Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

トールキンにまつわるガイギャックス語録

 *全てEN Worldフォーラム Q&A with Gary Gygaxスレからの引用抄訳

過去のインタビューなどでは詳細が語られることは無く、あくまで噂の範疇だったトールキン財団からの法的措置についてぶっちゃけているのが興味深い。まあこれらの発言全てを鵜呑みにするわけにはいかないが、「RPGトールキン指輪物語が元ネタ」というよくある主張がいかに短絡的なものであるかは、わかっていただけると思う

  #960

    エドガー卿の発言
D&Dのエルフをトールキンのエルフと違うものにしたのは法的な理由があったのですか、それともただ違うものにしたかったのですか?エルフの概念化についてもっと話してもらえますか?


私が『指輪物語』三部作の熱狂的なファンでないことは周知の事実だと思うので、D&Dのエルフがトールキン教授のエルフのコピーではなく、私の概念に近いものである理由のかなりの部分が説明できると思う(笑)

私の考え方は、どちらかというとイギリス神話をベースにしていて、ハイエルフはフランスの「フェイ」の影響を受けています。
もちろん、D&Dの環境は人間が支配的であることを前提にしています。

 

 #1,900

 S'monの発言
ちなみにJRRTの『ホビットの冒険』に出てくる大きなオークは「ホブゴブリン」(LOTRでいうところのウルク・ハイ)と呼ばれ、小さなオークは「ゴブリン」(LOTRのスナガ・オーク)と呼ばれています。偶然でしょうか?

 

JRRTが小説の中で「ホブゴブリン」という言葉を使っていたとは知りませんでしたし、少なくとも記憶にありません。もし、JRRTが大型のゴブリンを "ホブゴブリン "と呼んでいたとしたら、とても驚きです。*1

私が述べたように、私はゴブリンより大きいヒューマノイドの名前が必要で、その種族はすでに詳述されていたので、思い切ってAD&Dの大きい人型種族にゴブリンの小型版の名前を使いました。*2
トールキンがどんな理由であれ、同じことをしたのなら、それは偶然の一致です。*3

 

 #1,916

 グレイマウザーの発言
ホビット、ホブゴブリンといえば D&Dファミリーのゲーム(その他、思いつく限りのファンタジーRPG)に、どうしてオークが登場したのか、不思議に思っていました。
結局のところ、トールキン財団は「ホビット」という言葉を使わせたくなかったのですよね(JRRTは「ハーフリング」も使っていましたが、程度は低かったようです)。
なぜ "オーク "が選ばれて "ホビット "が選ばれなかったのか、何か思い当たることはありますか?

 

それは簡単なことです。エラン・マーチャンダイジング社のソウル・ゼインツは、トールキン財団の代理人として*4TSRドワーフ、エルフ、ゴブリン、オーク、トロール、レイスなどを使うことを望まず、バルログ、エント、ホビットを使うことにも反対していたんだ。
なぜかというと残りはすべて辞書に載っており(オークは "オーガ")、D&Dが描くこれらの生物はJRRTのものと同じではなかったので、彼らはTSRバルログ、エント、ホビットをやめることで喜んで和解したのです。

ちなみに、バルログはこの中で唯一トールキン独自の名前で、"エント "は古いアングロサクソンの言葉で "巨人 "を意味するものである。JRRTの描くバルログは樹木のようで、非常にユニークであり、最も説得力があったと思います。

 

 #1,483

 cimeriansの発言

ホビット族がオリジナルゲームから削除されたのはどのような経緯だったのでしょうか?
トールキン財団からTSRに法的措置の脅迫状が送られたのでしょうか?
 それとも、もっと友好的な電話でゲームからホビット族を削除するように言われたのでしょうか?

 

TSRは、エラン・マーチャンダイジングのソウル・ゼインツから、トールキン財団に代わって50万ドルの損害賠償を求める書類を突きつけられました。*5
主な異議申し立ては、私たちが出版していたボードゲーム『五軍の戦い/Battle of the Five Armies』に対するものだった。
そのゲームは、JRRTの作品の著作権が失効した後、更新される前に出版されたのだが、この作品は既得権侵害であると主張する弁護士からの手紙を私たちに渡してきたのです。
また、バルログ、ドラゴン、ドワーフ、エルフ、エント、ゴブリン、ホビット、オーク、ワーグをD&Dゲームから削除することも要求された。
バルログとワーグだけがユニークな名前だったが、私たちはホビットにも同意し、残りはもちろんそのままにした。
ボードゲームは捨てられ、その結果、この訴訟は示談で解決した。

 

#2,504

エルフの描写については、私はトールキンを見ているわけではありません。
D&Dのエルフは超人でありません。人間より背が高いわけでもなく、一般的に力が強いわけでもない。

 エルフのパラメーターについては、神話、伝説、民間伝承、おとぎ話、ポール・アンダースンの作品*6などの作家のファンタジーをインスピレーション源としています。

もちろん、開発された変種*7は教授の著作を反映しています。
結局のところ、私は彼のファンにアピールするゲームが欲しかったのです。 

 

#3,179

ロバート・E・ハワードの剣と魔法の物語には生々しい迫力を感じるが、子供たちに何度も声を出し読み聞かせた『ホビットの冒険』以外の大教授の物語には全く魅了されない。
私はヴァンス氏のキャラクター作り、説明、会話に魅了されている。
彼の著作の中では、『冒険の惑星』*8が一番好きかもしれないが、選ぶのは難しい。

 

#5,396
(ガイギャックスがコンベンションで若い女性編集者に「どうしてトールキンからドワーフを盗んだのか」と聞かれ、「お嬢さん、私がドワーフを盗んだのは、教授と同じ北欧神話からですよ!」と答えたエピソードに関する話題)

 バラクの発言
ふふ、まだおぼろげながらも彼女はなぜハーフリングがホビットに近いのかを尋ねた方が良かっただろうに。

 

ほんとうにそうだね(笑)。
もちろん私がそれらを作ったのは、エラン・マーチャンダイジングの人たちを困らせるための意図があったのだけどね ── ヘアフット、スタウト、それにトールフェロウ…*9

 

 

#3,187

JRRTの作品について短く答えます。

D&Dゲームを作ったのは売るため、できるだけ多くの消費者に届けるためで、そのためには多くの若いトールキンファンに好まれる種族を入れるのが一番だったのです。
ドワーフ指輪物語3部作の主役ではありませんが、ホビット、エルフ、オーク、バルログ、エント(もちろんアングロサクソン語で「巨人」の意)などは登場します。
だから、ゲームの売りになるように入れたんです。指輪三部作が退屈でも、『Bored of the Rings』*10は最高のスポーツだと思った。
それがどうした?ゲーマーは、好きなだけトールキン風味のD&Dキャンペーンを楽しむことができるのです。

オリジナル及びアドバンストD&Dゲームに登場するすべての種族とクリーチャーを注意深く分析すれば、トールキンにインスパイアされた素材の割合がいかに少ないかがわかるだろう。
もちろん、エルフはJRRTの創作とはみなしません。
ドワーフスカンジナビアとゲルマンのものであり、彼らは多くのイギリスの民間伝承の素材だからです。
教授が書いたもののうち、ホビットバルログ、エントは独自のディテールを持つものだった。

*1:ホビットの冒険』に「ホブゴブリン」が記述されているのは2か所のみであり、1つはガンダルフが灰色山脈について語る箇所。もう一つは序文にてオークを英訳するとゴブリン、大きいものはホブゴブリンと解説されている。この序文は『ホビットの冒険』第2版(1951)以降に追加されたものであり、ガイギャックスが読んだのは初版であった可能性が高い

*2:D&Dの原型であるミニチュア・ウォーゲーム『chainmail』にてゴブリンの強化型としてホブゴブリンが登場し、オリジナルD&Dでこれが「大型で恐れを知らないゴブリン」と記述された。AD&Dで大型に変えたような口ぶりだが、ガイギャックスの記憶違いと思われる

*3:ガイギャックスが今更どう言おうと当時のゲーマーはそうは思わなかったわけで、その後の設定でD&Dのホブゴブリンもウルクハイ的な戦闘集団としての性質を深めることになる

*4:正確に言えばトールキン作品のライセンスを管理する旧トールキンエンタープライズ(現在のミドルアース・エンタープライズ)を通して『指輪物語』及び『ホビットの冒険』の舞台、映画化、グッズの権利を有しており、ゲーム化について訴えれる立場にあったかはやや疑わしい。またこの件にトールキン財団/Tolkien Estateは直接関わってはいないようだ

*5:1977年末、AD&D1stモンスター・マニュアルを執筆していた頃

*6:ポール・アンダースンの作品でエルフが出るとなると、やはり『折れた魔剣』か

*7:グレイエルフ、ウッドエルフ、バレーエルフなどを指していると思われる

*8:ジャック・ヴァンスのSF、アダム・リース・シリーズ

*9:AD&Dハーフリングの亜種3族、それぞれJRRTホビットのハーフット族、ストゥア族、ファロハイド族を明らかにパクった設定を持つ

*10:指輪物語のパロディー小説