Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

オーバーロード 山小人の工匠 カバーイラスト

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ご存知11巻の表紙だが、なんとなく似ているもの(*個人の感想です)を集めてみた

 

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まずはD&Dベーシック・ルール・セット(1983年クラシックD&D4版、1985年に邦訳)のボックスアート、ラリー・エルモアの手による有名なイラストである。なおこの装丁はD&D4版スターター・セット(2010年、ややこしい)にも同じものが使用された。

 

「財宝を抱えたドラゴンと対峙する冒険者」という構図は、D&Dにおいてはベーシック・ルール・セット第2版(Holmes版、1977)などにすでに見られるが、これについてはトールキンの『ホビットの冒険』におけるスマウグのイメージの影響が大きいものと思われる。

 

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これはクラシックD&D第6版1994年の物、ジェフ・イーズリーによるかっこいいイラストで好きなのだがネットで見かけてから長年、なんの本か知らなかったw

 

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指輪物語の昔の文庫本の表紙、腰の引けっぷりがゴンドのそれを連想させられる。

 

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ついでに日本ファルコムドラゴンスレイヤー1984年。自分はpc-88でソーサリアンファミコンでドラスレ4をやりこんだ口ではあるが、こちらは未プレイ

 

『山小人の工匠』ではオラサーダルクが腹の下に財宝を抱えている点で赤箱オマージュなのか、遡ってスマウグなのか。どちらかが元ネタとなっているのは間違いないだろうが…まあ縦の構図でドラゴンに対峙するようなイラストとなると、どれも同じような物になっちゃうのかもしれない。

 

追加

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ドラゴンクエスト』1986年
なぜかドラクエのこの絵をすっかり忘れていたのだが、魔法陣グルグルを見ていて思い出したw

*国産電源系RPGとして下記『夢幻の心臓』の直系なのは間違いないが、ロゴにドラゴンと剣の意匠をあしらった点は『ドラゴンスレイヤー』と同様である。

 

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夢幻の心臓1984年 PC88版 起動画面
システム含め、ドラクエへの影響が大きい

というかドラクエ、ドラスレに限らず、1983年前後のPC88、和製CRPG黎明期にはやたらとこのような「ドラゴンと対峙する戦士」の構図が多い。(コレとかコレとかコレとかコレ

これら諸々のイメージソースは、おそらく赤箱オマージュではなく『ウルティマ/Ultima』(1981)付属のカバーイラスト(ペラ紙のカラーイラスト及びマニュアルのモノクロイラスト)が源流になっていると思われる。

 

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鏡の国のアリス1871年ジョン・テニエルによるジャバウォックの挿絵
竜退治ではないが、知名度的にこれが一番の源流な気がしてきた。

"竜殺し"の伝説といえば聖ゲオルギオスが有名だが、そちらは馬上から突き下ろしている画が主流だし。

 

さらに追加

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ゴブリンスレイヤーTRPG 限定版』2019年
赤色のボックス入りセットという点からしてD&Dベーシック・ルール・セット(赤箱)のオマージュなのは疑いようがないが、キャラが多い分イラストの赤箱ボックスアート感は薄れてしまっている…のだが。

 

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『D&Dベーシック・ルール・セット』パッケージイラストのラフ画(2017年になって発掘された)
エルモアによると、イメージについてガイギャックスに意見を求めたところ、身を乗り出し両手を爪のように立て、ドラゴンが「あなたに向かって飛び出してくる」ようにと提案、さらに上記水彩ラフ画を戦士とドラゴンをクローズアップした構図に変更させたことにより有名な赤箱ボックスアートが完成した。
ご覧の通り破壊された石柱や杖を持った女性のポーズなどがゴブスレTRPGのイラストと類似している。もしこの没イラストがゴブスレTRPGのオマージュ元なのだとしたら、ずいぶんとまあ狭い所から引っ張ってきたものである。

 

もひとつ追記:『Dungeons & Dragons Art & Arcana: A Visual History』(ごつい400ページ越えのビジュアルガイド本)からの情報によると、D&Dの原型となったミニチュアウォーゲーム『Chainmeil』(1971)ファンタジー追加ルールの章に描かれた「竜に立ち向かう騎士」のイラストは、J.R.R. トールキン著『農夫ジャイルズの冒険』挿絵の模写から生まれたものだという。

*上が『農夫ジャイルズの冒険』(1949)、下が『Chainmeil』(1971)の挿絵

『Chainmail』ファンタジーサプリメントのドラゴンの項目では『ホビットの冒険』に登場するグレート・レッド・ドラゴン(つまりスマウグ)を引き合いに出しており、さらにはウォーゲームという性質上「五軍の戦い」を彷彿とさせるゲームになっているが、
「ドラゴンと対峙する冒険者」というビジュアル系譜の源流については同じ「トールキンの黄金竜」であっても『ホビットの冒険』のスマウグではなく、正確には長者黄金竜(Chysophylax Dives)とジャイルズの遭遇シーンということになる。

 

上記イラストの構図は聖ゲオルギオスの竜退治画によく似たものも見られるが、それらに比べ騎士より竜のサイズがだいぶん大きくなっている。これが「剣と魔法」の小説ブーム及びRPGの興隆によりドラゴンのイメージがさらに強大化していった結果、「巨大なドラゴンの手前に戦士」という赤箱カバーアートのような構図が蔓延るようになったのだろう。