Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

バハムート顛末記

クラス:モンクの所かドラゴン関係にでも追記するつもりだったが、長くなりそうなのでここに纏めとこう。

最新のD&Dの話題というには少々遅れているがともかく、マジック:ザ・ギャザリングとD&Dのコラボで生まれたカード、伝説のプレインズウォーカー『花の大導師/Grand Master of Flowers』についてのお話です。

 

花の大導師という可愛らしい名前と周りを飛び舞う7匹のカナリア(映画『ラム・ザ・フォーエバー』でのラムちゃんを彷彿とさせる)が相まってちょっとおマヌケに見えるかもしれないが、その正体は何をかくそう(隠してない)善のドラゴンの神格バハムートとそれに従う7匹のエンシェント・ゴールド・ドラゴンであり、迂闊に手を出すとえらい目にあう。

と、カナリアラムちゃんの話はさておき、D&D系ゲーマーであっても「花の大導師って名前は何なの?あとモンクを呼び出す能力も何由来?バハムートにそんなの無いよ」と疑問に思う人が多いかもしれないがご安心、調べてみました!

で、これはなにかというとオリジナルD&Dにおけるモンクの称号、Grand Master of Flowersから始まる長い後付け設定の歴史からきている。


順を追って書くと

オリジナルD&D サプリメントII『Blackmoor』(1975)
クラス:モンクの登場、さらに最高位モンクの称号としてGrand Master of Flowersを設定、後AD&D1st『Player's Handbook』(1978)にも掲載

AD&D2ndのフォーゴトン・レルム本『The Bloodstone Lands』(1989)
イエローローズ修道院のモンクにおけるグランドマスターの称号として設定

この後わずかな記述を除き、数十年設定的にほぼ忘れ去られる(4版サイオニック本エピックレベルのギスゼライモンクやDnDオンラインのモンクエピックデスティニーぐらいか?)


今回のコラボ『The Legends of Adventures in the Forgotten Realms』(2021)で突然、人間に変身時のバハムートの呼び名として設定される。調べたところ設定初出の記事を書いたライターはジェームズ・ワイアット、3版の頃からお馴染みのあの高貴なるワイアットである。

つまり今回の意味不明な後付け設定に対する感想としては、3版全盛期の頃によく耳にしたお決まりのフレーズ、「ワイアット自重しろ」この一言に尽きる。


きれいにオチがついた所で終わってもいいのだが、今度は遡って「Grand Master of Flowers」の起源について解説する。


レベル:モンクの称号(AD&D1st PHB)

1Lv: Novice
2Lv: Initiate
3Lv: Brother
4Lv: Disciple
5Lv: Immaculate
6Lv: Master
7Lv: Superior Master
8Lv: Master of Dragons
9Lv: Master of the North Wind
10Lv: Master of the West Wind
11Lv: Master of the South Wind
12Lv: Master of the East Wind
13Lv: Master of Winter
14Lv: Master of Autumn
15Lv: Master of Summer
16Lv: Master of Spring
17Lv: Grand Master of Flowers

ガイギャックスによると*18Lv以上の各マスターの称号、これらは全て彼が幼少時よりプレイしていたゲーム「mahjongg」…麻雀の牌が元ネタとなっている。

つまり9~12Lvの東西南北は風牌が元ネタであり、13~17Lvの四季と最後の花は花牌が元ネタ、8Lvの竜はアメリカにおける三元牌の名称「Dragon Tiles」からきている。

 

さらに余談を付け加えるとD&Dのホワイトドラゴンもその発想元に三元牌があったようだ。*2

70年代初頭、ミニチュアウォーゲーム「チェインメイル」にレッドドラゴン(ステゴサウルスのプラモデルを針金とパテと厚紙の翼で改造した物)を出すのに飽きてきていたガイギャックスはドラゴンのバリエーションを増やそうと思い立った。
まず歴史的な文献伝承を調べ毒のブレスを吐くドラゴンに注目、塩素ガスは緑色をしているのでグリーンドラゴンの設定が決まった。
赤竜、緑竜とくればそこから三元牌の中/チュン、發/ハツを連想し、残りの白/ハクからもうひとつの竜族ホワイトドラゴンが誕生した、という経緯らしい。


最新のマジックザギャザリングの話題だったはずが結局はガイギャックス、それもD&Dが生まれる以前のお話まで遡るとは…いくら歴史があるとはいえ、今回はさすがに調べていてうんざりしてきたw

 

追記:なんとかバハムートとGrand Master of Flowersを繋ぐ唯一の接点らしきものが見つかった。どうやらAD&D2ndモジュール『H4: Throne of Bloodstone』において冒険者パーティを導くイエローローズ修道院守護聖人、"二度殉教せし者"聖ソラーズがイルメイター神の下僕でありながらプラチナドラゴンであるバハムート神も崇め、「ビッグ・ボス」と呼んでいたことに起因するようだ。
そんな30年前のシナリオにちょこっと書かれた設定なんて誰もわかんないよワイアット…

*1:EN Worldフォーラム Q&A with Gary Gygaxスレ#1,940

*2:The Slayer's Guide to Dragons序文、2002