本ブログでは以前よりウィザードリィ#1についてAD&D1eルールとの比較・検証を行ってきた。
しかし筆者のシナリオ1プレイ体験は何十年も前のファミコン版によるものであり、記憶も薄れつつあるうえACバグの存在する環境だったというアレな問題もある。
そこで今回はACバグのない、かつ元祖Apple II版に比較的近いと思われるPC-88版を改めてプレイし、データから読み取れるウィザードリィの変更点が実際のゲームプレイの体感と齟齬がないかを検証することにした。(……というほど大層な目的もなく、ただ単に古いゲームをちょっとやりたくなっただけ)
ウイザードリィのせかいにようこそ
デュプリケイトディスクをつくらないとプレイできません
さて、ゲームを始めてまず最初にファミコン版との違いとして気になったのが、キャラクターメイキング時およびパーティ編入時に、毎回パスワードの入力を求められる点である。(めんどくさっ)
この仕様はウィザードリィの出自がPLATO上で動作していた最初期コンピュータRPGにある点、すなわち複数プレイヤーが各自のキャラクターを持ち寄って遊ぶマルチプレイヤー型RPGであったことの影響を色濃く残したものだろう。キャラクターの個別管理を前提としたセーブデータ設計がパスワードとして残ったのだと思われる。
能力値ボーナスの厳選もそこそこに(ファミコンに比べもっさり動作のPC版で何度もやりたくない)キャラメイクを終え、いつものように酒場で仲間を集め街はずれから迷宮に潜る。
ENTERING
PROVING GROUNDS OF MAD OVERLORD
漆黒の闇のただ中、淡く浮かび上がるワイヤフレーム。
完全な静寂に支配されたダンジョンの奥底に響く、冒険者たちの足音(ビープ音)。
今まさにキミは「運命の大迷宮」へと降り立った。死と隣り合わせの探求の旅が始まろうとしている……
で、さっそくオークやらコボルドたちと戦ってみたわけだが……攻撃がまったく外れない。事前の予測では命中率は7割程度になるはずだったのに、実際には9割オーバーのほぼ全弾命中である。
サクサクと敵を屠る勢いのまま、地下二階へと進む。
するとこちらのLv1プリーストやLv1メイジ相手では、ようやく攻撃を外す場面が出てきた。体感命中率はおよそ7割ほどで事前の予想どおりの感触に落ち着く。
ここで一旦、「物得屋」掲載のモンスターリストを確認して納得。地下二階に出現するモンスターはガスクラウドのAC10を除けばAC6~4と、Lv1パーティに対しては常識的な数値になっている。
ところが地下一階の出現モンスターは、AC12、AC8、AC10、AC10、AC8と、どれもやたらと柔らかい。
| オーク |
AD&D1e |
ウィザードリィ#1 |
| HP |
1d8 |
1d4 |
| AC |
6 |
10 |
| ダメージ |
1d8 or 武器による |
1d4 |
| コボルド |
AD&D1e |
ウィザードリィ#1 |
| HP |
1d4 |
2d3+1 |
| AC |
7 |
8 |
| ダメージ |
1d4 or 武器による |
1d2+1 ×2 |
まずAD&Dにおいて人間が防具を一切装備せず、棒立ち(=Dexボーナスが無い)状態でのアーマ・クラスが10(≒50%回避)とされる。
またオークやコボルド、ホブゴブリンといったヒューマノイド系モンスターは、武装しているのが当たり前である。そのためACは概ね5~6程度になるのが一般的だ。
それを踏まえて上記データを見てみると、オークの著しい弱体ぶりが目につく。対してコボルドのほうはAD&Dでの1HD未満という扱いから2HDへと引き上げられており、これは大きな強化と言える。しかし2回攻撃でもダメージは抑えられ気味でACは8しかなく、結局はオーク同様にサクサク殺れてしまい、体感的にはそこまで強さの差を感じなかった。
ウィザードリィ#1はシビアだ、いや簡単だ。そうした評価はプレイした環境や年代、ゲーム遍歴によってさまざまに分かれるだろう。だが一つ確かなことがあるとすれば「地下1階はヌルくしてある」という点だ。
そのようなバランス調整の意図が、ACの変更点から垣間見えてくる。
そしてさらに驚かされたのが、バブリースライムのステータスである。
過去のファミコン版からの経験によりウィザードリィ#1においてバブリー・スライムが最弱モンスターであり、D&D系スライムの凶悪な部分が全く再現されていないことについては十分承知していたのだが、今改めてそのデータを確認して驚いた。
なんとアーマ・クラスが12である。
……と言われてもピンと来ないかもしれないので、順を追って説明しよう。
まず上記の通り、基点となる無防備状態でのアーマ・クラスが10。
次にモンスター・マニュアルを見てみると、グリーン・スライムやイエロー・モールド(黄色カビ)といった、そもそも回避行動が不可能なモンスターのACが9に設定されており、これらが実質最低限の数値となっている。
さらにダンジョンマスターズガイドの命中判定表を確認すると、そもそも表自体がAC10からAC-10の範囲までしか無く、そこには「アーマークラスが10より悪くなることは、呪われたアイテムによる場合を除いてありえない」とも記述されている。
以上を踏まえればバブリースライムのAC12という数値が、AD&Dモンスターの常識からいかに逸脱したものか理解できるだろう。
これはもはや、当時のプレイヤー(少なくともアメリカではAD&Dを知っていて当然だった層)に対し、グリーン・スライムと勘違いさせて驚かせるためだけの、一種のジョークモンスターだったのでは?
そういった観点から改めてウィザードリィのモンスター配置を見てみると、地下1F~5Fまでは、それぞれ1種類ずつ、ユーモアのある捻った名前のモンスターが配置されていることに気づく。
B2Fにはボーパルバニー(首切りうさちゃん)
B3Fはカピバラ(不確定名称は「巨大げっ歯類」)
B4Fがドラゴン フライ/DRAGON FLY(DRAGONFLYすなわちトンボではなく、ドラゴン・フライだ火を噴くぜ!)
B5Fにはドラゴン パピー(PUPPYは日本語にすると「子犬」、「わんこ」ぐらいの意味)
これらも「日本では理解されなかった」ウィザードリィのユーモア成分になるのかな?
個人的に重要な変更点と考えているもの、まとめ
- 命中修正および攻撃回数の調整による戦闘テンポの改善
AD&D1eに比べWizardry#1の戦士系クラスは、低レベル帯での攻撃命中率が大きく底上げされており、その上昇幅はおよそ30%に達する。
またレベルアップによる命中修正はAD&D1eに比べ1/3と穏やかなものの、攻撃回数の上昇スピードはかなり大きく、これらの調整によって戦闘のテンポは早まり、彼ら戦士は前線を支えつつ敵を次々と倒していく「主戦力」、「英雄」としての存在感が強調されている。(古参D&Dゲーマーの中にはファイターを「ただの肉壁」呼ばわりする声も少なくなかったが、ウィザードリィゲーマーからそのような意見は聞いたことも無い)
またWizardry#1のモンスターにはAD&D1e『Monster Manual』のステータスをほぼそのまま踏襲しているものも少なくない。しかし実際にはヒット・ポイントを複数種類のダイスで細かく調整するなど、独自の手が加えられているものが多数である。
さらに最初の冒険の舞台である地下1階では、各種モンスターのACが全般的に(AD&D準拠と見なした場合には不自然なほど)高く設定されており、ゲームバランスに対して入念な調整が施されていることが明確にうかがえる。
もしこれら「戦士系クラスの命中率」に関わるボーナス修正がAD&D1eのままであった場合、低レベルでは『Rogue』(1980)のように「攻撃の2回に1回は外れる」という、戦闘テンポの悪いものになっていただろう。
バランス調整の顕著な例として、AD&D1eの「Red Dragon」と比較するとWizardry#1の「ファイアードラゴン」はブレス・ウェポンのダメージも物理攻撃のダメージも、いずれも半分に抑えられている。 この差異は以下のような要因によるものと考えられる。
1. Wizardry#1はCRPGであり、TRPGのようにDMとのやり取りを通じて戦術的優位を得ることができない、正面戦闘するしかない。
2. AD&D1eに存在したResist Fire(レジスト・ファイア)呪文に相当する防御魔法が実装されていない。
3. AD&D1eにあった「巣穴でドラゴンが寝ている確率」ルールが存在せず、能動的に不意打ちを仕掛けることが出来ない。
こうした要素を踏まえるとWizardry#1におけるドラゴンの攻撃力が抑えられているのは、プレイヤー側の選択肢の少なさを補い、ゲームバランスを成立させるための意図的な調整であると推測できる。
AD&D1eには無いWizardry#1オリジナルのルールとして、各武器に固有の「最低攻撃回数」が設定されているという特徴がある。
分かりやすい例を挙げると、ロングソード+1は最低2回攻撃、ロングソード+2は最低3回攻撃といった具合に、武器の強化段階に応じて攻撃回数の下限が保証される仕組みになっている。D&D系における武器+1強化が、ダメージと命中が1増えるだけで強化を実感しにくかったのとは対照的である。
これにより上位武器を早期に入手できれば、与ダメージの増加や戦力の上昇を攻撃回数として実感しやすい。この設計は戦闘における成長と報酬を直感的に結びつけるものであり、ハック&スラッシュを強く意識した改変と言えるだろう。
他にもセーヴィング・スローの上昇率など調べ上げていけば細かな調整(AD&Dを再現できなかった故の仕様ではなく、意図的な変更点)はまだいくつも見つかるだろうが、自分が特に感じた重要点は以上である。
稀に「ウィザードリィはAD&Dを不完全に移植したものでCRPGとしての昇華など行っていない」といった言説も見かけるが、両者のルール変更点を精査してみると、とてもそうとは思えない。
確かに内部解析から見える計算式はAD&Dに基づいている。しかしTRPGの文法を一人用コンピューターRPGへと適応させるために施されたデータ変更、バランス調整により両者はもはや似て非なる別物へと変貌を遂げている。
その戦闘バランスの完成度はウィザードリィ#1を今なお「初期コンピューターRPGの金字塔」と呼ぶにふさわしいものだろう。そして何より、ゲームとして純粋に面白い。
補足情報
※標準的なAD&D1eファイター1Lv(筋力18/01-50)が、オーク(一般的な1HDヒューマノイド、AC6)に対し攻撃する場合、ダイス目13以上で命中する(命中率40%)。
一方、オークがファイター(チェイン・メイル+シールド、AC4)を攻撃する場合、出目15以上で命中する(命中率30%)。これらの命中率は後のD&D3eや5eに比べると10%ほど低く、独特の泥仕合感がある。この戦闘感覚はD&Dの出自がウォーゲームであったことと深く関係していると考えられる。
※ウィザードリィ#1が大きな影響を受けたとされる『Oubliette』(1977年11月)におけるオークはAC4、コボルドAC7。AD&D1eやOD&Dに比べてオークが硬いのが特徴。なおOublietteは開発時期及びルール的にオリジナルD&Dをベースとしているのが大部分だが、現在参照できるモンスターデータを見たところリリース当時には存在しないAD&D1e『Monster Manual』(1977年12月)初出のデータが複数含まれている。これはOublietteの開発が1977年春から始まり、1982年頃まで継続的にアップデートが行われていたとされ、その間に参照ルールもオリジナルD&D→AD&Dへとデータを追加、拡張していった為と思われる。
※そも初期D&Dは敵対ヒューマノイドの集団やドラゴン、巨人など強敵に対する正面戦闘は必ずしも推奨されるプレイスタイルではなかった。ヒーローが雑魚相手に大暴れする(1HD未満の敵に対し攻撃回数増加)ルールもある事にはあるが、低レベルPCにとって正面突破はあまりにリスク(死亡率)が高すぎるし、経験値の多くは財宝(ゴールド)からも得られるからだ(財宝=経験値がオプションルールになったのはAD&D2eから)。直接戦闘は避け、知恵と工夫で困難を乗り切り、生きて財宝を持ち帰る。そんなプレイを美徳とする傾向は当時の代表的なモジュール(シナリオ)の構造からも見て取れる。
対してウィザードリィは経験値獲得の手段はモンスターを倒すしかない。当時のコンピューター性能による制限により、AD&Dが持っていた多面性をそぎ落とすしかなかったのだろう。最初期CRPGは経験値およびレベルアップ手段も色々と模索されていたようだが(例えば『Oubliette』では経験値だけでなくギルドへの寄付が必要だが、これはAD&D1eのトレーニングルールが着想元になっていると思われる)、そうした流れの中で経験値取得をモンスター討伐一本へと単純化し、レベルアップに訓練費用も不要としたウィザードリィを前向きに評価するならば「正面戦闘前提のハック&スラッシュ」へとシステムを再定義したとも言える。
※D&Dにおいて戦士系クラスの強化を求める声は初期の頃よりコミュニティ内で根強く存在していたが、それがAD&D公式として結実したのは1985年刊行のサプリメント『Unearthed Arcana』におけるWeapon Specializationルールの導入を待たねばならなかった。この時系列を踏まえると、攻撃回数が5レベルごとに増加していくウィザードリィのシステムは、戦士系クラスの数値的強化をかなり早期に実現していたと評価できる。
もっともD&Dゲーマーにとってはハウスルールによる調整は当然の感覚であり、いかにウィザードリィがそれを早期に実現していたとしても、革新的とはいえないだろう。
※スライムの攻撃について「顔に張り付いて窒息させる」「酸による攻撃」などといった伝聞が日本では多く見られるが、本来のグリーン・スライムのそれは接触した部位から肉体が溶解、同化していくという、きわめておぞましく致命的なものだった。(死体もドロドロなので蘇生できない、ウィズ的に言えばロスト)
モンスターマニュアルにステータスこそ書かれているものの、もはやグリーン・スライムはモンスターというより環境型即死トラップである。(実際、後の3.5版ではクリーチャーではなく、"ダンジョンの環境"扱い)
「洞窟の通路は幅10フィート。岩肌は湿気が強く、頭上からは時おり水滴がポタポタと落ちてくる。壁面にはところどころ、苔やヘドロのようなものがへばり付いている……」こういったDMの状況説明に対して、プレイヤーが「天井を松明で注意深く照らす」「10フィート棒でつついてみる」といった適切な行動宣言を行わなければ地獄への超特急となる。
※PCのアーマ・クラスについて:ウィザードリィ1lvの前衛キャラクターが初期ゴールドで防具を買いそろえると、おおむねACはAC5(チェインメイル+スモールシール)となる。また後列キャラからお金を集めた場合はAC3(ブレスト・プレート+ラージシールド)まで下げれるだろう。この値はAD&D1eファイター1Lvの平均的なAC4~3(チェインまたはスプリント・メイル+シールド、あればDexボーナス)に近い値であり、被弾率の体感もあまり変わらないと思われる。そしてAD&D1eも3.5eと変わらず、オークに2回殴られると死ぬ。
ウィザードリィではオークが弱体化されているため、これに殴られても期待値的にすぐには死なないが、かわりにブッシュワッカーに2回殴られると死ぬ。(というかB1Fモンスターの中では飛びぬけて与ダメ能力が高く危険)
※ウィザードリィ#1~#3までの戦闘システムにおける命中修正「低レベル時の底上げ」については、実のところロングソード系武器に付与された+4という命中修正が単純に大きすぎただけという気もする。
レベルあたりの命中修正はウィザードリィ#5において見直され、戦士系クラスで「底上げなし、レベル÷2」の上昇率へと改められたが、低階層モンスターのACは引き続き高めに調整されており、#1のB1Fのような「ほぼ全弾命中」こそ見られないものの、命中率はおおむね50%を上回る水準に保たれている。
また#5の大きな特徴として、上位武器のダメージが「見かけ以上に大きい」点が挙げられる。
D&D経験者、あるいはローグライクゲーマーであれば「ロングソードのダメージは1d8、+2強化したなら1d8+2(期待値6.5)」という数値は疑いようのない前提知識だろう。
ところがウィザードリィ#5では、この前提が大きく覆されている。たとえばロングソード+2が1d10+7といった形で再設計されており、上位武器への乗り換えによる与ダメージの上昇を強く体感できるようになっている。
これはすなわち戦闘能力における装備品の比重を明確に増やす方向への調整であり、ハクスラRPGとして見れば、きわめて順当な進化だと言えるだろう。
(もちろんウィザードリィシリーズを一括りにハクスラとするのには問題がある。ロバート・ウッドヘッドはそれ以前の最初期CRPGと比較した際の『ウィザードリィ#1』の独自性としてシナリオの存在を挙げているし、それ以降の展開(とくに#4、#6、#7)の方向性を見ても、物語性を重視した進化であったと言えるだろう。そう考えると「日本では戦闘システム重視のシビアなゲームバランスが好まれた(ゲームボーイの外伝作など)が、一方海外ではそうではなかった。4以降の『ウルティマ』のようにRPGは世界観や物語の広がりが重要視された」といった方向へ議論を発展させることも可能だろう……が、自分の狭い見識で断定的な結論を下すことは避けておきたい)
※このブログでは以前に、AD&D1eの呪文ルールに存在する「術者レベルによるダメージの増加」および「術者レベルによる魔法抵抗(MR)突破率への補正」といった要素がウィザードリィに実装されなかった点について愚痴めいたことを書いていた。しかし少なくともクリア想定レベルがおよそ14程度であるシナリオ#1に限って言えば、これらが欠落していることは大きな問題とはならず、呪文レベルによる段階制スケーリングによって戦士系クラスと術者クラスのパワーバランスは概ね適切に保たれていたと評価できる。
……のだが和製ウィズの「ドラゴンの洞窟」などといった高レベルインフレ環境では、これはもはや破綻しているとしか言いようがない。しつこいようだが「和製ウィズは、いつまでも古いシステム引きずってないでD&D3版系からパクれ!」というのが持論である。
※なお、ここで無装備状態のニンジャ=全裸、AC10=全裸というゲーマー見解をもってウィザードリィを再解釈すると、以下のような危険地帯(デンジャー・ゾーン)が出現してしまう
『狂王の試練場』地下1階には、「みすぼらしいおとこ」や「にんげんがたのいきもの」が全裸で突っ立っている!
「ウホッ!いいオーク」 「俺はノンケだってかまわないで食っちまうハーフオークなんだぜ(キングメーカーのレゴンガー )」などといったよろしくない妄想が次々溢れ出してくるが、いいかげんやめておく