Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

オバロの魔法名は厨二成分が足りない

という意見に対し、なぜならD&Dがベースになっているから、と答えることは簡単だ。

さらにもう一歩話を進め、D&Dでの呪文名がなぜこのような簡素な英単語の組み合わせになっているかというと、ジャック・ヴァンスファンタジー小説『終末期の赤い地球』(1975 和訳)シリーズや『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』(2016 和訳)をガイギャックスをはじめとする初期デザイナーが愛読しその影響が大きかったためという。

ここまではネットでググっても出てくる情報だが、では上記の小説での呪文名が和訳された小説ではどうなっているかというと、D&Dの和訳された呪文名とも大きく感じの違った、なんというか"味のある"物となっている。


ウチの本棚に『終末期の赤い地球』もあるし、『切れ者キューゲル』も最近になって国書刊行会から和訳されたことだし、せっかくだから備忘録的にこれらの呪文名を書き留めておく。

 

〈よるべなき包嚢の術〉(河出文庫『不死鳥の剣』収録時の訳)
〈孤絶の包嚢術〉(国書刊行会、訳者は上と同じ中村融)"Forlorn Encystment"
*対象を地表から45マイルほどの地下に閉じ込める呪文、D&D《インプリズンメント/幽閉》呪文の元ネタとして知られる

ラグウィラーの〈かゆみ地獄〉"Lug-wiler’s Dismal Itch"

〈裏返しの術〉"the Inside Out and Over"

ザスドルバルの〈目印付き転送の術〉"Thas-drubal’s Laganetic Transfer"

〈遠隔急派の術〉"the Agency of Far Despatch"

〈足指肥大化の術〉"The Spell of the Macroid Toe"

〈フェローヤンの二次金縛り〉"Felojun's Second Hypnotic Spell"

〈ファンダールの渦旋活殺の術〉"Phandaal's Gyrator"

〈ファンダールの魔法のマント〉"Phandaal's Mantle of Stealth"
*D&Dでもこのような魔術師個人の名の付く呪文は多い。

〈活力持続呪法〉"The Charm of Untiring Nourishment"

〈球状排撃術〉"The Spell of the Omnipotent Sphere"

〈時間遅滞の呪文〉"the Spell of the Slow Hour"

〈捻転苦の呪文〉"twisting torment"
*なぜだかこの呪文だけツイスティング・トーメントとルビを振ってある

〈無敵火炎放射術〉"The Excellent Prismatic Spray"
*見てのとおりD&D《プリズマティック・スプレー/虹色のスプレー》呪文の名前の元ネタである。
D&Dのものは七色のビームで対象に盲目効果をはじめエネルギーダメージ、毒、石化、狂気、追放などをランダムで与えるものだが、ヴァンスの作中描写では「四方八方から炎が襲いかかる」「多彩な刺し殺す火箭」とあり、これはどちらかというとファイアーボールやマジックミサイルの方が近いか。


以下、魔術師リアルト『Rhialto the Marvellous』(1984未訳)より

序文
Xarfaggio's Physical Malepsy
Arnhoult's Sequestrious Digitalia
Lutar Brassnose's Twelve-fold Bounty
The Spell of Forlorn Encystment
Tinkler's Old-fashioned Froust
Clambard's Rein of Long Nerves
The Green and Purple Postponement of Joy
Panguire's Triumphs of Discomfort
Khulip's Nasal Enhancement
Radl's Pervasion of the Incorrect Chord

『The Murthe』
spell of Internal Solitude
spell of twisting and torsion
spell in turn of compressions from seven directions
spell of dissolution

『Fader’s Waft』
spell of inanition upon Frole
the Spell of Soft Silence
Spell of Lightsome Striding
the Spell of a Hundred Centuries

『Morreion』(初出は1973)
Houlart's Visceral Pang
Green Turmoil
Galvanic Impulse
Houlart's Blue Extractive
spell of brain pullulations
Instantaneous Galvanic Thrust
Instantaneous Electric Effort
spell of Temporal Stasis
*これこそ《テンポラル・ステイシス》呪文の起源だろうが、作中描写は完全に《タイム・ストップ》呪文そのものとなっている。
作中、魔術師たちは手に入れたアイウーン石を山分けるするため、抽選によって配当を決める事にするのだが、主人公リアルトはテンポラル・ステイシスの魔法で周囲の時間を止め、その間にチップに印を入れるというインチキを敢行。しかし他の魔術師も同様に何時の間にやら時間停止で印を書き換えていた為、リアルトの企みはあえなく失敗…というオチ。『終末期の赤い地球』収録の連作よりは『切れ者キューゲル』シリーズに近い、ヴァンスらしいユーモアの利いたシーンとなっていた。

 

2001年のガイギャックスの記事によると《ローブ・オブ・アイズ/Robe of Eyes》も『終末期の赤い地球』かららしいが、これは〈情無用のチャン〉の着ている寛衣を指しているのか?(原文では"robe of eyeballs threaded on silk")また《アイウーン・ストーン/Ioun stone》も初出は終末期の赤い地球シリーズからだが、これが記載された小説『Morreion』は残念ながら未訳、国書から翻訳されないかなあ。


なお超位魔法のオリジナル&厨二度が高くウィッシュを除くとD&Dに同様の物が見られないというのは、最上位の魔法だからはっちゃけた!という事もあると思うが、発想元となったD&Dのエピック呪文がオリジナル呪文作成の為のルールという側面が強いため、どんな名前のすごい効果の魔法でもアリだろう、とオリジナル度を高めて作った結果だと思われる。


*切れ者キューゲルの和訳について、「40年遅ぇよ」という意見もあるだろうがここはさすが国書!と称えたい、みんなも買おうw
早川も相変わらずマイペースで刊行してるし、長生きする事はSF&ファンタジーオタには必須のスキルである。