D&D3版以降、アーマークラスが「低い方が良い」から「高い方が良い」へと変化したことに対して、オールドゲーマーからは嘆きの声なんてのも上がっているようで
「なお本家『D&D』等でも現用の版では上方ロール適用の加算式ACに移行している。嗚呼」
……まあ少なくとも現行D&D5版ゲーマーの発言でないことは確かだろう、このカシオミニを賭けてもいい。3版以降のルールで実際にキャラを作り戦闘しd20を振ってACの本質を理解すれば、こうした感想はまず出てこないはずだ。
- アーマークラス(AC)に対する誤解を解く
D&D3版系における命中判定は:(d20+基本攻撃ボーナス+その他の修正値 )≥ AC
というACと命中ボーナスの合計を直接参照する単純な判定となっている。
対してオリジナルD&D~AD&D1eでは攻撃時の命中判定に表(Attack Matrix)を用いており、ACは低いほど命中しにくくなる設計だった。しかしこれは命中表の仕組み上、命中の成否が現在のものとは逆だっただけ、ACの大小の意味が逆転したにすぎないし、この変更自体はゲームの本質的なバランスや難易度には影響しない。
見かけだけで本質はなにも変化していないのだ。
言葉で説明するのもめんどくなってきたので、もう表張る

アーマークラスが10より低くなることは、呪われたアイテムによる場合を除いてありえない。アーマークラスが2を超える*1(=良くなる)ことは、魔法のボーナスや敏捷力ボーナスによって容易に実現できる。「命中判定値」が命中表に載っていない場合は、1刻み(すなわち5%刻み)で上方に投影して求めること。なお20は6回繰り返して使用し、それが終わったら21に進むこと
上記はAD&D1e『Dungeon Masters Guide』(1979)記載のAttack Matrix(ファイター、パラディン、レンジャー、バード用)である。
しかし3版系ゲーマーであれば、これを見て「ピンとくる」ものがあるのではないだろうか?
この表では多くのレベル帯で「2レベルごとに命中判定が2点改善される」ようになっており、また欄外注釈では「1レベル刻みに補間して使用せよ」と記されている。
これはD&D3版系におけるファイター、パラディン、レンジャー、バーバリアンといった前衛クラス、基本攻撃ボーナス(Base Attack Bonus:BAB)が良好とされたクラスたちの1レベルごとにBAB+1ずつ上昇する成長曲線と非常によく似ていることが理解できるだろう。
またクラシックD&D系後期〜AD&D2版で主に使用されたTHAC0(To Hit Armor Class 0)は「アーマークラス0 に命中するために必要なダイスロール(d20)」であり、 レベルが上がるほどに20から下がっていく設計であったが、これもD&D3版系での基本攻撃ボーナス(BAB)の処理と同様のものが逆転されていたにすぎない。(THAC0 20から下がっていく成長は、BAB 0から上がっていく成長に相当)
D&D5版になるとクラス別の基本攻撃ボーナス(BAB)は廃止され、代わりに習熟ボーナスが導入されており、この基礎的な命中修正はAD&DやD&D3eに比べて、かなり緩やかに成長する設計となっている。しかしながら、
- AC10が無防備時の基準値であること*2
- 20面ダイスを用い、1ポイントの差が命中率に5%の影響を与える
という設計思想はACが加算式に改められたD&D3eおよび5eでも一貫して維持されており、これはAD&DにおけるAC確率設計の核心部分といえるだろう。
見かけだけ変化した命中判定およびアーマークラスと違い、D&D3版系/D20システム以降で本質的に変化したルールの重要部分とは、能力修正値の算出法やセーヴィング・スローの再設計、あらゆる判定の体系化・汎用化、そしてそれらすべてを20面体判定に統一した点にある。
しかしながら、オールドゲーマー――いや、はっきりと言えばウィザードリィしか経験のない者にとっては、セーヴィング・スローや20面体による判定といった要素は目に見えず、知識の外にあるものだった。だからこそ、アーマークラスの変化ばかりが取り沙汰されるのだろう。
さあ、今こそD&Dゲーマーはオールドゲーマーの妄言を断ち切り、声高く主張しようではないか、「シャーマン戦車のACは30」であると。*3
――などと息巻いてみたものの、すべてを理解したうえで「それでもACは低い方がいいんだ、ウィザードリィ#1*4がいちばんすぐれたRPGなんだ!! おれには、これしかないんだ!」と言うのなら、そのノスタルジーを否定するつもりは毛頭ない。自分にとってのそれが、D&D3.5版であるように。
*1:なぜここでAC2が基準になっているのかというと、AD&D1e『Player’s Handbook』記載のARMOR CLASS TABLEにおいて、最も優れた装備として挙げられているのが「Plate Mail + Shield」であり、そのACが2だったからである。
*2:注:AD&D1eにおいて命中修正 +0(1HD未満のキャラクターなど)の場合、AC10に対して攻撃を命中させるにはダイスの出目11以上(命中率50%)が必要となる。一方、D&D3eおよびD&D5eでは同条件で出目10以上(命中率55%)と、1ポイントの差がある。またAD&D1eではACのスケールが10(無装備)から始まるが、オリジナルD&D(1974)およびクラシックD&D系(Moldvay版・BECMI)ではAC9が最低(無装備)とされている
*3:ちなみにAD&D1eの『Monster Manual』において、AC−10という極端に低いアーマークラスを持つモンスターは登場しない。たとえデーモンロードやアークデビルといった強大な存在であっても、そのACはせいぜい−6から−8程度である。
AC−10という数値は『Deities & Demigods』に記載された一部の神格にのみ見られる特別な値であり、一般的なモンスターデータにはまずない。
おそらく『ウィザードリィ』の作者が「シャーマン戦車のACは−10相当」と考えたというよりは、当時のAD&DにおいてAC−10がAttack Matrix表の下限であり、ウィザードリィPCがAC-10以下でLO表記となるのも含めて「最強の防御力」を象徴する記号的な数値なのだろう。
*4:あるいは赤箱など