Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

ファンタジーRPG必読作家リスト

ファンタジーRPG必読と銘打ってはみたが、以下に並ぶのはAD&D1st『Dungeon Masters Guide』(1979)のケツの方に書かれていた(Appendix N、5版にも似た様なのがあるらしい)ガイギャックスお勧めの作家及び参考書籍リストである。
ファンタジーじゃなくてSF多すぎ、とかクラーク・アシュトン・スミス忘れてない?とか未訳ばかりみたいなのもあるが、とりあえずここに書かれている以上、初期D&Dの成立すなわちRPGの源流に影響を与えている物として非常に重要であることは間違いない。

このブログでも元ネタ作家については以前から色々書いてきたが、いいかげん読んだのも昔でうろ覚えの物も多く、事ある度に海外サイトをググるのも面倒なのでまとめておく。


ポール・アンダースン
『魔界の紋章/Three Hearts and Three Lions』『天翔ける十字軍』『折れた魔剣』

*秩序と混沌の対立構造、異世界転移(タイムスリップ)、現代知識で創意工夫、騎士道物語(クラス:パラディン)、再生能力を持つトロールドワーフ、ニクシー、人狼、スワンメイ(白痴ヒロイン)と、並べて書くとかなり濃いメンツだが現在のRPGにも引き継がれている要素が多い。

 *現代日本において異世界転移の発端といえば「トラックにはねられる」が定番だが、魔界の紋章では「ナチス・ドイツ軍との戦闘中に死にかける」という非常に時代を感じさせるものとなっている。なお、なぜこの作品が(ナイトでは無く)クラス:パラディンの直接の元ネタかを詳しく説明したいところだが、激しくネタバレになっちゃうのでやめておく(わかる人には主人公の名前と原題でピンとくるらしいが…)

 

追記:D&Dのパラディンは『魔界の紋章』の主人公、ホルガーが元ネタなのでは?と昔からよく言われていたが、ガイギャックスによると*1特にそういったわけでもなく普通にシャルルマーニュ伝説における12人のパラディンアーサー王伝説、騎士道の規範などをインスピレーション元にデザインしたとの事。
なお後にパラディンとは別クラスとしてファイターサブクラスのキャバリア/騎兵が追加されるが、これについてはガラハド卿やローランといったパラディンと言えるような高潔な戦士はわずかにしか存在しないからだとか。

 

*『折れた魔剣』ではエルフ族、トロール族、ゴブリン族、ドワーフ、ノーム、レプラコーンなどが登場。ガイギャックス的には、D&Dのエルフはトールキンよりもポール・アンダースンをインスピレーション元としたらしいが…

 

ジョン・ベレアーズ
『霜の中の顔』
*多数のマジックアイテムや魔法書が登場、主人公プロスペロはクラス:ウィザードの原型の一つ…というよりは、ユーモアたっぷりに書かれた本作においては「リアルな魔法使い像」のパロディといった趣が強い。
(プロスぺロの名はシェイクスピアテンペストから採られているし、友人の名はロジャー・ベーコンだし)
なお作中プロスぺロがタロットを用いた魔法で橋を破壊するシーンが「ファンタジー小説における一大スペクタクルシーン」として年季の入ったファンタジーマニアから語られる事はあるが、RPG的世界観とオレツウェイ主人公が普及した現在においてはいささか地味である

*AD&D1st、DMGにおいて呪文システムの解説(別次元からエネルギーが流れ込んでくる、術者は例えるなら電気ヒーターにおけるコンセントでしかない云々)と共に「バックグラウンドとしては、キャンペーン参加者にヴァンスの『天界の眼』と『終末期の赤い地球』、そしてベレアーズの『霜の中の顔』をお勧めする」と書かれていた。


リイ・ブラケット
*スペース・オペラを多数執筆「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」の脚本も手がけたが、公開時期的にAD&D1stへの影響は無い

 

フレドリック・ブラウン
*SFとミステリーが主でファンタジーはほとんど無い

 

エドガー・ライス・バロウズ
火星シリーズ、金星シリーズ、地底世界(ペルシダー)シリーズ
*『火星のプリンセス』が異世界転生モノの始祖のように語られることもあるが、それが近年の和製ファンタジーに繋がっているとは思えない

*オリジナルD&D Vol.1『Men & Magic』序文(1973)においてガイギャックスはジョン・カーターが暗い穴ぐら/black pitsを進むシーンについて言及しているが、調査したところこれは『火星の女神イサス』14章「闇に光る目」の事を言っているようだ。
火星の地下牢/dungeons、分岐する通路を手探りで進むと暗闇の中にギラギラと光る目、襲い掛かってくる3匹の怪獣、剣を振り上げるカーター!
これこそガイギャックスの考える「ダンジョンアドベンチャー」の原型といえる場面の1つなのだろう。(まあ地下牢からの脱出時にモンスターと遭遇というのは、コナンやゾンガーなどでもよく目にするお決まりのシーンではある)

なおオリジナルD&D Vol.3『The Underworld & Wilderness Adventures』の野外遭遇表には地形:砂漠(火星)、遭遇するモンスターTharks/緑色火星人などが書かれていたが、これらのバルスーム要素は後の版に引き継がれる事は無かった。


リン・カーター
『World’s End』

*ガイギャックス的に上記シリーズがオススメらしいが未訳である。ヒロイック・ファンタジー(レムリアン・サーガ)ほかクトゥルー関係やアンソロ本編集で活躍

またコナンの模作や下記ディ・キャンプと組んでコナンシリーズの続編を手がけた事もあり、その流れもあってクトゥルー神話にも黒蓮が出てくるのは大体この人が原因である


L.S.ディ・キャンプ
『闇よ落ちるなかれ』『悪魔の国からこっちに丁稚』


L.S.ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット

『ハロルド・シェイ・シリーズ』 『CARNELIAN CUBE』(未訳)
*異世界転移して現代知識でチート(雑なまとめ)

*ハロルド・シェイシリーズ第一巻『神々の角笛』は北欧(スカンジナヴィア)神話の世界に異世界転移するお話だが、作中に山の巨人/Hill Giant、霜の巨人/Frost Giant、火の巨人/Fire Giantが登場し、これがD&Dジャイアント種別の直接の参照元となっている可能性が高い。また塩素ガスを吹く竜も登場する。


オーガスト・ダーレス

 

ロード・ダンセイニ
*ハイエナ型獣人種「ノール」の名をダンセイニ著の短編『ナス氏とノール族の知恵比べ/How Nuth Would Have Practised His Art upon the Gnoles』より拝借した模様。
なおD&D系での初出であるオリジナルD&D Vol2『Monster & Treasure』解説では、ノームとトロールの交配種というふざけた設定について「たぶんサンセイニ卿/Lord Sunsanyがはっきりとさせなかったのだろう」といった記述があるが、これはおそらくダンセイニ卿/Lord Dunsanyのタイプミスと思われる(Dの隣のキーがSの為)。


フィリップ・ホセ・ファーマー
『階層宇宙』シリーズ


ガードナー・フォックス
『Kothar』『Kyrik』シリーズ(未訳)
*上記の作品は…まあ名前から察しがつくかもしれないが、コナンの巻き起こしたヒロイック・ファンタジーブームに乗っかった蛮人タイプの主人公である。作者自体はファンタジー小説よりアメコミ方面で有名だが、RPGの歴史的にはリッチの直接の元ネタを書いた人

 

ロバート・E・ハワード
『英雄コナン』シリーズ

*コナンはクラス:バーバリアンの原型であるが、作中のコナンは原始的な直観&パワー描写以外にも、盗賊や海賊を生業とし狡猾な戦士としての立ち回りも多い為、D&Dにおいてキャラ再現される場合はローグ(シーフ)混ぜになることが多い

*上記でコナンはバーバリアンの原型と言い切ってしまったが、D&Dにおけるクラスとしてのバーバリアンは他の物に比べ登場はやや遅く、この作家リストが書かれた時点では実装されていない。また後のAD&D1stファイターサブクラス:バーバリアンの特徴は、魔法とマジックアイテムを嫌悪しそれを破壊する事で経験値を得る、また高レベルになるとバーバリアンの集団を召喚できるようになるという不可思議なもので、コナン再現に向いているとは言い難い。

ともあれ、ガイギャックスはD&D誕生以前のミニチュア・ウォーゲーム『Chainmail』ファンタジーサプリメント冒頭にて「J.R.R.トールキンロバート・E・ハワードなどのファンタジー作家が描いた壮大な戦いを再現」と説明、またデイヴ・アーネソンもBlackmoorキャンペーン(実質最初のRPGセッション)の誕生に関しコナンに言及しているので、どのみちファンタジーRPGのイメージ源泉として最重要な作家であるのは違いない。

 

Sterling E. Lanier
『HIERO’S JOURNEY』
*ポストアポカリプス物らしいが、この作家の著作は全て未訳。サイオニックや後のガンマワールドに影響か?


フリッツ・ライバー
『ファファード&グレイ・マウザー』(二剣士)シリーズ
*剣と魔法/sword and sorcery*2の代表的作品であり、蛮人ファファードと盗賊グレイ・マウザーのコンビによる冒険譚は最もD&Dのプレイスタイルに近いと評される。またグレイ・マウザーはクラス:シーフの原型の1つであり、作中で巻物から呪文を使うシーンがクラス能力である「魔法のアイテム使用」に影響を与えた

*後のAD&D1st神格本『Deities & Demigods』(1980)にはファファードとグレイ・マウザーのキャラクターデータほかネーウォン世界の神々のデータが記載、さらには『Lankhmar–City of Adventure』(1985)以降『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズの世界をAD&Dルールで遊ぶためのサプリメントがいくつか出版、TSR公式Dragon誌にライバーの新作短編が掲載されるなどフリッツ・ライバーとガイギャックスは懇意な間柄となっていた
またAD&D1st『Monster Manual』記載のモンスター「Berserker/バーサーカー」のイラストが「ひげもじゃ、おさげ、斧と剣の二刀流の大男」という、かなりファファードっぽい物になっているのも注目すべき点だろう


H.P.ラヴクラフト


A・メリット
『Creep, Shadow! 』『ムーン・プール』『蜃気楼の戦士』
*自分としては『イシュタルの船』を強く推す。異世界転生オレツウェイ、個性的な仲間(ハゲ)、さらわれた巫女(ヒロイン)を救え!、メリケン的マッチョヒーロー!!

*上記『ムーン・プール』を雑誌掲載当時にラヴクラフト怪奇小説史上の傑作と称賛していた、また作中に登場するポナペ島古代王朝の遺跡チャウ・タ・レウル/Chau-te-leur(新訳ではカウ・トゥ・レウル)をオマージュとしてクトゥルフ/Cthulhuが生まれたのでは?という情報がついったちほーに流れていた


マイケル・ムアコック
ストームブリンガー』『魂を盗むもの』ホークムーン・シリーズ(特に最初の3冊の本)
*ダークヒーロー、魔剣(インテリジェンス・アイテム)、法と混沌の対立(上記、魔界の紋章がインスパイア元)、諸神格が多元宇宙にわたって陰謀&抗争を繰り広げる世界観、紅衣の公子コルムに移植した手と目(ヴェクナの手と目)

ここの作品群の中では比較的新しい為か、エターナル・チャンピオンシリーズの総括たるエレコーゼやホークムーンのブラス城年代記はリストに入っていない


アンドレノートン
*ペンネームは男性名だが女性作家。60歳を過ぎてからガイギャックスのD&Dプレイグループに参加した(1976)というからオドロキ、すごいおばあちゃんだ。

なお彼女はその2年後の1978年に小説『Quag Keep』を執筆するが、こいつは「RPGプレイヤーがゲームの世界に異世界召喚される」という、どこぞで聞いたような設定を持つ物だった。(しかもグレイホーク!)

最古のRPG小説からしてこうだった訳で、中々にこのジャンルの因果は深い。

 

*『Quag Keep』冒頭でノートンはガイギャックスに謝辞を述べているが、ここではD&Dことをウォーゲームと説明している。この今までにない全く新しい概念のゲームを「ロールプレイング」と呼ぶようになるのは1975~76年頃であるが、この時点ではまだあまり一般的ではなかったようだ。なお皮肉なことにロールプレイングが世に広く認知されるようになったのは出版1年後のジェームズ・ダラス・エグバート三世失踪事件からである。


アンドリュー・J・オファット
『Swords Against DarknessⅢ』
*SFマガジンなどで短編が少数和訳されたのみ

 

フレッチャー・プラット
『The Blue Star』


フレッド・セイバーヘーゲン
『アードネーの世界』

マーガレット・セント・クレア
『THE SHADOW PEOPLE』『SIGN OF THE LABRYS』
*上記ダンセイニ著作『ナス氏とノール族の知恵比べ』の続編ともいえる短編『The Man Who Sold Rope to the Gnoles』を執筆しているが、こちらの作品もガイギャックスは読んでいたようである。


J.R.R.トールキン
ホビットの冒険』『指輪物語
*スマウグ(財宝を抱えた強大なドラゴン)、エルフ、ホビット(ハーフリング)、ドワーフミスリルバルログ(バロール)、エント(トリエント)、塚人(ワイト)、オーク、ホブゴブリン、ウォーグ、野伏 (クラス:レンジャー)
注意点として『シルマリルの物語』『終わらざりし物語』などの後年になって追加出版された設定は、時期的にAD&D1stへの影響は無い

*オリジナルD&Dの原型となったミニチュア・ウォーゲーム『Chainmail』ファンタジーサプリメント冒頭では「J.R.R.トールキンロバート・E・ハワードなどのファンタジー作家が描いた壮大な戦いを再現」と説明、同ルールのユニットとしてホビット、エルフ、ドワーフ、オーク、エント、レイス(ナズグル)、バルログも登場する。
またドラゴンの項目では、『ホビットの冒険』に登場する強大なレッド・ドラゴン(つまりスマウグ)を例として挙げている。

*ストーン・ジャイアントは夜に岩石を投げて遊ぶのを好み、また他種の巨人より岩投げの射程距離が長くキャッチするのも上手いといった記述が『Monster Manual』に見られるが、これは『ホビットの冒険』にて、トーリン御一行が霧ふり山脈越え時に「石の巨人」を目撃したシーンがおそらく元ネタになっている。

*なおガイギャックスがトールキン、特に『指輪物語』を否定的に扱う理由について「著作権的な問題でD&Dに指輪物語の影響は少ないと強く主張する必要があった」説が根強いが、初期Dragon誌のコラムを読んだ感じでは「トールキンファンに色々言われてニワカうぜぇ!とブチ切れた」といった印象が強く、何よりそれ以上にここに挙げられた作家リストの傾向からして「ホビットの冒険はともかく、指輪物語はガイギャックスの趣味ではなかった」という単純な理由が一番かと思われる。

*トールキンとD&Dの関係性についてはガイギャックスが色々とぶっちゃけているんで、ココを読んで各自判断願いたい


ジャック・ヴァンス
『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』『終末期の赤い地球』
*キューゲルはクラス:シーフの原型の1つ、上記グレイマウザーと同様に作中で呪文書から魔法を使うシーンがある(まあキューゲルは呪文を間違えたりして大変な目に合うのがいつものオチだが)他にもD&Dの呪文関係に多大な影響を及ぼしている

*終末期の赤い地球は「ファンタジー世界だと思ったら、実は科学文明が衰退した遥か遠い未来の地球」という世界観(所謂ダイイング・アース)であるが、コレはC.A.スミスのゾティーク連作にインスパイアされている。なお後年になると今度は『終末期の赤い地球』にインスパイアされたジーン・ウルフ作新しい太陽の書』が生まれるが、この作品の主人公セヴェリアンの持つ剣「テルミヌス・エスト」を元ネタとしてラノベヒロインD&D3.0版で武器マーキュリアル・グレートソード(サプリメント『武器・装備ガイド』収録)が生まれると言う、1930年代から2000年初頭まで続く細くて長い繋がりが見て取れる

*飛ぶように駆けることが出来る魔法の長靴、握れば自動で敵に斬りかかる意思を持った剣、悪意ある魔法を跳ね返す護符、絹で眼球をちりばめたローブ、アイウーン石(未訳morreion収録)、魔法杖などなど直接D&Dに影響を与えたとおぼしきマジックアイテムも多く目につく


スタンリイ・G・ワインボウム


マンリー・ウェイド・ウェルマン


ジャック・ウィリアムスン


ロジャー・ゼラズニイ
『影のジャック』『真世界アンバー』シリーズ
*ジャックもクラス:シーフの原型の1つであるが、後年の上級クラス:シャドウダンサーの元ネタにもなっていると思われる。
神話をベースとしSFとファンタジーを融合させた作品を多く書いたゼラズニイだが、作品ごとの当たり外れが大きい、というか個人の好き嫌いの傾向が大きく出ることが多い。
(アンバーシリーズはファンタジーファンに絶大な人気を誇るが、一部SFファンには低く見られていたり)
個人的にはヒューゴー賞取った『わが名はコンラッド』は大ハズレだが、『ロードマークス』のわけわかんなさが大好き。それと『影のジャック』は「ダークソウル」(特に3作目)との共通点が非常に多い気がするが、マイナーさゆえその点についての指摘考察などは見たことが無い

 

以上の作家の内、ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット、ハワード、フリッツ・ライバージャック・ヴァンスラブクラフト、A.メリットが「AD&Dに最も直接的な影響を与えた」との事。(ガイギャックス的にトールキンが含まれていないのは留意すべき点)


なお日本においては翻訳の関係で直接的にはAD&D1stが入ってこず、ザナドゥ、初代ファイナルファンタジーウィザードリィ、バスタードなどからの間接的な影響となってしまったが、それに比べるとマイケル・ムアコックエターナル・チャンピオンシリーズは順調に和訳されていったこともあって、80年代後半の日本ファンタジー界隈に与えた影響は目に見えて大きかった。

*1:EN Worldフォーラム Q&A with Gary Gygaxスレ#403

*2:1961年、ファンタジーサブジャンルに新しい名称が必要だというムアコックの呼びかけに応えて、フリッツ・ライバーがこの用語を提案した