Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

二刀流レンジャー ~ダークエルフと共に歩んだ40年~

クラス:レンジャーの能力、二刀流。
D&Dにおいてはもはや伝統と言っても良いほどの歴史ある標準能力なのだが、これは何時から始まったものなのか?
レンジャーは指輪物語の野伏が原型とは言うが、そもそもアラゴルンは二刀流してないし…

まあ海外サイトなら初期D&D考察ブログとか多いし、調べれば纏まった情報が出てくるだろうとググって見たものの、そんなものはない…でも調べ始めてしまったからには…どうするブラックジャガー!?

というわけでえらく調査に時間がかかってしまったものの、おおむね3版系までの流れは把握できた。せっかくだから見て下さい。


1975年 TSR季刊誌『The Strategic Review』Vol.1 No2のオリジナルD&D記事
ジョー・フィッシァー(ガイギャックスのグループで遊んでいた高校生ゲーマー)考案のクラス:レンジャーが掲載される

主な特徴
レンジャーになるには複数の高い能力値が必要
秩序属性限定
1レベル目はヒット・ポイント決定ダイスを2回振る
武器防具に装備制限無し
(AD&D2nd以降のような軽装縛りが無い)
追跡スキル
不意打ちしやすく、されにくい
8レベルからクレリック及びマジック・ユーザー呪文の習得
身に付けて運べる量以上の財産は所有できず、余分は寄付する
8レベルになるまで側近や従者を雇う事は出来ない
ジャイアント・クラス(コボルドジャイアント)に対する近接攻撃へのダメージ・ボーナス
*対ジャイアントクラス特効は1Lvあたり+1のダメージボーナスと、インフレが進んだ後の版と比べても大きいものであり、OD&DやAD&D1stではぶっ壊れ能力と言える。また1Lv時に2Lv分のHPというのも、低レベル帯で簡単に押っ死ぬD&Dにおいては大きな利点。

*レンジャー・ナイト(9Lv)になるまでは比較的弱いとデザイナーは言ってるが、とてもそうは思えない。パラディンに似た縛りこそ多いもののファイティング・マン(後のファイター)の上位互換に見える。これは推測だが「戦士、盗賊、僧侶、魔法使い」の4人組というRPGの定番が確立している現在と違い、ウォーゲームが発祥である最初期D&Dではある程度レベルが上がればPC同士ではパーティを組まずに、多数の従者を引き連れてのダンジョン攻略といったプレイも多く、その点で従者や財産に制限のあるレンジャーに低い評価を与えたのかもしれない。


1978年 AD&D1st『Players Handbook』
AD&D1stファイターのサブクラスとしてクラス:レンジャーの掲載

オリジナルD&Dからの主な変更点は
ジャイアント・クラスの拡張(バグベア、エティン、ジャイアント、ノール、ゴブリン、ホブゴブリン、コボルド、オーガ、オーガ・メイジ、オーク、トロール
いずれかの善属性限定(AD&Dで秩序-混沌、善-悪の2軸に増えた為か)
8レベルからドルイド及びマジックユーザー呪文の習得
種族は人間とハーフエルフに限定

*AD&D1st基本ルールではエルフはクラス:レンジャーになれない。これが古参ゲーマーからレゴラスは弓ファイターであってレンジャーでは無い、と言われる所以の1つである。


1979年 AD&D1st『Dungeon Masters Guide』
二刀流ルールの登場
逆手武器はダガーかハンドアックでなければならない、高い能力値[敏捷力]があれば命中ペナルティが減少する

*対ジャイアントクラス特効とのシナジーが強力であり、レンジャー+二刀流の組み合わせはここから普及したものと思われる


1981年 モンスターデータ集『Fiend Folio
ドラウ(ダークエルフ)のモンスターデータ掲載
黒い肌に白髪、呪文抵抗、アダマンタイト製の武器防具(日光で劣化)、明るい光の下でのペナルティ、麻痺毒を塗ったライト・クロスボウ武装、ダンシング・ライト、フェアリー・ファイヤー、ダークネス、レヴィテーションなどの種族による呪文能力、女性のほうが男性より強い(平均ステータス高い)などなど、後の版でも基本となっているダークエルフの詳細な能力が設定される


1981年 Apple IIWizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』発売
クラス:レンジャーがサムライになる

*1Lvで2HDとかMU呪文習得まで再現したはよいが、ジャイアント特効も二刀流も実装できて無いんじゃレンジャーとは言いがたい。そのため装備品でクラスの特色を出す方針に切換え、これをサムライとしたのだろう。


1982年 Dragon誌68号
二刀流に使用可能な武器のリストを拡張


1985年 追加ルール集『Unearthed Arcana』
ダークエルフをプレイヤー・キャラクターとして使用するためのルールが掲載
また種族による各クラス及びレベル制限も緩和され、能力値による制限があるもののエルフ種ならば最大でレンジャー14Lvまで伸ばせる様になった

「ドラウは一般に邪悪で混沌としているがPCはそうである必要はない」
ダークエルフのPCは、地中深くにある故郷から追放された者とみなされる」
「片手で扱える武器であれば、ペナルティなしに2つの武器で戦うことができる」
と、明らかにドリッズトのインスピレーション元となったであろう記述が見られる。


同誌にWeapon Specializationルールの掲載
武器専門化による命中、ダメージ、攻撃回数の強化。これによってファイターの戦闘力が大幅アップ。
またレンジャーも成長面でやや遅れるもののファイター同様にDouble Specializationまで強化する事が可能だった。

*この時点で「二重専門化二刀流で悪のデミヒューマン共をなで斬りするフルプレート着た魔法戦士、追跡もできるよ!」という最強レンジャーの伝説が完成する。


1988年 R.A.サルバトーレ著の小説『The Crystal Shard』
ダークエルフ二刀流レンジャーのヒーロー「ドリッズト・ドゥアーデン」登場、一躍大人気に。
作中で多数のフロスト・ジャイアント相手に無双する活躍を見せる、というかウルフガーも引くほどのジャイアント絶対殺すマンなのはルールに基づいた描写ゆえのものか


同年 レルム地域本『The Savage Frontier』
ドリッズトをレンジャー10Lvとして紹介、詳細なデータは無し


1989年 AD&D2nd『Players Handbook』
2ndルールのレンジャー登場、しかし大幅に弱体化。レンジャーいらない子伝説の始まりである…

武器専門化ルールがファイター専用となってしまい、レンジャーでは不可に
AD&D1stに引き続き武器防具に装備制限は無いが、スタテッド・レザー以下の軽い鎧を装備していないと特殊能力の多くが使えない為、実質軽装戦士となる
ジャイアントクラス特効は無くなり、代わりに選択した1種類の敵種族への命中判定に+4のボーナス、ナーフされすぎ!
1Lv目の追加HPダイスも無くなる
種族は人間、エルフ、ハーフエルフに限定
自然環境での隠れ身と忍び足のスキル
動物と仲良くなれる
8レベルからプリースト呪文(プラントとアニマルの領域のみ、バークスキン以外ろくな呪文が無い)の習得
スタテッドレザー以下なら二刀流時のペナルティ無し、ただし逆手は小さな武器限定
(AD&D2nd基本ルールだけではシミター二刀流のドリッズトは再現できない)

*ここにきてレンジャーへの二刀流標準搭載と相成ったわけだが、クラス説明で挙げられている代表的レンジャーはロビンフッド、オリオン、巨人殺しのジャック、ダイアナの女戦士と、弓兵多めで二刀流キャラはいない

*この後の2nd時代、追加ルールによるテコ入れが何度も行われるが、レンジャーがかつての栄光を取り戻すのには後々の世代までかかる事となる…


1996年 レルム本『Heroes' Lorebook』
2ndレンジャー16Lvとしてのドリッズトの詳細なステータスを記載。
なお最初の小説シリーズなどではカバーアートはCD&Dでおなじみのラリー・エルモアだったが、この頃は怪物画に定評のあるジェフ・イーズリー作のものが多い。ドリッズトもデコ広おじいちゃんみたいに描かれ、イケメン剣士の面影はない…あと鉢金。


1998年 電源系D&Dゲーム『バルダーズ・ゲート』
レンジャー「ミンスク」とハムスターの「ブー」登場。
筋力18/93 知力8 判断力6にバーサーク能力持ちと見事な脳筋ぷり、こいつほんとにレンジャーか?
この二人もMTGコラボカードに登場し「時を超えた英雄」「敬愛されるレンジャー」とやたらと持ち上げられた二つ名が付くように。


1999年 ポール・キッド著の小説『ホワイトプルームマウンテン』
レンジャー「ジャスティカー」登場、やっぱり主人公はレンジャーじゃなくっちゃ!(二刀流じゃないけど)
和訳も出ているのでお勧め、おもしろいよ。


2000年 D&D3rd『Players Handbook』
3.0版ルールのレンジャー登場
ヒット・ダイスはd10、良好なセーヴは頑健のみ(ファイターと同等)
技能ポイント4
能力値や属性による縛りはなくなり悪レンジャーも可能になる
ボーナス特技《追跡》
1Lvから《二刀流》および《両手利き》の特技を取得、9Lvで《二刀流強化》
中装鎧の習熟を持つが、二刀流を使うには軽装であることが必要
レベル4から少量の信仰呪文を習得
「得意な敵」として選択した種族に対して技能判定と与ダメージに+1ボーナス。
これは4lvごとに対象とボーナス値が増え20Lvで+5,+4,+3,+2,+1のボーナスを持つ5種となる。

*後の版のレンジャーと比べると、野外活動系や軽戦士としてのクラス能力が全く無い事と、得意な敵ボーナスの少なさに驚く。


2001年 『Forgotten Realms Campaign Setting/フォーゴトン・レルム・ワールドガイド』
ドリッズトの3.0版データが掲載。ファイター10/バーバリアン1/レンジャー5

*レンジャー分がかなり少なくなっているが、これは一応小説の展開に合わせたクラス構成といえる
二刀流戦士として200年くらい地下世界を戦い抜く>ファイター10Lv
地上に出てきて老レンジャー、モントリオと出会いマイリーキー信仰になる>レンジャー5Lv
蛮人ウルフガーみたいな戦い方もちょっといいかなと思う>バーバリアン1Lv


2001年 D20システムのメインデザイナーであったモンテ・クックが自サイトでレンジャー強化案PDFを公開

3lVごとのボーナス特技取得(二刀流系、弓術系、騎乗戦闘系、一撃離脱系のリスト内から)
ヒット・ダイスがd8に減少
技能ポイントが6へ増加
頑健、反応の2箇所のセーブが良好
呪文習得が少しだけ早く

*軽戦士として技能とカスタマイズ性を増した感じ、これは後の3.5版レンジャーに影響を与えたと言われているが、相変わらずクラス能力しょぼすぎである。


2003年 D&D3.5e『Players Handbook』
3.5版レンジャー登場

HP、セーヴ、技能はモンテレンジャー同様
軽装鎧までの習熟(中装鎧やタワーシールドは無くなった)
ボーナス特技《持久力》の追加
得意な敵ボーナスが3.0版に比べ倍になる。20Lvで+10,+8,+6,+4,+2
2Lvから「戦闘スタイル」二刀流か弓術のどちらかを選択できるようになる、これは6Lvと11Lvでさらに強化される
4Lvから「動物の相棒」ドルイドレベル1/2相当なので弱い。まあ替えの利く騎乗、挟撃要員がタダで手に入ると思えば…
野生動物との共感、森渡り、迅速なる追跡、身かわし、カモフラージュ、影隠れといった野外活動や斥候としてのクラス能力を多数追加。
呪文についてはサプリメントで強力なレンジャー専用バフ呪文がいくつか追加されたが、それらにアクセス出来るほどレンジャーレベルは上げない人が大半であった。

*やれることが増え3.0版のようなしょぼくれた感じは無くなり、弓術レンジャーならばうまく立ち回ればかなりの活躍を期待できるが、二刀流はやはり弱い。というかこれ1,2Lvを生き残れないのでは…敏捷力を切っても二刀流系特技を取得できるのはうれしいが、敏捷切った盾無し軽装が前に出たら簡単に死ぬよ!

*この頃のレンジャーはローグやファイターに2Lv混ぜた後に上級職、みたいな使われ方が大半だったが、そもそも3版系D&Dは複雑なマルチクラスで強さが発揮されるようデザインされており、「レンジャー弱い」「H.F.O弱い」と単クラスで評価してしまうのにも問題がある。
また二刀流は3.5版で複雑化したダメージ減少(物理耐性)に対処する事が難しく、近接物理アタッカーとしては「筋力上げて両手武器で強打」が強力すぎることもあり、この頃の二刀流及び軽装戦士は不遇であった。


2006年 3.5ベースのMMORPG『Dungeons & Dragons Online』正式サービス開始
DDO版レンジャー登場。
ベータ版~10レベルキャップぐらいの頃までは、紙版と大して変わらなかったためいらない子扱いされていたが、アップデートと共に強化され続け最終的に二刀流でも弓術でも強クラスとなった(みたい)。

紙版との主な違い
二刀流と弓術の両方が強化される(特技いっぱい貰える)
弓ダメージに筋力ボーナスが乗る
動物の相棒は無し

レベルアップと共に選択取得できる強化ツリー(テンペスト)では
得意な敵ボーナスが命中にも適用
二刀流時シミターを軽い武器扱い
軽い武器二刀流時ダメージを敏捷力で算出
二刀流クリティカル時ダメージアップ
とクラスデザインはやや4版アタッカー的か。

*「パーティを追放されたレンジャーがアプデで強クラスになり無双、ざまぁ」と書くと今風のネタになりそうなもんだが、当時マジでレンジャー使ってる人は素人だからパーティに入れないって言われたからね…


2009年 3版系D&D後続『Pathfinder RPG
パスファインダー版レンジャー登場。

3.5版との主な違い
ヒット・ダイスd10で中装鎧OK、前線に出れる
得意な敵ボーナスが命中、ダメージ共に適用
動物の相棒はドルイド-3Lv相当で強くなった。
身かわし強化、得意な地形、獲物、狩人の極みなどの能力追加

*3.5版レンジャーを全体的にパワーアップさせた感じ。毎レベル何らかのクラス能力を得るしまた高レベル帯に強力な能力も増え、1本伸ばしが魅力的なクラスデザインとなっている、もういらない子とは言わせないぜ!


2018年 電源系ゲーム『Pathfinder: Kingmaker』
コンパニオンの弓レンジャー「エクンダヨ」登場
悲しき過去を背負った孤高のヒーロー。その心の傷が癒される日はくるのか、はたまた復讐に生き修羅となるか…みたいなキャラ。
飛びぬけた強さ、火力とかは無いんだけど、安定した活躍と便利さというか言ってしまえばシステムに愛されてる。

まず能力値が全体的に高くポイントバイに変換すると31ポイントと、これはディフォルト主人公含めた全コンパニオン中トップである
比較的早い時期に強力な弓を拾える
キングメーカーでは「動物の相棒」が強くて便利な為これを持ってるだけで強クラス
シナリオの傾向的に「得意な敵」を生かしやすい
女性にもモテモテ、やっぱりレンジャーは人気者だね。

 

*よくある疑問、風説まとめ

レンジャー二刀流の起源はドリッズト?
→二刀流ルールが出た時点でレンジャーに使わせる風潮が現れた、つよいから。

そもそもドリッズトがシミター二刀流出来るのは、AD&D1stルールではクラス能力ではなく種族能力によるものである。


二刀流が標準となったAD&D2ndレンジャーはドリッズト人気の影響を受けている?
→出版時期的に近すぎるので可能性は低い。3e以降の一部設定、特技などにはその傾向が見られる物もある(特技《ダブル・ソード・スタイル》の前提地域にメンゾベランザンが入っているなど)


生来の悪属性モンスターであるドラウが善属性限定のレンジャーというのはAD&Dルール的に考えられない、ダークエルフの主人公という設定は界隈に衝撃を与えた
ダークエルフ二刀流レンジャーをプレイヤーキャラとして(DMが拒否しなければ)使用するという発想は、Unearthed Arcanaを読んだゲーマーならばすぐに思いつくはず。
しかしながらサルヴァトーレは当初、蛮人ウルフガーの方をアイスウィンド・サーガの主人公と考えており、小説へのダークエルフキャラ登用に懐疑的だった編集者にも「脇役だから大丈夫」と答えているなど、成り行きとはいえダークエルフが主人公というのはかなり冒険した選択だったと言えるだろう。