Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

「半森妖精の神人」描写から見るルール その3

今回も隙あらば3.5版語り、いくよー

 

"〈魔法の矢〉を選択したのは報復のためではない。範囲魔法などの場合、レンジャーのような敏捷性に長けている相手だと、確実なダメージにつながらない時がある。 ~中略~ 仲間がいるのだから確実にダメージを与えられる魔法を選んだのだ"   15巻136p

以前にも解説したが、範囲ダメージ魔法の多くは反応セーヴングスローの判定に成功することにより受けるダメージを半減する事が可能である。
そしてクラス:レンジャーは頑健及び反応セーヴ値が良好で伸びやすく、弓術レンジャーは能力値[敏捷力]も高い為、さらにこれにボーナスが付くことになる。
またレンジャーは高レベルで得るクラス能力《身かわし》により、反応セーヴ成功で本来半減のダメージがノーダメとなる。
一方、マジック・ミサイル呪文はダメージこそ低いもののセーヴ不可、絶対命中、力場属性という特性により確実にダメージを与えられる魔法と言える。

火滅聖典は今回〈インヴィジビリティ〉と〈マジック・アロー〉を習得した術者を揃えることで大物食いに成功したわけだが、D&Dの場合は《シールド》呪文やマジックアイテム《ブローチ・オヴ・シールディング/盾のブローチ》など低レベルの内からマジック・ミサイル呪文を防ぐ手段は色々とあるし、何より上位モンスターともなれば呪文抵抗を持っていることも珍しくないのでマジック・ミサイル一本でどうにかなる程甘い環境では無い。
なおこれは逆説的ではあるが、英雄レベルであってもマジック・ミサイル(に限った話ではなく各種の)対策を怠ればたやすく死に至る可能性がある、という教訓を含んでいる。

 

"最初に起こったのは音波の爆発。続いて生じたのは天使の翼"
"ベヒーモスを衝撃波の嵐が襲い、先ほどの豪雨もかくやという光の雨がその巨体を蹴踊する" 16巻237p

分かりにくいので補足しておくが、「爆発」や「衝撃波」と書かれた部分はカコフォナス・バーストによる音波属性攻撃だが、「天使の翼」及び「光の雨」の部分は〈魔法三重無詠唱化・上位魔法封印〉より解放された〈魔法三重最強位階上昇無詠唱化・魔法の矢〉のエフェクト描写、力場/フォース属性攻撃となる。

書籍3巻のシャルティア戦に比べるとずいぶんと描写を省略してるけど、アインズ様お気に入りの確実にダメージを与える手段の1つなんだろうね。

 

"範囲攻撃魔法も、拡散するのか、爆発するのか、はたまた放射するのかで、少しずつ違う" 16巻228p

こーいう3版ルールまんまな事を書かれると一通り解説しなきゃいけないんだろうけど、簡潔かつわかりやすく纏めるのには骨が折れる上、知ってる人には当たり前すぎて面白みが無いという困ったアレでもある。
まあ以前に「ファイアーボールの爆発は爆発じゃないよ」の所にも書いたが、ゲームプレイ上必要なルール要点としては、「効果範囲:拡散は遮蔽を回り込む」「ファイアーボール呪文のダメージによって障壁が砕け穴が開くと、効果範囲が許す限りその先へ炎は広がって行く」の2点ぐらいで、それ以上詳しく知りたい人はSRDかPRDJの「ファイアーボール/Fireball」「呪文の狙いをつける Aiming a Spell」「範囲/Area」「爆発、放射、拡散/Burst, Emanation, or Spread」あたりを読んでみてね。

要するに今回、エルフ王デケムが三重骸骨壁に対し効果範囲:拡散のダメージ呪文を選択すべき場面で効果範囲:爆発のシャイニング・バーストを使ってしまったのは、今まではベヒーモスの力押しだけで事足りてしまい、高位魔法が必要となるような強敵はいなかったという戦闘経験不足による選択ミスであり、さらにはこのシーンを書くに当たってくがねちゃんは丁度いい爆発の呪文が無いかドルイド習得呪文リストを精査しサン・バーストにしたんだろうなぁとか色々想像が付く。

 

"木を魔法的に加工してとてつもなく硬くして使っている" 16巻13p

D&D3版系では《アイアンウッド/鉄木》ドルイド6Lv呪文が相当する他、「ダスクウッド」「ブロンズウッド」といった金属素材とある程度の互換性を持つ木材がいくつか追加ルールに存在する。
これらは主に金属鎧を装備できないという誓いを持つクラス:ドルイドに強固な鎧を作成し与えるためや、手間はかかるものの通常金属の武器防具よりかは軽量化が可能といった点が本来デザイナーが想定した使い方だったんだろうが、甘い……見通しが甘すぎる!

3.0版『Defenders of the Faith』及び3.5版『信仰大全』登場の呪文、《ブランブルズ/野バラのとげ》及び《スパイクス/スパイク生やし》が色々と危険すぎた。(ブランブルズはクレリックドルイド2Lv、スパイクスはクレリックドルイド3Lvの呪文)

ブランブルズ呪文は木製の打撃面を持つ近接武器にしか効果がなく、武器の表面にトゲトゲを生やす事によりダメージに最大+10のボーナスが付く。
またスパイクスの方は持続時間が延び、追加効果でクリティカル率が2倍といった点が異なる上位呪文になっている。
まあクオータースタッフ使いのモンクやドルイド強化用にちょっと強めの効果にしたよ。てなデザインコンセプトだったんだろうけど…。

なにが問題かというと、ダメージに付くボーナス種別が書いてない。つまりルール的に無名ボーナスとなり、これらは全て累積しちゃうのである。

まずは前衛戦士のメインウェポンを前述の素材や呪文を使って作成する、これで木製グレート・ソードなんかが可能となる。出来上がった木刀にブランブルズ&スパイクスをかけれてやれば、みるみるトゲが生えてアラ不思議!2D6+20ダメージ武器の完成。これにさらに《グレーター・マジック・ウェポン》(強化ボーナスを与える呪文)も累積しちゃうんだから、目も当てられないバランスブレイカーとなった。

どんな祭りもいつかは終わりがくる……
事態を重く見たWotCデザイナー陣は後発サプリメント『呪文大辞典』で両呪文を改訂、呪文持続時間をラウンド単位へと思いっきり短くしたうえ、ボーナス種別を強化ボーナスへと変更しブランブルズ、スパイクス、マジック・ウェポンは全て累積しなくなった。これにより強いといえば強いけど、ダメージ減少(物理耐性)対策も考えるとわざわざ前衛の武器を木製にする程でもないバランスの呪文へと落ち着き、改造木製武器は下火となった。

今になっても後生大事に、古びた木刀や木製の鎖なんかを持ち歩いているファイターがいたら察してあげよう。
グッバイ ブランブルズ、フォーエバー スパイクス。
トゲトゲ呪文、版が変わっても決して君たちの事は忘れないよ