Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

AD&D1stから見るWizardryのモンスター

オバロ新刊が中々出ないので最近は暇に任せてJavardryEditor(Wizクローン作成ツール)を弄くりまわし、D&D3.5eのデータを流し込んだ「ぼくのかんがえたウィザードリィD20」を作ってテストプレイという不毛な行為に勤しんでいたわけだが、その過程でWizardry#1とAD&D1stのデータを比較検証するうち、色々見えてきたものもあった。

まあゲームブログでのWizモンスター考察など今まで散々なされてきた月並みな記事であろうが、意外とD&D視点からのものは無いようなのでちょっと書いてみる。


さてWizardry#1に出てくるモンスターたちだが、Wizardryオリジナルや冒険者タイプを除く一般的なものはAD&D1stの影響が大きい、というかモンスターマニュアルのデータまんまのものがいくつか見受けられる。

 

オーガ/Ogre HP:4d8+1 AC:5
ガーゴイル/Gargoyle HP:4d8+4 AC:5
トロール/Troll HP:6d8+6 AC:4 再生3
ヒュージスパイダー/Huge spider HP:2d8+2 AC:6
ファイアージャイアント/Fire giant HP:11d8+4 AC:3
ワイバーン/Wyvern HP:7d8+7 AC:3
ゴーゴン/Gorgon HP:8d8 AC:2
ボーリングビートル/Boring beetle HP:5d8 AC:3
ジャイアントスパイダー/Giant spider HP:4d8+4 AC:4

 

以上のモンスターはヒット・ダイス、アーマクラスともにAD&D1stのデータと完全に同一である。
また他にもChimera、Giant toad、Will o' wisp、Fire dragonなどのデータも少々の差異があるもののAD&D1stのデータに近い。

KoboldとOrcの立ち位置が逆転していたり興味深い点もあるが、AppleII版没データにオルクスやティアマトがいるなど、かなりの部分でAD&D1st『Monster Manual』から引っ張ってきている事がわかる。

*なおWizardryでは一部のジャイアント系モンスターがなぜか1HDであった為(例:ポイズンジャイアントのHPは1d1+80)、マカニト(8HD以下、つまり英雄レベル未満のザコを即死させる呪文)が効いてしまう。


そしてこれからが本題だが、Wizardry#1の気になるアイツ、謎の最強モンスターであるマイルフィック/Maelificの正体に今回は迫ろうかと思う。(言うまでもないが、「古代の魔王」だの「正体はパズズ」だのはファミコン移植時のイラストとともに日本側ででっち上げたものであり、オリジナル版スタッフの意図した本来の姿とは何の関係もない)

マイルフィック/Maelific
種族:不死
HP:25d4
ダメージ1d4及び1d0+1
AC:-5
呪文無効化:50%
7Lvまでの魔法使い呪文を使用
特殊攻撃: 毒、麻痺、Lvドレイン3、HP再生3


まず目につくのが25という、そのヒット・ダイスの異常な高さ。このようなモンスターはAD&D1st『Monster Manual』には存在せず、直接の元ネタといえるものはなさそうだ。

なにせピット・フィーンドのHDが13とかいう時代である、20HDを超えるモンスターは一部の恐竜やタイタン(17-22HD)、バハムート(21HD)あとはユニーク悪魔(HP固定)ぐらいしかいない。
他にD&Dのインフレ高位アンデッドとして有名なものといえばナイトシェイド三兄弟(17~30HD)がいるが、そちらはクラシックD&Dマスター・ルール・セット(1985)が初出であり、出版時期的にマイルフィックの元ネタとはなりえない。

*無理やりオバロ風に言えば「狂王の試練場」は45Lvもあればクリア出来るダンジョンなのに、マイルフィックは88Lvとかそんな感じ

 

そして最も注目すべきなのはヒットポイント算出に使われているダイスが通常のd8ではなくd4(4面ダイス、踏むと痛い)という点。

これはAD&Dで言えばクラス:マジック・ユーザーのヒット・ダイスであり、他のWizモンスターデータでは魔術師系やニンジャ系のモンスターに使われているものである。*1

さらに続けると、レベルの割に物理ダメージがやたらと低い、魔法使い7Lv呪文(Wizでの最高位)を使用可能な点などもマイルフィックが魔術師系モンスターであることを暗示している。

これらのデータから推測するとデザイナーの想定したマイルフィックの実像は、超高レベルアンデッドの魔術師、強大化したリッチのようなモンスターだったのではないか?

シャルティア「つまり、マイルフィックの正体はアインズ様だったのでありんす!!」
ぷれあです一同「な、なんだってー!?(AA略)」
よし、オバロと繋がったw


以上の推論は、ただ単にD&Dを知る人がデータを見ればこう感じるよという程度のものであり、考察といえるほど大したものではない。
しかしまあ辞書を引いて英単語の意味を調べるとかよりかは幾分、説得力のあるものであろう。

 

追記:
上記ではWizardry#1に出てくるモンスターにはAD&D1stモンスターマニュアルのデータそのままの物が一部に見られると書いた。
しかしながらwizとAD&D1stでは物理攻撃時の命中判定及びダメージの計算自体はほぼ同じものの、各部修正値の算出その他いろいろが異なる為に実際の戦闘バランスは少々違ったものとなる。


おおざっぱに顕著な変更点をまとめてみると次の3つとなる

1:物理攻撃の命中に対する修正および増加率
Wizardry#1におけるファイターの命中ボーナスは(レベル÷3+2)+(筋力による修正値)+(武器による修正値)のように算出される。
レベル当りの伸びが1/3とAD&Dに比べかなり低いが、その後につく+2の補正や武器修正値(特にロングソード系が+4と高い)、筋力修正値算出もSTR-15と単純化されたことにより高くなりやすく、この為AD&Dに比べWiz#1の1Lvファイターはおおよそ+30%程命中率が高くなっている。
*AD&D1stにおけるファイターなどの前衛クラスのレベルによる命中修正は、おおむね1Lvごとに1ずつ良化し、これは3版系での所謂BAB良クラスと同等である。また20面体ダイスによる判定の為、修正値+1は+5%と同義となる

2:攻撃回数のレベル当り増加率
攻撃回数についてはwizでは5Lv刻みで上昇と、これはAD&D1stにおいて13Lvでようやく2回攻撃出来るのに比べるとかなり増加率が高い。
またD&Dには無かった武器データ:最低攻撃回数により攻撃回数が底上げされる事になる。

*もっともAD&Dでは雑魚に対して攻撃回数2倍の特殊処理、weapon specializationの追加ルールよる強化で7Lvから2回攻撃、ヘイスト呪文で倍化とか色々あるが

3:強力なレア武器アイテムの存在
まっぷたつのけん(+2ロングソード相当)あくのサーベル(+3両手剣相当)辺りはまだしも、ムラマサ、シュリケンの異常なまでの火力。
さらに解り易い極端な例を挙げるとwiz#2のLONG SWORD+5(ファミコン版でのエクスカリバー)は名こそプラス5となっているものの、命中修正は+9、ダメージは1D8+10と、D&Dでの+10武器(AD&D1stではまず存在しない)に相当する。


自分が自作d20wizで3.5eの計算式を流し込んでテストプレイした時にも感じたものだが、ファイター素殴りそのままではインフレしていくモンスターのHPに追いつくことができず前衛クラス全般がとても弱く感じる。
(まあこれは《特技》が実装できてない為、当然といえば当然なのだが)
また低レベル帯における物理攻撃命中率の低さはD&D5版に至っても改善することは無く、(ゆえに必中のマジック・ミサイルが重用される)ここらの戦闘バランスを改善しつつアイテム収集、ハック&スラッシュゲーとしての面白さを求めた結果ウィザードリィではこうなった(戦闘能力の向上において武器性能の比重が大きい)、という事情が各データから読み取る事が出来る。

 

さらに追記:

ARMOR CLASS — a measure of how well protected you are. This measure includes armor and other things like hindrance and AGILITY. Bare skin is AC 10. A Sherman tank is about AC -10. The abbreviation AC is often used to denote ARMOR CLASS.

ARMOR CLASS(防御力)…どれだけ防護されているかを示しています。鎧、障害物、機敏性によって左右されます。裸のときはAC10で、シャーマン戦車は約AC-10 です。省略形のACがしばしば用いられます。

Wizardry #1: Proving Grounds of the Mad Overlord. Apple II, Player's Guide 及び日本語PC版マニュアル. 1981)

よく知られているように、上記説明とは異なりウィザードリィではACの算出にAGILITYボーナスは使われていない。わかりやすくAD&Dを再現しきれていない箇所の1つである。

この他にも術者レベルで変動する呪文のダメージ、術者レベルによって突破率が変動する呪文無効化率などなど、ウィザードリィではおそらく処理を軽くするためにAD&Dより削られた要素は多い。

というか後続の和製ウィズやウィザードリィライクなRPGの作者が大元のAD&Dルールを理解してこれらを取り入れていれば、もう少し戦闘周り(特に高レベルで物理一辺倒になりがちなアレ)に深みが出たろうになぁ。
和製ウィズはいつまでも古いシステム引きずってないで、むしろD&D3版系からパクれよ!と自分は常々思ってきたわけだが、そういう宜しくない感情はパスファインダーキングメーカーを数百時間プレイすることによってほぼ浄化されてしまったわけで、これらは老害の戯言と流してもらって構わない………

 

もひとつ追記:
つい最近でたWizardry小説『ブレイド&バスタード2 -鉄骨の試練場、赤き死の竜-』(著:蝸牛くも、イラスト:so-bin)でも大きく取り上げられていたファイアードラゴン≒レッドドラゴンのデータのお話です。

上記でも書いた通りWizardry#1ファイアードラゴンとAD&D1stのレッドドラゴンは(一見しただけでは)おおむね似たようなデータである。

実際に並べてみるとこうなる

  ファイア-ドラゴン Red Dragon
ヒット・ダイス 12 9~11
アーマ・クラス -1 -1
近接攻撃 1D4, 1D4, 4D4 1D8, 1D8, 3D10
呪文能力 魔5Lvまで 4Lvまで各位2個

まあウィザードリィの方が1Lv高くて爪爪噛みつきダメージが半分に減ってるぐらいしか大きな違いは無いな、とか思ってたわけですが……ゴメンナサイ。この度ちゃんとルールを読み返したら全然違ってた

まず、ウィザードリィにおけるブレスのダメージはドラゴンの現在ヒット・ポイントの1/2として算出されるのだが、対してAD&D1stではヒット・ポイントと同値*2となっている。

またAD&D1stではドラゴンのヒットポイント算出は年齢区分によってダイス出目が決められるルールがあり、これがエインシャント(太古)のドラゴンともなれば出目を最大の8として計算するのでえらいことになる。

  ファイアードラゴン Adult Red Dragon Ancient Red Dragon
ヒット・ポイント 期待値54 55 88
ブレスダメージ 期待値27 55 88

『Monster Manual 』記載のドラゴンとの戦闘例の箇所で長々と説明されているのだが、AD&D1stでは耐火抵抗などの対策無しでは英雄レベルであってもブレスをくらった時点でシーフ、マジックユーザーなどのHPの低いクラスは確実に死ぬ。

またHPの高い前衛戦士などであっても対ブレスのセーヴィングスローに失敗すればやはり死ぬ。

セーブに成功した数名の戦士が生き残っても、もはや戦闘継続は不可能な状態までパーティは崩壊という非常にえげつない代物であった。
(それでも1stのドラゴンは、能力がインフレした3rdに比べると弱いとはよく言われている)

このような事態を避けるため、古のプレイでは巣穴で寝ているドラゴンを取り囲んで奇襲したり、ブレスによる死人を最小限に抑えるため戦士を散開させたり、あの手この手でブレスを無駄撃ちさせたりするような戦法が良くとられていたようだ。
要するに歳経りたドラゴンなんか、まともにやりあっちゃダメな存在なのである。

翻ってまともにドツキ合いするしかない(Wiz#1にはコルツもResist Fire相当の呪文も存在しない)CRPGウィザードリィでは物理攻撃とブレスのダメージを半減修正する方向性でゲームバランスを調整した、ということなのだろう。

 

*ちなみにローグライクゲームの元祖『Rogue』および『Nethack』におけるDoragonのデータもAD&D1stの物と非常に近いが(AC及び物理ダメージは同一、Rogueは10HD、Nethackは15HD)ブレスのダメージは6d6(期待値21)と、やはりこれもマイルドに改変されている

*1:AD&D1stではリッチ含むモンスターは全てd8でヒット・ポイントを算出しており、モンスターの種族によりダイスの種別を変えるようになったのはかなり後年のD&D3.0版からである

*2:ブレスは1日3回まで、なおこれはそのまま読めば最大HPと同値ということになるのだろうが、クラシックD&D(Moldvay Basic)での記述を元に現在HPと裁定するDMも多かったようだ