Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

スクウェア製RPGにおけるAD&D(とクラシックD&D)要素

スクウェアゲーと書いたが、主に初代ファイナルファンタジー(1987)を始めとする河津秋敏氏が関わったゲーム、ロマサガまでのお話です。


最近のRPG(雑な括り)作中において元ネタD&Dの要素が見られる事があっても、それらはほぼ先行する作品群からの孫引きというだけであって、その点にあえて注視する必要性はない。
(例えば多くのRPGに登場するモンスター「ミミック」は特定の神話伝承に由来しない純然たる創作、ガイギャックス謹製のモンスターであるが、これをD&D由来と意識し採用しているゲームデザイナーは少ないだろう)

しかしながら、これが初代ファイナルファンタジーとなると少々事情は異なり、あまりに多くの要素をAD&D1stから直接引っ張ってきている為、通常ならばD&D由来の品と見做されない様なものでも、そうでないことに注意する必要が有る。


特に顕著なのがモンスター関係。
例えばスフィンクスヒドラといったギリシャ神話由来のもの、北欧神話または指輪物語由来のウォーグウルフ、さらにウルフやチラノサウルスといった単なる動物や恐竜の類まで、一見D&Dと無関係に見えるこれらモンスターもすべてAD&D1st由来とみるべきである。
なぜなら上記含めたFF1のモンスターは、そのほとんどがAD&D1stのモンスターデータ集『Monster Manual』(1979)、『Fiend Folio』(1981)、『Monster Manual2』(1983)出典のものだからだ。(ココを参照)

*このようなファイナルファンタジーへのD&Dの影響については日本語wikipediaの記事には特に書いてないが、英wikipediaではウルティマウィザードリィと共に触れられており、さらにはFF1及びサガシリーズ主要スタッフの一人、河津秋敏が記事リンク先のインタビューで「出来るだけD&Dに近づけるのが私の目標だった」とはっきり語っている。


それらAD&D1st要素とオバロを絡めたネタでひとつ記事でも書けないかと思い、今回ファミコン版FF1のデータを改めて見返していたわけだが…

ひょっとして「ちからのつえ」って《スタッフ・オヴ・パワー》が元ネタじゃね!?

今の今まで「ちからのつえ」をFFオリジナルと思い、AD&Dのスタッフと結びつけて考えなかったのには訳がある。
スタッフ・オヴ・パワーは所謂、魔法使いの杖として多彩な呪文のチャージや特殊能力を持つかなり強力なマジックアイテムであるのだが、一方それがFFの「ちからのつえ」となると特殊能力が全く無い、ほんとうにただの(ちょっと)ちからの(つよい)つえ、だった為だ。

 

まあ名前が何となくそれっぽい、だけでは元ネタ根拠として今一つなので北米NES版のアイテム名をチェックしてみたところ…

FFファミコン 北米NES 元ネタ
ちからのつえ POWER STAFF スタッフ・オヴ・パワー
まじゅつのつえ MAGE STAFF スタッフ・オヴ・ザ・マギ
まどうしのつえ WIZARD STAFF スタッフ・オヴ・ウィザードリィ
いやしのつえ HEAL STAFF スタッフ・オヴ・ヒーリング

他の杖までも…これもう元ネタで間違いないじゃん!

そして注目してほしいのが、まどうしのつえ/スタッフ・オヴ・ウィザードリィ及びいやしのつえ/スタッフ・オヴ・ヒーリングの存在である。
これらの魔法の杖は、AD&D1stには存在しないオリジナルD&D初出、クラシックD&D系掲載の品。少なくとも初代ファイナルファンタジーのD&D要素は全てAD&D1st由来と思い込んでいた為、これは驚きの発見だった。

 

FF1を始めとした元ネタD&Dの品々はこれ以降、FFシリーズやGBサガシリーズに細々と受け継がれていくわけだが、GBサガからSFCロマサガに移る際にD&D要素は大幅に減少してしまい、ついでにGBサガシリーズまでは漂っていた初期FF的空気感もというか、以降のロマサガシリーズはファイナルファンタジーシリーズとは別の流れとして、そのオリジナリティを深めていく。

しかしながらSFCロマサガ時代になってからでも、新たに追加されたD&D由来の品が無いでもない。


ロマンシング サ・ガ』:メイジスタッフの固有技ファイナルストライク
クラシックD&Dのスタッフ・オヴ・ウィザードリィを折ったら大爆発するという能力、ファイナル・ストライクに由来。
AD&D系においてもスタッフ・オヴ・パワー及びスタッフ・オヴ・ザ・マギはほぼ同じ能力を持っているが、名称は異なりこれはRetributive Strike(3版和訳では"応報の一撃")となっている。


ロマンシング サ・ガ2』:ヴォーパルソード
AD&D系の首切り武器能力、クラシックD&Dには存在しない。


ロマンシング サ・ガ3』:ドラゴンルーラー
クラシックD&D系における最高位のドラゴンであるが、この区分はAD&D系には存在しない。


これらのD&D要素ほか「ネコのツメ」(グレイ・マウザーの佩刀)やサガ2秘宝伝説の「モーンブレード」(エルリック・サーガより)といった「剣と魔法」の小説由来のものも、おそらく河津秋敏氏の影響なんだろうね。

 

追記:2020/12/16、スクエニ公式Twitterアカウント動画(海外向け)で河津秋敏がD&Dファンに向けてサガシリーズの魅力をお話しといいつつ、サガの話はそっちのけで私物のD&Dルールブックを紹介していた。
動画に出ていたのはクラシックD&Dルールセット(赤、青、緑、黒)、AD&D1stサプリメント『Legends&Lore』(1984)、『Fiend Folio』、ランクマーセッティング用モジュール『Swords of Deceit』(1986)、ドラゴンランス用地図集『The Atlas of the Dragonlance World』(1987)……しかしまあクラシックD&Dを除くと全部未訳かつ濃ゆい本ばかりだなぁ。それとランクマー(フリッツ・ライバー作ファファード&グレイ・マウザー シリーズの世界)にまで手を出してたってことは、ネコのツメも河津秋敏氏がFFに入れたってことでほぼ間違いないだろう。

この動画でさらに注目してもらいたいのは、『Legends&Lore』について「これかなり実は、ゲーム……スクウェアにはいってからね、いろいろお世話になったりしてます」と語る部分だ。
この本は世界中の神話伝承に出てくる神々及び英雄たちをD&Dで再現、データ化するという版ごとに恒例の追加ルール集なのだが、当然有名どころの武器防具データも記載されている。

Excalibur/エクスカリバー(+5 ローフルグッド ソード・オヴ・シャープネス、鞘の効果でアーサーは刺突及び斬撃によるダメージ半減)

AEGIS/イージス(+5 シールド、周囲にフィアー呪文の効果、ディスプレイサー・クロークへと変化可能)

Cat's Claw/猫の爪(素ダガー

つまりは、長年にわたってFFシリーズに引き継がれた最強クラスの装備であり、誰もが神話伝承から直接拾ってきたネタと信じて疑わないであろう「エクスカリバー」及び「イージスのたて」すらも、AD&D1st神話本がネタ元という可能性が濃厚となったのである。