本来なら真っ先に考察すべきだったが、未訳の資料が多くめんどくさくて放置していた「デミリッチ」と「アインズ」の違いについて、あらためて触れてみたい。
書籍版『オーバーロード』では、おそらく著作権的な配慮からか削除されているが、Web版アインズでは取得していた種族クラスのひとつに「デミリッチ」が含まれていた。これは言うまでもなく、D&D(ガイギャックス謹製)由来の存在である。
ではアインズはD&D3版、あるいはAD&Dのデミリッチと同様の能力を持っている、と言いたいところだが、事はそう単純ではない。
以前にも述べたとおり、アインズの能力設定には3.5版のリッチ・テンプレートとの共通点が非常に多い。しかし彼が名乗る「デミリッチ」の名と比較されるべき3.0版『エピック・レベル・ハンドブック』記載のデミリッチ・テンプレートとは、能力・性質ともにかなり異なる点が目立つ。
デミリッチの容貌
デミリッチは眼窩や歯に宝石が埋め込まれた、魔法的に浮遊するドクロ状のアンデッドである。もし威厳あるアインズ様がこのようなお姿だったら数々のイケメンヒーロー主人公溢れるラノベファンタジー界において微妙な立場となり、アニメ化は遠退いたかも知れない。
まあリッチの姿も十分おかしいし、主人公がスライムとか出てくる現状じゃなんでもありか。
デミリッチの誕生
デミリッチは目的を喪失したリッチが魂の維持を怠った結果として肉体の大半を失い、ドクロだけが残った姿である。多くはアストラル界へと意識を移し、物質界には「残滓」としての存在しか残されていない。通常は能動的に行動せず、墳墓の奥深くに潜み、侵入者によって目覚めさせられた時にのみ凶悪な力を振るう、いわば魔法的トラップのような存在である。
ここでアインズ=鈴木悟の抜け殻的な共通性より、いろいろ妄想が広がるがたぶん関係ない。
*リッチの魂がどこへ行ったかというと、さらなる知識の深淵を求め別次元に旅立ったというのが主な理由みたいだが、これは古いファンタジーのいくつかに似たような設定の魔術師が見られる(アンデッド化は別として)。
なお3版以降では微妙に設定が変わり、残滓ではなく魂をソウルジェムに封じたパワーアップ版、意図的な進化形とされ、強大な知性と意志を持って行動する場合もあり、これはこれでモモンガ玉=ソウルジェムという妄想が捗る。(魂を封じた経箱が無事ならば肉体が滅びても数日で自動復活できる)
デミリッチの戦法
デミリッチは生前のリッチ時代に得た高位の呪文能力を保持しており、多くの場合いまだ強大な魔法使いである。しかし物質界での関心を失いかけた存在も多く、自ら進んで戦術を駆使するよりも、侵入者に反応して自動的に発動する呪文や魂を宝石に吸収する能力(soul trap)など、トラップ的かつ一撃必殺の能力に頼る傾向がある。オーバーロードのアインズのように、逐次判断し複雑な戦術を展開する存在とは異なり、どちらかといえば「待ち構える死」に近い。
デミリッチの物理耐性
殴打・斬撃などの通常攻撃をほとんど受け付けない強力な物理耐性を持ち、特定の条件(たとえばエピック級の武器や特定の素材)でなければ実質的に無敵である。特にヴォーパル・ウェポンに対しては例外的な脆弱性を持つ場合があり、それが唯一の致命的な弱点とされることもある。その姿はもはやアンデッドというより魔法的装置か何かのようであり、3.5版に再構築されたモジュール『Tomb of Horrors』では、アサーラックが種別:超小型の人造として登場するなど、単なる不死者を超えた存在として描かれている。
デミリッチは、その存在自体が魔法的な干渉を拒む領域にあるかのように、ごく一部の呪文を除いて完全な魔法耐性を持つ。この能力は生前のリッチが持っていた通常の魔法抵抗をはるかに凌駕するものであり、例えば《ディスインテグレイト》のような特定の高位魔法でしか干渉できない。これはリッチの時には無かった強力な能力であり、アインズの持つ魔法無効化能力との関連が考えられそうだが、それに関してはまた後日。
以上から見るに、恐らく「デミリッチ」という名称は、リッチの上位存在として名前だけを参考にしたものと思われる。実際このような「リッチ → デミリッチ → アーチリッチ」といった段階的なランク付けは、CRPGや『Nethack』など他のゲーム作品でもしばしば見受けられる。