君は生き延びることができるか
もう20年ほど前になるだろうか……ある卓でダンジョンマスターがこんなことを言っていた。
「1レベルキャラクターの戦闘には、そのゲームデザインの全てが詰まっている」
当時の自分は「1レベルなんてクラスの特徴も少ないし、やれることの幅も狭くてつまらない。3Lvを過ぎたあたりからが楽しい、さっさとレベル上げたいぜぇ」などと考えていたのだが、今になって改めて1レベルキャラクターの強さという物を検証(D&Dの低レベルキャラは死にやすいと言われているけど、本当のところはどうなの?)していくうち、かのダンジョンマスターの言葉が真実であったことに気付かされた。
検証の為、まずはごく一般的な1レベル戦士がどのようなステータスになるのかプレイヤーズ・ハンドブック3.5版に基づいてキャラクターを作成してみることにする。
「ファイター太郎」
ヒューマン・ファイター・オトコ:HP13、AC17、攻撃ボーナス+5、ダメージ期待値7.5
(ロングソード、スケイルメイル、ヘヴィ・シールド装備、筋力16、敏捷12、耐久16、特技3個うち1つ武器熟練)
*命中判定には20面体ダイスを使用するので、1目盛り=5%の重みになります。つまりアーマクラス17に対しアタックボーナス+5による攻撃は(17-5)=12以上の出目で成功。20面体のうち12~20は9つを占めるので9×5=45、45%の命中率となる
*クリティカルとファンブルを除いた命中率%換算=(21 − AC + AB) × 5
次に今時コアルールだけなんてやってらんねえ!というマンチな方も多いと思われるので、サプリメント(追加ルール)アリで、ガチめにファイターを作ってみる
ドワーフの戦士「トルデク」:HP16、AC18、攻撃+5、ダメージ8.5
(ドワーヴン・ウォーアックス、スケイルメイル、エクストリーム・シールド装備、種族代替クラスルール使用、特技2個うち1つ武器熟練)
*H.F.O太郎と比べると、HPは+3、ACと与ダメ期待値は+1上昇している。些細な差に見えるかもしれないが、これは回避率が5%上がり、さらにダガーの一刺しを耐えられるようになったということだ。その"プラスいち"を軽んじる者は、熾烈なる闘争の坩堝――ダンジョンにおいて、明日の太陽を拝むことはできないだろう。(卓ゲ界隈において「妖怪1足りない」は、その存在がまことしやかに囁かれている都市伝説である)
さらには極端なアタッカー寄りのデータも組んでみる
ハーフオーク・バーバリアン「クルスク」:HP15、AC15、攻撃+5、ダメージ13
(グレートソード両手持ち、スケイルメイル装備、特技1個)
*1日1回《激怒》使用時:HP17、AC13、攻撃+7、ダメージ16
《激怒/レイジ》状態(8R持続)になると一時的にファイター太郎より命中率が10%高くなり、与えるダメージは2倍になる。ボス戦では活躍してくれそう(そこまで生き延びれば)
ついでに参考となるよう、クレリックのデータも載せておく
かわいそうなクレリック「アレーナ」:HP10、AC16、攻撃+1、ダメージ5.5
(ヘヴィ・メイス、スケイルメイル、ヘヴィ・シールド装備、特技1個、1Lv呪文:1日3回)
*名前からして死亡フラグが立ってはいるが、他意はありません。
以上、我らが頼れる前衛メンバーたちのデータと、3.5版SRDから引っ張ってきた敵モンスターのデータを比較・検証してみよう!
雑魚モンスターの例
- コボルド:HP4、AC15、攻撃+1、ダメージ2.5、CR1/4
(遠隔攻撃+3、ダメージ1.5) - ゴブリン:HP5、AC15、攻撃+2、ダメージ3.5、CR1/3
(遠隔攻撃+3、ダメージ3.5)
一般的な強さのモンスターの例
- ホブゴブリン:HP6、AC15、攻撃+2、ダメージ5.5、CR1/2
- オーク:HP5、AC13、攻撃+4、ダメージ9、CR1/2
*CR(脅威度)とは、そのモンスターが平均的な冒険者パーティにとってどれほどの危険かを示す指標。たとえば「CR1」は、1レベルの冒険者4人にとって、その遭遇難易度が5段階評価のうち下から2番目の「並」の難易度となる。
つまり1レベルパーティ4人にとってはコボルド4人やオーク2人の遭遇は難しくとも何ともない、普通の難易度という事である。
*ここで上記のデータを見比べると、興味深いことに多くの敵のアーマクラスが15に集中しているのが分かるだろう。
D&D3.5eにおいて、上記1レベル戦士の太郎がAC15の敵に攻撃した場合、命中率は55%となる。また《武器熟練》の特技を取得しない戦士系クラスの場合は命中率が50%に下がる。つまりデザイナーは意図的に「1レベルの前衛キャラクターが敵に攻撃した際、およそ半分の確率で命中する」ように、アーマクラスの値を調整していると考えられる。
このようにAC15という数値は単なる偶然ではなく、"1レベル冒険者の基準となる戦闘感覚"を定義するための基準値として設定されていると思われる。
さて、コボルド&ゴブリンの雑魚二大筆頭に話を移そう。
ゴブリンの攻撃はファイター太郎に対し30%の確率で命中、ダメージ期待値的に倒すのには4回の有効打が必要となる。対して戦士はゴブリンに55%で命中、その一撃で倒すことが可能である。
この数値だけを見るなら、たとえゴブリンが徒党を組んでいようが正面からの殴り合いでそうそう遅れを取ることは無い。クレリックと一緒に前に並んであとはD20を振り続けるだけ……と油断してしまうかもしれないが、それだけでは済まないのが戦場のリアルという奴である。
モンスターマニュアル3.5版によると、コボルドについて「攻撃をしかける時は、圧倒的多数でかかるか、策略を用いる」「できる限り罠を仕掛けておいたエリアの近くで不意討ちをしかけ、敵を罠に追い込もうとする」、ゴブリンにおいては「待ち伏せ、数の暴力、汚いトリック、そのほか手立ての限りを尽くして自分たちを有利にして戦うのを好む」と明記されている。つまり単なる数合わせの雑魚戦だと思って正面から突っ込めば、気付いた時には罠にかかり戦線は崩壊、側面背後からの包囲殲滅で後衛ウィザード(HP5)は死亡確認、一気に劣勢に立たされることもある。
さらにコボルト及びゴブリンは〈隠れ身〉および〈忍び足〉の技能判定に種族ボーナスを持ち、さらに小型サイズである為これにボーナスが付く。人間より格段に隠れるのが上手く(成功率+40%)、暗視によって暗闇の中から襲いかかってくるその姿は、もはや小手調べでは済まない脅威である。
小説『ゴブリンスレイヤー』にたびたび描写される新人冒険者の悲劇的な末路は、フィクション的演出ではなく、ルールに裏打ちされた "まれによくある"風景の一つに過ぎない。
次はオークのデータに注目してみよう。
ホブゴブリンのデータと比べると、ACが2下がり(回避-10%)、攻撃ボーナスが2上昇(命中+10%)、ダメージは倍近くになるという、これまた非常にアタッカーとして分かりやすいデザインがなされている。そしてその実際の脅威度は+10%では済まされない。
ファイター太郎のAC17に対してオーク(攻撃+4)がファルシオンを振ると、命中率は40%。突撃であればさらに+2が加わり命中率50%となる。で、これが2回命中すると太郎君は死んでしまう。
ついでにいうとファルシオンは高クリティカル武器であり、15%でクリティカル2倍ダメージになって、太郎君は死んでしまう。
……これデザインした奴、出てこい!!(怒
注:厳密には、キャラクターはヒットポイントが0より下回れば瀕死状態で倒れ、そのまま流血瀕死をほっといて-10までいけば死亡状態であり、一応ワンクッションを挟む形になる。しかしながらオークの攻撃2回命中で倒れた戦士(HP-5)にクレリックがキュア・ライト・ウーンズしても回復量は期待値たったの5.5であり、さらには倒れた戦士(伏せ状態)に対する攻撃には+4のボーナスが付くし、戦士が立ち上がるときには"機会攻撃"のルールにより周りのオークから追加攻撃を受ける……戦線を立て直すどころか、"死の起き上がりこぼし"状態という、非常にまずい事態から抜け出せなくなる。
このように戦闘が長引くほど、オークの数が多いほど死亡率は跳ね上がり、ついに不幸な事故は避けられないものとなる。……早くも結論出ちゃったね、「D&Dの低レベルはやばい、オークに2回殴られると死ぬ」*1
特殊能力を持つモンスターの例
- スケルトン:HP6(DR5/殴打)、AC15、攻撃+1、ダメージ3.5、CR1/3
- ゾンビ(元人間):HP16(DR5/斬撃)、AC11、攻撃+2、ダメージ4.5、CR1/2
- グール:HP13、AC14、攻撃+1,+0の3回攻撃、ダメージ4.5および2、CR1
- スパイダー・スウォーム:HP9、AC17、群がり攻撃、ダメージ3.5、CR1
*DRとはダメージ減少(物理耐性)を指し、スケルトンは殴打武器以外の攻撃ではダメージが5減らされ、ゾンビに対しては斬撃武器以外で5減る。
特にゾンビはACが11しかない、ほぼ棒立ちであるのにHPは16もある。明らかに「攻撃は当たってるのに、なかなか倒れないモンスター」としてデザインされているのが理解できる。
ファイター太郎君は、ダンジョンマスターの「剣での攻撃はスケルトンにあまり効いていないようだ」といったヒントを聞き逃さず、予備武器のメイスに切り替えていこう。
あとは古典である『赤箱』の展開にのっとり、クレリックのアレーナがアンデッド退散で蹴散らすのも風情があって良いかもね。
どのみち「あまり強くは無いが、特徴的なモンスターとの遭遇」として、長く君の記憶に残ることになるだろう。
*グールも1レベル帯で遭遇する可能性のあるアンデッドだが、こちらは噛みつき、爪、爪の三回攻撃に加え、それぞれに「麻痺」の副次効果が付与されるという大盤振る舞い。さらに噛みつきによって感染する病気「グール熱」により死亡した場合、真夜中にグールとして蘇るという、いわゆる「アンデッドに殺された者がアンデッド化する」能力も備えている。
スケルトンやゾンビの物理耐性、非実体のゴースト系やターン・アンデッドで退散させられるといった特徴も合わせて見ると、アンデッドというカテゴリー自体が、「特殊な遭遇」としてデザインされている傾向がうかがえる。
*スパイダー・スウォームは無数の小蜘蛛で構成された危険な群体である。アーマクラスこそ書いてあるものの、武器ダメージに対する完全耐性を持ち、さらには群がり攻撃による自動命中と毒を持つ。要するにファイターが殴ってどうにかできるモンスターでは無い。低レベルにおける対処法としては、松明や油瓶を使い焼く、水中へ逃げる、強い風で吹き飛ばすなど、プレイヤーは機転を効かす必要がある。またこのような「びっくりどっきりモンスター」はD&Dゲームには多数存在し、冒険に多少の危険と大きな驚きを与え続けてくれる存在である。
隊長~ボスクラスの例
- ノール:HP11、AC15、攻撃+3、ダメージ6.5、CR1
- バグベア:HP16、AC17、攻撃+5、ダメージ6.5、CR2
*ここでバグベアは、CR1のノールに比べてACと攻撃ボーナスがそれぞれ+2高く設定されているのに注目。
D&D3.5版では、戦士系クラス(いわゆる攻撃成長が良いクラス)は、1レベル上がるごとに基本攻撃ボーナス(BAB)が+1される。さらに、キャラクターがレベルアップの過程で《武器熟練》の特技を得たり、より高品質な武器や鎧を手に入れたりすることを踏まえると「2レベルの冒険者が戦うべき敵」として、攻撃・防御がともに+2強化されているのは理にかなっている。
このような調整は、CR(脅威度)をキャラクター成長の具体的な数値変化に対応させるという、3.5版のシステム哲学をよく表したゲームデザインと言えるだろう。
*脳筋どもには精神作用がスーっと効く
上記データからわかるようにオークやボス格のバグベアは、殴り合いでは危険な存在だが、彼ら脳筋デミヒューマンには意志セーヴ(心術や幻術への抵抗)が低いという明確な弱点が存在する。
- オークの意思セーヴ:-2、
- ホブゴブリンの意思セーヴ:-1
- ノールの意思セーヴ:0
- バグベアの意思セーヴ:1
つまり知力18のグレイエルフ・ウィザードが睡眠/スリープ呪文(DC15)を唱えたなら、オークは80%、バグベアは65%の確率で眠りに落ちる。
0レベル呪文の幻惑/デイズなら、5%減のDC14で敵を幻惑させ、1ラウンド行動不能にすることが出来る。なお巻物から使用するとDC(呪文の抵抗難易度)は最低限まで落ちてしまうため、これらの呪文はウィザードの生スロットから使用するべきだろう。どの呪文を準備していくか、ウィザードは十分に吟味しておこう。
注:ウィザード1Lvがで準備できる1Lv呪文は、知力ボーナスを入れてもほぼ2つ。専門化ウィザード、あるいはエルフ・ウィザードの代替ルールを使用している場合は、さらに1つ追加され合計3つとなる。選択肢としてはスリープ、カラー・スプレー、グリース、マジック・ミサイルなどが代表だろう。
まとめ
- 20年前は「ぜんぜんわからない。俺たちは雰囲気でD&Dをやっている」状態だったが、今回3.5版の各データを検証する事により、明確な哲学を持ってデザインされたシステムだったという事が理解できた。ゴブリンとホブゴブリン、オークにバグベア。全ての数値は意図をもって設計されたものだったのだ。
- 挟撃による+2ボーナスは低レベルでは大きい。クレリックは当てるつもりは無くても、前に出てファイターに協力して後衛の壁になろう。
- 1レベルでは、両手武器はオーバーキル気味で不要かも?盾によるAC+2の方が生存率を大きく上げるはず。それでも両手武器バーバリアンを使いたいのなら、特技は《激怒回数追加》にして1日3回激怒出来るようにしよう。やられる前にやれ!(なおこのように敵主力を瞬時に盤外へ排除できる高火力ユニットは、より高いレベル帯においてこそ真価を発揮するタイプである)
- 同様に3.5版で強いとされてきた「足払い特化」(トリッパー)ビルドも1レベルではそこまで必要ないかも。ただし間合いの長い武器(ロングスピアやスパイクト・チェーン)と特技《迎え撃ち》の組み合わせで、群がる敵を迎え撃つ戦法は強力であり、特技の豊富なファイターは通常の間合いの武器でも《迎え撃ち》は必ず取って、後衛に敵を近寄らせないように!
- ダメージ期待値的に、片手武器であっても一撃で敵モンスターを倒せる確率が高いので、特技《薙ぎ払い》(敵を倒したら攻撃範囲内の別の敵に追加攻撃)はかなり有効。ただし前提特技の《強打》(命中を下げた分、ダメージアップ)が死に特技になってしまうのが惜しいところ。取得特技がいちばん多くなる人間ファイターならば《強打》、《薙ぎ払い》、《迎え撃ち》の3つで、攻撃回数増加を狙うビルドもアリか。
- 松明、ランタン、陽光棒。光源は複数用意しておこう。
- 1レベルの時点でも、ダメージ減少(物理耐性)を持つ敵と遭遇することは珍しくない。初心者向けの卓であるならダンジョンマスターの配慮として、プレロードキャラには各種DRに対応する予備武器を持たせてあげよう。
- ウィザードは1回殴られれば倒れるので、前には出ないように(当たり前)。不意打ち乱戦が怖いならメイジアーマ呪文(AC+4)のスクロールを、お守り替わりに買っておこう。
- ゴブリンおよびコボルドは、素の殴り合いなら戦士は負けることは無いが、「奴らは馬鹿だが間抜けじゃない」 ダンジョンでは決して油断せず、不意打ち奇襲に要注意!
「自分たちプレイヤーが出来る事は、敵モンスターも出来る」という意識を持とう。
- 対オーク戦では2回殴られれば倒され、クリティカルを受ければ一撃で死亡する可能性がある。漫然と戦うには危険すぎる相手だ、常に戦術的優位を確保する立ち回りを心がけよう。
- リソースはケチるな。オークが3体以上出てきたら、虎の子のスリープ呪文の使いどころだ。
- 1レベルでは、呪文は戦況をひっくり返す切り札となりえる。もちろん、敵が使っても……
- 戦闘を「避ける」、「逃げる」という選択肢があることを忘れずに。モンスターの中には足が遅いものもいるし、交渉できる相手だっている(たまには)。
ダンジョンマスターは、初心者相手には手加減しよう(笑
危険な場所や隠し通路、ダメージ減少を持つアンデッドなどの特徴的なモンスターは、状況説明を工夫してプレイヤーにヒントをあげよう。
ダンジョンマスターはプレイヤーの「目と耳」だということを忘れずに。
キャリオン・クロウラーは禁止!
オークは事故りやすい、ホブゴブリンへの差替えも検討しよう。
ウィザードへの組付きやマジック・ミサイル二連発による確殺*2など、極端に効率的な戦術行動は程々に控えよう。
倒れたキャラクターを攻撃してとどめを刺さない事。
忘れないでください、モンスターたちはキャラクターと戦っているかもしれませんが、ダンジョンマスターはプレイヤーと戦っているわけではありません。
心を折りにいくようなマスタリングはやめて、みんなで楽しく!
最後に
時には奮闘むなしく、君のキャラクターが悲劇的な最期を迎えることもあるだろう。
それでも、テーブルの全員が楽しくプレイできたのなら——その冒険は、まぎれもなく君たちの勝利なのだ。