール化されてないものの、この時点で「魔界の紋章を参照」と書かれているし、日光が弱点では無い点からもトールキンのトロルが原型でないのは明らかである。
③オリジナルD&Dにおける描写
痩せていてゴムのような忌まわしきトロルは再生能力があり、攻撃を受け3ラウンド目から自己修復を開始する。再生速度は1ターンにつき3ヒット・ポイント。トロルは倒されてもいずれは再生するため、火傷を負ったり酸に浸されたりしない限りヒット・ポイントが6以上に再生した時点で戦闘を再開する。筋力はオーガとほぼ同じだが、武器は爪と牙だけなので命中したときのダメージはダイス1個分しかない。
D&D Vol2. 『Monsters & Treasure』(1974)より抄訳
*ここで再生能力がルール化される。またモンスターの詳細が知りたければ『Chainmail』を見ろ、とも書かれている
④アドバンストD&Dにおける描写
トロルは恐ろしい肉食生物で、ほとんどすべての気候に生息している。トロルは恐れを知らず、絶え間なく攻撃するため、ほとんどのクリーチャーから恐れられている。彼らの嗅覚は非常に鋭い、 赤外線視力は優れている、 力も非常に強い。
トロルは爪のある前肢と歯で攻撃する。トロルは一度に3体の敵と戦うことができる。ダメージを受けてから3近接ラウンド経過するとトロルは再生を開始する。再生は1ラウンドにつき3ヒット・ポイントでダメージを修復する。この再生には切断された部位の再結合も含まれる。トロルの忌まわしい部位は肉体から切断されても戦い続ける能力を持っている;手は爪を立てたり絞め殺したり、頭は噛みついたりすることができる、など。完全に切断してもトロルを殺すことはできない。トロルのパーツは互いに寄り添い、再び結合し、トロルは完全に復活して戦闘を続けることができるからである。トロルを殺すには、モンスターを焼くか酸に浸す必要がある。
説明:トロルの皮は吐き気を催すようなモスグリーン、緑と灰色の斑点、または腐ったような灰色をしている。トロルの頭部に生えている蠢く毛のようなものは緑がかった黒か鉄灰色である。トロルの目は鈍い黒色である。
AD&D1st『Monster Manual』(1977)より抄訳
*ほぼ魔界の紋章のトロルを踏襲した描写だが、痩せた体、鋭い嗅覚、酸弱点などが追加。デイブ・サザーランドによるイラストと併せて、ここにRPGモンスターのトロル像が確立される。また同ページに海トロル(スクラグ)も掲載。
⑤クラシックD&D系における描写
D&D Basic Rule(Holmes版1977)、D&D Expert Set(Moldvay版1981)、D&D Expert Set(Mentzer版1983、和訳された青箱)にトロルが掲載。
痩せた知能のある人型生物でゴムのような皮膚を持つ。トロルは他のどんな食物より人間や人型生物を食べるのを好む。ほとんどどんな場所にでも住むことができ、しばしば犠牲者の廃墟となった住居に住み着く、といった記述。
*基本はオリジナルD&Dの文章をベースにブラッシュアップ追記させていったような記述だが、攻撃はAD&Dに先駆け爪爪噛み付きの3回攻撃に強化された。また1981年のモルドヴェイ版エキスパート・ルール以降、原典同様に「トロルの身長は8フィート」と記述される
⑥D&D3版系における描写
この大きな二足歩行するクリーチャーは人間の1.5倍ほどの身長をしているがひどく痩せている。腕と脚は長く不格好である。大きな足には3本の指があり、腕の先には力強く幅広い手があって、尖った爪がついている。表面はゴムのようで、その髪は、太いロープのようであり、自らの力でのたくっているように見える。
トロルは極地の荒野から熱帯のジャングルまですべての気候において見つけられる恐るべき肉食の生き物である。ほとんどのクリーチャーはこの怪物を避ける。というのも、トロルは恐れを知らず、腹をすかせると暴れて手がつけられないからである。トロルの胃袋は底なしで、地虫から熊から人型生物まで何でも喰らう。彼らはしばしば村落の近くに住みかを構え、住人を狩って、最後の1人までむさぼり食ってしまう。
トロルは直立こそしているものの、肩をたわめて猫背で歩く。足どりは不規則で、走るときには腕をぶらぶらさせて地面を引きずる。こう言うといかにも不器用そうだが、その実トロルは非常に敏捷である。
典型的な大人のトロルは身長9フィート、体重500ポンド程度である。メスはオスに比べてやや大きい。ゴムのような表皮はモスグリーンで、緑や灰色や、腐ったような灰色の斑点がある。髪の色は通常緑がかった黒か鉄灰色である。
D&D3.5版『Monster Manual』(2003、和訳2005)より抜粋、赤字は3.0版(2000)から3.5アップデート時に追記された部分
*AD&Dにおける記述に原典成分を追加したような文章である。(猫背で歩くなどは明らかに魔界の紋章を意識した描写)またフレーバーテキストに記述は無いが、特殊能力《鋭敏嗅覚/Scent》を持ち、匂いによって敵の感知及び追跡が可能となっている。水棲トロル(スクラグ)についても記述有り
*3.5サプリメント『Monster Manual3』(2004)にてウォー、クリスタライン、ケイヴ、フォレスト、マウンテンの各種トロルが追加。
わかったこと
オーバーロードにおけるトロル描写は概ねD&D3.5版ベース(ゲーマーならば"身長二メートル後半"の記述が自然と脳内で9フィートに変換される為、見誤ることはない)だが、「筋骨たくましい」「長い耳」「皮の服」といった点はD&Dトロルには無い描写である。
なおMM3ウォー・トロル説明文冒頭に「この筋骨たくましいクリーチャーは通常のトロルと違い―」という記述があるので、ここからオバロトロールの描写が引っ張られた可能性が高い。
オバロ書籍ではトロールの肌色についての描写が無かった為か、アニメ版トロールには緑色、水色、黄土色と多彩な色合いの個体が見られる。
また注目すべき点として、D&D第4版の『モンスターマニュアル』(日本語版2009年3月31日刊行)では、トロルの解説から「痩せている」という記述が無くなっており、さらにイラストにおいても従来のD&Dにおけるトロルとはやや異なり、手足が太く顔も大きく描かれており、全体的にボリューム感のある印象を受ける。このデザインはオバロアニメ第3期に登場するトロールのデザインに非常に近いように見え、ひょっとしたらアニメ制作スタッフはD&D第4版の『モンスターマニュアル』を参考にしたのかも?
クラシックD&DからD&D3版系移行時、身長が8フィートから9フィートに伸びでいるが、これはAD&Dルールで身長7フィート越えが大型サイズとされていたのに対し、3版系ルールでは8フィートがちょうど中型サイズと大型サイズの境界線であった為、胸を張って大型といえるよう1フィート盛ったのだと思われる。(3版ルールでトロルは種別:巨人/ジャイアントである為、さすがに中型サイズはいただけない)
ファイナルファンタジー1のトロルは緑肌、ヒットポイント再生あり、炎が弱点。そして攻撃回数が3回な点はAD&Dでの爪、爪、噛みつき攻撃(DAMAGE/ATTACK: 5-8/5-8/2-12)の再現か。このようにAD&D第1版に出来るだけ忠実であろうとする姿勢が、データの細部から読み取れる。
ドラゴンクエスト3のボストロールは緑の肌色にヒットポイント自動回復持ちと、D&Dトロルの基本にある程度準じてはいるが、太っていて棍棒を持つ点などはオーガ、あるいはヒル・ジャイアントのイメージが混入している可能性がある。
皮膚の質感に関する描写について「ゴムのような」と表現されている作品は主にD&D系の影響を受けていると考えられる。一方で「岩のように硬い」とされている場合は、トールキン作品や『トンネルズ&トロールズ』、あるいは『ソード・ワールド』の設定を参照した可能性が高い。
トールキントロルの「日光に当たると石化」という特徴をゲームで処理するのが煩雑であった為、D&Dでは「炎に弱い」に改変した――とっいった風説も見られるが…とりあえずファンタジーと見るや「元祖」の部分にトールキンを当てはめようとする姿勢は改めるべきである。
驚くべき事にオリジナルD&DからD&D3.5版まで、(当然と言えば当然だがウィザードリィ#1でも)全てのデータでトロルは6ヒット・ダイスである。
*オバロでのミスリル級、ゴブスレでの紅玉等級に相当
つまり、チェインメイル戦闘ルールに由来する「トロルの強さはこれくらい」という基準は、RPGの誕生以来30年間にわたり、D&Dプレイヤーの間で通用する常識として受け継がれてきたことになる。