Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

1986年の怪物誌

最近になって昭和の頃によくあったRPGモンスター解説本なんかを色々と読み返していたのだが、あらためて見るとなぜかやたらと1986年出版の物が多い事に気が付いた

 

出版物を主とした雑な日本RPG年表

1984/12/1 『火吹山の魔法使いファイティング・ファンタジーゲームブック

1985/11/21 日本ファルコムザナドゥ』発売

1985/12/1 『ウィザードリィ モンスターズマニュアル』

1985/12/1 『パックス砦の囚人』AD&Dアドベンチャーゲームブック邦訳開始

1986/5/27 『ドラゴンクエスト』(ファミコンゲームのほう、念のため) 発売

1986/8/21 ポプコム別冊『RPGモンスター大事典』

1986/9  『コンプティーク』誌 ロードス島戦記連載開始

1986/10/1  『モンスター事典』ファイティングファンタジー

1986/10/1  『モンスター・コレクション―ファンタジーRPGの世界 』

1986/11/15  『RPG幻想辞典』

1986/12/5 『モンスター大図鑑』 

1987/1/26 『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』 発売

1987/4/26 スティーブ・ジャクソンイアン・リビングストンが来日サイン会
*ゲームブックブームの絶頂期

1987/5/1 『ザナドゥ データブック Vol.1』

1987/7/1 『D&Dがよくわかる本─ダンジョンズ&ドラゴンズ入門の書』

1987/12/18 『ファイナルファンタジー』 発売

1987/12/22 『ウィザードリィ 狂王の試練場』ファミコン版 発売

1988/2/10 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』 発売

1988/10/1 Truth In Fantasy1 :『幻想世界の住人たち』

1988/11/10 『BASTARD!!』 2巻発売 *鈴木土下座ェ門事件

1988/12/1 『TVゲーム怪物イラスト大事典』(ファミコン必勝本

1989/3/1 『ファイナルファンタジー モンスターマニュアル―天野喜孝イラスト集』

1989/10/1 『ロールプレイング・ゲームの達人』(現代教養文庫

1990/4/1 Truth In Fantasy6:『虚空の神々』

 

1985年に和訳された新和赤箱D&Dの販促から始まったグループSNEの活躍
ロールプレイング・ゲームの入門編として、あるいはファミコン買えってもらえない子の代替品として急激に部数を伸ばしたゲームブック界隈
国産パソコンゲームにおいてはザナドゥブラックオニキスのヒット
そしてファミコンからドラゴンクエストの発売

1986年は海の向こうからやってきた小さなうねりが重なり合い、やがて大きな波となった起点の年ともいえるし、ロールプレイング・ゲームの主流がいまだ紙と鉛筆でプレイするものであり、今までにない未知のゲームとしてのきらめきを持っていたぎりぎり最後の時期だったともいえよう

 

以下、個別の書籍レビュー、購入の参考にでもなれば

 

ウィザードリィ モンスターズマニュアル』 エム・アイ・エー 定価780円 新書
著者:ゲーム・アーツ(竹内誠) イラスト:ABE JAPAN

参考書籍『指輪物語』『ホビットの冒険』『魔法の国ザンス①カメレオンの呪文』『聊斎志異』『アラビアンナイト』『グリム童話』『ペロー童話集』

Wizardry #1に登場する全モンスターをイラスト化し解説した図鑑。
一般的なモンスターは別としてウィズ固有種なぞは僅かな情報からモンスター設定をでっち上げなければならなかったのだろう、出典不明の謎情報(恐らくは独自解釈)の多さが目立つ
ワータイガーが中国で共産党入りして秘密諜報員として活動とか、それはさすがにどうなの?的な解説もあるが、ともかく当時の人の苦労が偲ばれる。

当然D&D固有モンスターは存在しないのだが、(下記『モンスター大図鑑』に比べると少数ながら)すでに一部にAD&D出典とおぼしき記述がある。
例えば、ファイアージャイアントの説明には「ドワーフのようながっしりとした身体」「肌は石炭のように黒い」「目は赤色」「歯はオレンジ」「大きな剣を好む」といった特徴が書かれているが、これらは全てMonster Manualでの記述と同一である。

しかしながらコボルドを犬科の動物を思わせる頭部が特徴としつつも、皮膚を「灰色の鱗」(これは末弥純デザインのファミコン版に引き継がれる)とするなど、AD&Dでの「錆がかかった茶色~錆びがかかった黒」とは異なっている点もある。

 

----------ここから1986年の出版----------

別冊ポプコムRPGモンスター大事典』 小学館 定価1500円 A5判
著者:ポプコム編集部 イラスト:柳 柊二

参考文献:AD&D1st Monster Manual、Monster Manual 2、Fiend Folio、Deities & Demigods、ザナドゥ・マニュアル、Wizardryマニュアル、ULTIMAⅣマニュアル、ほか

参考文献の濃さから察せられるだろうが、これが手持ちのモンスター解説本の中で一番AD&D要素をストレートに味わえる(てかこれ新和TSRに話通してんのかなぁ?)。
基本的にAD&D1st各ルールブックとウィザードリィ#1よりピックアップしたモンスターの解説和訳及びカラーイラスト化と思ってよい。

つまり左利きのリザードマン、ポールアームを担いだ豚顔オーク3人組など原典に近いイラストを柳柊二氏の素晴らしいアートで鑑賞できる(あとはサターン星人のごとき尖り頭のワードナとか)。

特筆すべきはDe&De(AD&D1stの神格本)までも参考文献にしている為、『ドルアーガの塔』の元ネタをカラーイラスト化したものも…

それとドラゴンクエスト3の一部モンスターが、この本を参照してデザインされた疑惑が出てきたが詳細は下記に

 

 

ファイティングファンタジー 『モンスター事典』 社会思想社 定価880円 文庫
S.ジャクソン、I.リビングストン 監修 M・ガスコイン

原題は〈奈落の底から〉(数年前に復刻版が出てた)、ファイティングファンタジーアドベンチャーゲームに登場するモンスターたちをまとめた解説本である。

AD&Dから影響を受けたモンスター及び設定もないでもないようだが(マインドフレイヤが元ネタっぽい"頭脳殺し"やエルフの種別分けなど)、解説文以上にイラストの独自色が強く出ており、それは読者の記憶にファイティングファンタジーシリーズの強烈な印象を残すこととなる。
(このエルフのイラストを見てしまうと、設定はどうあれD&Dや指輪物語でのエルフと同一視することなど到底不可能であろう)

余談、Wikipediaミミックの記事には"「やつし」などの訳語が使われる事もある"とあるが、この「やつし」の出典はファイティングファンタジーシリーズの擬態モンスターであるImitator/イミテイターの訳語であるため、正確には「ミミック=やつし」ではない。現状ミミックをやつしとしているのは自分が知る限り『ゴブリンスレイヤー』(またオメーか)だけである。

 

 

『モンスター・コレクション - ファンタジーRPGの世界』  富士見ドラゴンブック 定価480円 文庫
著者:安田均グループSNE
カバーイラスト:天野喜孝 本文イラスト:木戸一行、米田仁士末弥純

「あのモンスターの弱点は!?」古今東西の主要モンスター74種を集め、イラストとともに、その由来、特徴、弱点、正しい対処法などをくわしく解説。冒険者必読の一冊!!と帯にあり、各モンスター紹介と小説やゲームでの扱いを(ややD&D系を重点的に)詳細に解説。
また最終ページは新和D&Dの広告となっているのが時代を感じる(手持ちのは初版だがエキスパートルールセットまで発売中となっている)

特徴:現在でいうTRPGのみを"ロールプレイング・ゲーム"と記述し、他の物はコンピューターRPGゲームブックとジャンル分けしている。
RPGの例として"『ドラゴン・クエスト』(コンピューターゲームではない、念のため)"と今の常識からは考えられない注釈がある

ドラゴン各種に対し"D&DとアドバンストD&Dのルールでさえ、微妙に食い違っている"とAD&D(この頃は1st)と(クラシック)D&Dでの違いについてもちゃんと記述している点は、当時としては珍しくポイント高い

各モンスターの対処法として「眠り/スリープ」の呪文が利くかどうか、幾度にもわたり記述。まあD&D系だとそれは重要よね。

ホビットの冒険』におけるトロールが、日光で石化する弱点を持つ特徴について"ゲームにおいてこの性質を再現しているものは少ない"と苦言を呈しているが、そもRPGトロールトールキンではなくポール・アンダースン『魔界の紋章』由来のものである

ホブゴブリンについてはAD&Dにおける描写(戦闘集団、日光が苦手でないから地下でも地上でも遭遇する)やトールキンでの扱い(ウルクハイ起源説)などには触れず、"ホブゴブリンとは田舎ものゴブリンという意味" "田舎者だけに力は強い"と、独自解釈を展開。そしてこれは現在でもゴブリンスレイヤーに引き継がれている

 

 

RPG幻想辞典』 日本ソフトバンク出版事業部 定価1500円 A5判
著者:早川浩 イラスト:Nikov *雑誌『Beep』連載の記事を纏めなおし書籍化したもの

参考文献:AD&D1st Monster Manual、Monster Manual 2、Fiend Folio、Deities & Demigods、RUNEQUEST、TUNNEL&TROLLほか神話伝承関係や幻想文学などの文献多数

序文にて「日本でのRPGの歴史は浅く受容のされ方がかなり特殊だった。まず『ウルティマ』『ウィザードリィ』などの完成されたコンピューターRPGが入ってきて、これを真似るような形でソフトが作られていったこと、また『指輪物語』もD&Dの歴史的背景も無かった。これでは幅広いバックグラウンドを持ったRPGを楽しむ発想は生まれるべくもなかった」と警鐘を鳴らし、このギャップを埋めるべく本書を書いたとの事だが、それから40年近くたった現在でもトールキン関係以外の状況は改善しているとは言い難い

主なコンテンツ:まずコンピューターRPGとボード版RPGの違いを解説、D&D及びルーンクエスト及びトンネルズ&トロールズを紹介、ファンタジーの背景として『アーサー王伝説』と『指輪物語』の紹介、RPGの源泉として各神話の解説、キャラクター種族、魔法、武器防具、モンスター、ダンジョンの歩き方講座。おまけに付録としてオリジナルボード版RPGアルビオン』の掲載と、これ1冊で盛沢山RPGの包括的な解説書となっている。


特徴:「モンスターマニュアル」の章における各解説については、語りだしは神話伝承ベースだが詳細はAD&D1stとなっているパターンが多い。モンスターのチョイスもAD&Dサプリメントのマニアックなモンスターが多めであるが、ルーンクエストグローランサー)からのダック(アヒル人間)なんかも記載されている(てか出典は書いて欲しいよう)。

RPG的ファンタジー背景世界の源泉として指輪物語を重要視し紹介に紙面を割き、"ボード版RPGの元祖『D&D』は『指輪物語』をもとにつくられたゲームだ"と、今となってはやや正確さを欠く記述が。Appendix Nにあるような剣と魔法の小説にはまったく触れておらず、一言ムアコックへの言及があるくらい。

巻末スペシャルサンクスにて千葉大SF研ほか複数のゲームサークルの名を挙げている

 

 

『モンスター大図鑑』 出版:スケール 定価2800円 A4判ハードカバー
イラストはウルトラマンのデザイナーとして名高い成田亨
本文解説はゲーム・アーツの竹内誠、後にウィザードリィ関連のノベライズを手掛けることになる人物である

参考文献:ギリシヤ神話、ウィザードリィ・モンスターズマニュアル、ケルト妖精物語、指輪物語
参考ゲーム:ウィザードリィ夢幻の心臓2、ファンタジアン、ウルティマⅣ、ブラックオニキス、アークスロード

"この本のモンスターたちは、コンピュータゲームのロールプレイング・ゲームの中に登場するものだけを選択してある。その中でも、そのゲームにしか登場しないオリジナルは排除し、神話や伝説などで有名なものを掲載している"

特徴:ぱっと見登場モンスターはややウィザードリィ色が強いか?AD&Dについての言及は一切無いが、ゾーン/Xornとまったく同じゾルン/Zornローパー/ Roperそっくりのリーパー/Reaperなど、D&D固有モンスターも表記の細工により登場させ、(コメ欄指摘によるとこれらパチモンモンスターはウルティマⅣが出典元との事。しかしながら解説文はAD&D1stモンスターマニュアルの元ネタまんまという巧妙なずらしが仕込まれている)さらにはジャイアントや各色ドラゴンの性格&ブレスウェポンの記述など、AD&D1stモンスターマニュアルからの引き写しが多くのモンスター解説で見られる(…というかこれ全部比較するのめんどくさくてやらないけど体感4割はMMの和訳みたいなもんだな)。

メイルフィックについて"古代の人間が現れる前から存在した悪霊"と『ウィザードリィ モンスターズマニュアル』の設定を引き継いでおり、この時点ではパズズ像の姿では無い。

----------ここまで1986年の出版----------

 

 

Truth In Fantasy1 :『幻想世界の住人たち』  新紀元社 定価1806円 A5判

著者:健部伸明と怪兵隊 本文イラスト:森コギト

この本におけるモンスター解説はあくまで神話伝承ベースの知識であり、RPGでの扱いについては軽く触れる程度。AD&D準拠の解釈記述は一切出てはこない。

参考文献として大量の神話関係の海外資料ほか、参考ゲームには指輪物語ロールプレイング、ルーンクエスト、ペンドラゴン、ドラゴン・クエストコンピューターゲームではない、念のため)キングアーサー、ドラゴン・ウォーリアーズ などの各TRPGの名を挙げているのだが、これにD&D系は入っていない……著者は新和D&Dの翻訳に携わったにもかかわらず、だ。意図的にD&D系を除外しているのは明らか。

このTruth In Fantasyシリーズは当時学校の図書館にも置かれていたが非常に人気があり常に貸し出し中、事前の根回しが無ければとても借りられない程であった。

 

 

ファミコン必勝本『TVゲーム怪物イラスト大事典』 JICC出版局 定価780円 新書

監修:北枕獲 イラスト:品川るみ、加藤俊章、西川多恵子、鳥越浩二、芳尾英明、鳥飼規世

―はじめに― 今開く、愛すべき怪物の世界!
ファミコンRPGは、モンスターの特性が再現されていない事が多い。実体を持たないはずのモンスターを剣で切るなんてことを、平気でやってくれる。これじゃ、モンスターの魅力は半減だ。ゆえに、この本ではファミコンには、あまりこだわっていない。ゲームでは分からない本当のモンスターの姿を、みんなにも知ってほしいんだ。きっと、きっと、キミも彼らのとりこになるに違いない。

序文より抜粋、良い文章だねぇ。
著者の北枕獲(夢枕獏ではない、念のため)はファミコン必勝本編集部のライターだが、ハドソン製RPG邪聖剣ネクロマンサー』のモンスター監修にも関わっていたようである。

対象読者がファミコンユーザー、つまり当時のガキンチョということもあって(唐突に現れるゼラチナス・キューブを除けば)D&D固有と言えるモンスターは少なく一般的なチョイスとなっており、これらをかなり砕けた文体で解説しているのだが、その内容をよくよく読めば大半はAD&D1st準拠になっているというギャップがすごい(例:キャタピラーの項目でパープル・ウォームとキャリオン・クロウラーを解説している)

漢字には全てルビを振ってある親切設計だが、説明無しにデミ・ヒューマノイドだのローフルだのインフラビジョンが飛び出してくるあたりD&Dゲーマーの性分が隠しきれていない

コボルドについて"体毛は無く灰色か茶色のウロコにおおわれているとゆー説と、赤黒い毛におおわれているとゆー説がある。どっちが正しいかはまだコボルドに会った事がないんで分からない"
スライムについて"実はスライムは植物なんだよ" "たいていのゲームではやられ役として出演しているスライムだけれど、本来のグリーンスライムはかなり恐ろしいモンスターなんだぞ"
と原典との差異についてそれとなく触れているあたり、分かってる感が強い(注:クラシックD&D4版赤箱においてはグリーンスライムの解説に植物の記述は無い、明らかにAD&D1stの知識で書かれている)

あとがきにて「もしモンスターに興味が湧いたら、J.R.Rトールキンの『指輪物語』を読んでみるといい。例えば、オークを豚顔にしたのも、トロルを鬼族にしたのも、みんなこの作品からだ。RPGファンや、モンスター・ファンにとっての聖典だからね」と、ここでも単純化しすぎた指輪物語評が。まあ80年代は情報が限られすぎていて何処もそんな感じだったから仕方ない

 

ファイナルファンタジー モンスターマニュアル 天野喜孝イラスト集』 JICC出版局 定価980円 B5判
監修:北枕獲  イラスト:天野喜孝

FF1及びFF2で使用されたカラーのイメージイラスト十数点とモンスターのモノクロイラストをまとめた本。
Monster Manualそのままの書名といい、よくこれ当時出せたなと思う。新和から何らかの措置はなかったんだろうか?当然ながら参考文献などについでは書かれていない。

特徴:イラストに添えられてる解説文を書いたのは上記『TVゲーム怪物イラスト大事典』著者の北枕獲であるが、本書においてはAD&D準拠の記述はかなり抑え気味となっており、当り障りのないコメント程度のもの……というか矢鱈と不安を煽る割には、攻略の役に立たない微妙な情報が多い。

例:「こんな連中に苦戦するようなら、冒険など止めた方がいい。すぐ家に帰って、地道な仕事に就きなさい」 「パーティの1人や2人は死ぬ覚悟をした方がいいかもしれない」 「彼らを見かけたら、すぐに逃げることを勧める(逃げられれば、だが…)」 「弱点はあるはずだ、きっと…」

しかしながらゲーマーとしての性分か、素でD&D用語(ウィザードリィかもしれないが少なくともFF1,2内では使われていない)を使用してしまっている箇所もある。
クロコダイルについて「彼らの厚い皮膚は、並のレザーアーマー以上のAC/アーマクラスがある」
ゴーストについて「彼らを哀れと思うなら、解呪/ディスペルをして、成仏させてやって欲しい」

明らかに自分のよく知るAD&Dのモンスターであるのに、詳しく書くわけにはいけない北枕獲の胸中はいかばかりか。

 

 

Truth In Fantasy6 :『虚空の神々』 新紀元社 定価1748円 A5版

こちらはモンスター解説本では無く、ケルト及び北欧神話の解説本。この頃に出ていた神話解説本としては専門的過ぎずお手頃で手に入れやすく、のち多くの日本産RPGに影響を与えた。

問題点としてやや強引な独自解釈が多く「スルトの持つ炎の剣はレーヴァテイン」説や「ブリューナク」(原典の神話伝承では記述が確認できない)の発祥地といういわくつきの本でもある。

当時の自分にとってこの本とメガテン攻略本、漫画『孔雀王』が神話伝承オカルト蘊蓄ソースとしての大半を占めていた。

 

わかったこと

 * オッサンが特に版を指定せずD&Dと言った場合、それすなわち1985年に和訳されたクラシックD&D4版であることが未だに多いが、それ以前から輸入ボードゲームを遊んできた層、つまり日本におけるRPG黎明期にゲームデザイナーやライターになったような人たちにとってその範となっていたのはあくまでAD&D1stであり、グループSNE内ですらクラシックD&D系ではない

*RPG解説本で一見D&D要素が薄いものであってもジャイアントやドラゴンの説明にはAD&D1stモンスターマニュアルからの引き写し、孫引きが多い

*RPG黎明期は大学のSF研、ゲームサークルなどアマチュア集団からの情報筋が強い

*ウィザードリィファミコンに移植される前から日本では人気があった

*ザナドゥ取説とかもそうだけど、RPG解説本でAD&Dルールブック風の書名を取り入れたものは当時多かった模様(Monster Manual>モンスターズマニュアル、 Player's Handbook>プレイングマニュアルなど)

*素で忘れられがちではあるが、原典のギリシャ神話におけるキメラはライオンと山羊と蛇(尻尾)を組み合わせたモンスターであり、ドラゴンの頭も翼も生えていない。
これをライオンと山羊とドラゴンの最も最悪の部分をあわせもつ三位一体の怪物としたのはオリジナルD&Dからである。
上記文献では『幻想世界の住人たち』 を除く全ての本で、ドラゴンの頭が生えたD&D系のイラストとなっている。

 

疑問点

*88年末ごろにはRPGの基礎知識としてのD&D系蘊蓄の需要が低下している
ゲームブックブームも急激に冷え込み出版数が減少、ファミコンの普及市場拡大もあって日本におけるRPGの主流が電源系に移ったためか、あとはこの件に鈴木土下座エ門事件の影響はどれだけあったのだろう?

*現在におけるアウルベアおよびアックスビークの普及度の微妙な高さ
上記モンスター各解説本には『RPG幻想辞典』ぐらいにしか載って無いにもかかわらず、けっこう色んなRPGに今でも登場しているような…

ザナドゥ魔導物語の影響力がそこまであるとは思えず、近年の物は韓国産MMO発祥の流れもあるかも?

*「豚顔オーク」は広く普及したが、「和風甲冑を着たホブゴブリン」は伝播されず「田舎者」が一部に広まった件

*トールキンが『指輪物語』でオークをブタの顔を持つ人間のようなモンスターとして登場させ、それがRPGの定説となったと書かれている本が複数みられる……正確なところどうなの?(ちゃんと読んでない)

指輪物語聖典化し、他の「剣と魔法」のファンタジー小説に全く触れないのは、ゲーム資料として『Monster Manual』は読んだけど『Dungeon Master's Guide』までは読んでない、みたいなライターが多かったのかな?(DMGがクッソ読みづらいという問題もある)

*ガーゴイルの設定について、魔法の武器でないと傷つかないとしている物はAD&Dでの記述"SPECIAL DEFENSES: + 1 or better weapon to hit"を元ネタとしているのだろうが、中には「剣では歯が立たないが、メイスやハンマー、アックス/斧などの武器は有効」とする文献もいくつか見られる。これは石っぽい外見から想像を膨らませた独自解釈が広まったのか、それともD&D系以外の元ネタとなったゲームなどがあるのか?

*富士見文庫のファンタジー・ファイルシリーズは現在も電子書籍でお手軽に入手可能だが、モンスター・コレクション(とその改訂版)だけは電子書籍として復刊していない、D&Dの版権関係が原因?でもスペル・コレクションでもがっつりD&D系について記述してるし、イラストレーターから権利許諾が取れなかったという可能性の方が高いか?

*最近のインタビューから見るに堀井雄二がD&D系に明るくないことは明白だが、ドラクエ3にはドラゴンヌを元ネタとする「ラゴンヌ」が登場。こいつは一応和訳された新和D&Dサプリメントにも登場したが、その時の和訳名は「ドラゴニー」だったため、これを参照した可能性は低い。

上記文献の中でネタ元本として可能性が高いと思われるのは『RPGモンスター大事典』であり、これにはドラゴンヌ他アカイライミミックも記載されている。さらに本誌で描かれたミミックは宝箱に目と歯が付いたものであり、原典AD&D1stのミミックイラストよりは大分ドラクエの物に近い

追記:コメ欄指摘によると「歯と目が付いた宝箱」というビジュアルのミミックウルティマⅠ及びウルティマⅣが初出のようだ。『RPGモンスター大事典』のミミックイラストも恐らくウルティマミミックに影響を受けたものだろう。

 

以下、参考画像

*ミミック各種、左からMonster Manual、RPGモンスター大事典、RPG幻想辞典、TVゲーム怪物イラスト大事典。なおTVゲーム怪物イラスト大事典ではドラクエ3での扱いを重点的に解説しているが、イラストでは腕(擬足)が生えていたりとやはりAD&D1st準拠である

 

*アケイライ各種、左からFiend Folioザナドゥマニュアル、RPGモンスター大事典、ドラクエ3ザナドゥではアチャイライ表記だが、RPGモンスター大事典ではアカイーライと、ドラクエ3でのアカイライに近い

 

*左からギル、カイ、ドルアーガ。上段は元ネタのDeities&Demigods 、下段はRPGモンスター大事典から

*モンスター大図鑑より成田亨デザインのメイルフィック、ウィザードリィ モンスターズマニュアルで描かれた「日本神話において"荒御魂"として現れたマイルフィク」の影響が大きい。