Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

火を吐く大怪獣のリアリズム

今期アニメ、卓ゲーマー的に『放課後さいころ倶楽部』に注視したいところだが…
ファンタジーブログとしては、やはり異世界×プロレス×ケモナーという異色作『旗揚!けものみち』に触れておかなければならないだろう。

さてこのアニメの2話、サラマンダーがブレスを吐くシーンでちょいと興味深い描写がなされた。

 

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これは…

口の中から炎が出てるんじゃなく、
微妙に口もとからズレて、火が出ている!

昔のアニメだと描けなかった描写!!
つまり、口からは燃料だけを噴出し空気中で炎となる表現!!

リアル!!
SF性!!

  *島本和彦アオイホノオ』2巻100P、サイボーグ009オープニングアニメ解説より抜粋

 わずか10秒にも満たないシーンではあるが、二昔前のアニメマニアならば上記のように絶賛したであろう見事なブレスの表現であった。

 

それはそうと「火を吐く怪物」の代表的存在であるドラゴン、それも何十年にわたって設定を重ね練ってきたD&Dドラゴンのブレス設定ではどうなっているのか。気になる人もいるかと思うが、これがSF・ファンタジーマニアの心配を余所にずいぶんとストレートかつ乱暴適当なモノとなっている。

 

40 :風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/08/01(月) 02:20:33.47
>>9
ドラゴンはドラゴン袋
ゼットンゼットン袋から出す

*2chなんでも実況Jスレ「ドラゴンってどういう原理で火を吐いてるんや?」より転載

上記書き込みは一見特撮あるあるネタにみえるが、まごうことなきD&D公式設定であり、そしておそらくこれはD厨による書き込みである。

 

D&D3.5版サプリメント『竜の書:ドラコノミコン』 プレビュー、ブレス攻撃の項目を見てみるとこうある。

ブレス攻撃がいかなる形態をとるにしろ、それはドラゴンの肺の奥深くで、心臓の近くにあるドラゴン袋が作り出したエネルギーを用いて作られる。

 「いかなる形態」ってのが炎のみならず冷気、電撃、酸、果ては力場や分解、老化ブレスまで含むのはアレな話ではあるが、それはともかく「draconis fundamentum」をドラゴン袋と訳したHJ和訳チームD16氏の偉業は、D&Dの名訳/迷訳として「プルトニウム貨」「ワォーハンマー」「ウォーマンマー」「地獄企業の標準的な人足」などと並び、今後も長く語り継がれてゆくことだろう。

魔剣の系譜

1つ前の記事でポール・アンダースンムアコックに触れたことだし、せっかくだから今度はそれに絡んだオバロネタ、魔剣キリネイラムのインスパイア元を順に遡ってみようと思う。


魔剣キリネイラムオーバーロード
「漆黒の剣」四大暗黒剣の一つ
「漆黒の刀身に夜空の星を思わせる輝き」とあり、下記のブラックレイザーと見た目が酷似している。


ブラックレイザー(AD&D、シナリオ:ホワイトプルームマウンテン)
神秘的な星々の煌く夜空を切り取ったような刃を持つ、インテリジェンスソード。

版により性能の詳細は異なるが、知性を持ち使用者に殺害を強制、攻撃した相手の魂を食らい(レベルドレイン)蘇生困難化、吸い取った生命力で使用者の筋力及びHP増強、加速など下記ストームブリンガーの能力をそれっぽくD&Dで再現している。
なおシナリオ作者に対するインタビューによると「露骨にストームブリンガーのパクリでちょっと恥ずかしい」との事。

 

ストームブリンガーマイケル・ムアコックエルリック・サーガ
「黒の剣」とも呼ばれる、詳細はwiki参照
ファンタジーにおける"魔剣"の代表的存在
ムアコックによると下記小説の「折れた魔剣」に大きな影響を受けたとの事だが、直接ティルヴィングを参照した可能性も高い。

*グアサングがストームブリンガーの元ネタではないかと言われる事も多いが、出版時期的にストームブリンガーのほうが先であるし、ムアコックトールキンからの影響を否定している。また両者が共通してインスパイア元に挙げているものに「カレワラ」(フィンランドの神話伝承)があり、ここらがネタ被りの原因となっていると思われる

 

テュルフィングポール・アンダースン作「折れた魔剣」)
小説「折れた魔剣」は北欧やケルトなど多くの神話伝承をベースとして作られた悲劇的英雄譚。作中主人公が手に入れる魔剣の名は下記北欧神話のサガからとられているが、「折れたる剣が、鍛え直される」という点についてはグラムの伝承も影響しているのかもしれない。
なお「折れた魔剣」と「指輪物語」及び「シルマルリオン」には似通った部分が多いが、どちらかがパクったとかいうわけでは無く、元ネタとした伝承が被っただけである。

 

ティルヴィング(上記の表記揺れ、北欧神話、ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ)
めんどいのでwiki参照。

ひとたび鞘から抜かれれば血を吸わずにはおさまらず、持ち主の願いを三度まで叶えるが、それによって自身も破滅するという呪いがかかっている。

神話伝承創作ひっくるめて"呪われし魔剣"の原型といえる武器であるのだが…

ファイナルファンタジーシリーズ(3以降)を始め、電源系RPGで武器にその名を採用しているものは多いが、名前だけ北欧神話からとってきたというだけで、上記のような呪われし魔剣としての性質をゲーム上で再現しているものは殆ど無い。

 

このように魔剣の系譜を源流まで辿ってみれば、ナルシル/アンドゥリル、グアサング(指輪物語)やインテリジェンスソード (悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲)、おうじゃのけん(ドラクエ3)までもがキリネイラムの遠い親戚筋という事になる。

ファンタジーRPG必読作家リスト

ファンタジーRPG必読と銘打ってはみたが、以下に並ぶのはAD&D1st『Dungeon Masters Guide』(1979)のケツの方に書かれていた(Appendix N、5版にも似た様なのがあるらしい)ガイギャックスお勧めの作家及び参考書籍リストである。
ファンタジーじゃなくてSF多すぎ、とかクラーク・アシュトン・スミス忘れてない?とか未訳ばかりみたいなのもあるが、とりあえずここに書かれている以上、初期D&Dの成立すなわちRPGの源流に影響を与えている物として非常に重要であることは間違いない。

このブログでも元ネタ作家については以前から色々書いてきたが、いいかげん読んだのも昔でうろ覚えの物も多く、事ある度に海外サイトをググるのも面倒なのでまとめておく。


ポール・アンダースン
『魔界の紋章/Three Hearts and Three Lions』『天翔ける十字軍』『折れた魔剣』

*秩序と混沌の対立構造、異世界転移(タイムスリップ)、現代知識で創意工夫、騎士道物語(クラス:パラディン)、再生能力を持つトロールドワーフ、ニクシー、人狼、スワンメイ(白痴ヒロイン)と、並べて書くとかなり濃いメンツだが現在のRPGにも引き継がれている要素が多い。

 *現代日本において異世界転移の発端といえば「トラックにはねられる」が定番だが、魔界の紋章では「ナチス・ドイツ軍との戦闘中に死にかける」という非常に時代を感じさせるものとなっている。なお、なぜこの作品が(ナイトでは無く)クラス:パラディンの直接の元ネタかを詳しく説明したいところだが、激しくネタバレになっちゃうのでやめておく(わかる人には主人公の名前と原題でピンとくるらしいが…)

 

追記:D&Dのパラディンは『魔界の紋章』の主人公、ホルガーが元ネタなのでは?と昔からよく言われていたが、ガイギャックスによると*1特にそういったわけでもなく普通にシャルルマーニュ伝説における12人のパラディンアーサー王伝説、騎士道の規範などをインスピレーション元にデザインしたとの事。
なお後にパラディンとは別クラスとしてファイターサブクラスのキャバリア/騎兵が追加されるが、これについてはガラハド卿やローランといったパラディンと言えるような高潔な戦士はわずかにしか存在しないからだとか。

 

*『折れた魔剣』ではエルフ族、トロール族、ゴブリン族、ドワーフ、ノーム、レプラコーンなどが登場。ガイギャックス的には、D&Dのエルフはトールキンよりもポール・アンダースンをインスピレーション元としたらしいが…

 

ジョン・ベレアーズ
『霜の中の顔』
*多数のマジックアイテムや魔法書が登場、主人公プロスペロはクラス:ウィザードの原型の一つ…というよりは、ユーモアたっぷりに書かれた本作においては「リアルな魔法使い像」のパロディといった趣が強い。
(プロスぺロの名はシェイクスピアテンペストから採られているし、友人の名はロジャー・ベーコンだし)
なお作中プロスぺロがタロットを用いた魔法で橋を破壊するシーンが「ファンタジー小説における一大スペクタクルシーン」として年季の入ったファンタジーマニアから語られる事はあるが、RPG的世界観とオレツウェイ主人公が普及した現在においてはいささか地味である

*AD&D1st、DMGにおいて呪文システムの解説(別次元からエネルギーが流れ込んでくる、術者は例えるなら電気ヒーターにおけるコンセントでしかない云々)と共に「バックグラウンドとしては、キャンペーン参加者にヴァンスの『天界の眼』と『終末期の赤い地球』、そしてベレアーズの『霜の中の顔』をお勧めする」と書かれていた。


リイ・ブラケット
*スペース・オペラを多数執筆「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」の脚本も手がけたが、公開時期的にAD&D1stへの影響は無い

 

フレドリック・ブラウン
*SFとミステリーが主でファンタジーはほとんど無い

 

エドガー・ライス・バロウズ
火星シリーズ、金星シリーズ、地底世界(ペルシダー)シリーズ
*『火星のプリンセス』が異世界転生モノの始祖のように語られることもあるが、それが近年の和製ファンタジーに繋がっているとは思えない

*オリジナルD&D Vol.1『Men & Magic』序文(1973)においてガイギャックスはジョン・カーターが暗い穴ぐら/black pitsを進むシーンについて言及しているが、調査したところこれは『火星の女神イサス』14章「闇に光る目」の事を言っているようだ。
火星の地下牢/dungeons、分岐する通路を手探りで進むと暗闇の中にギラギラと光る目、襲い掛かってくる3匹の怪獣、剣を振り上げるカーター!
これこそガイギャックスの考える「ダンジョンアドベンチャー」の原型といえる場面の1つなのだろう。(まあ地下牢からの脱出時にモンスターと遭遇というのは、コナンやゾンガーなどでもよく目にするお決まりのシーンではある)

なおオリジナルD&D Vol.3『The Underworld & Wilderness Adventures』の野外遭遇表には地形:砂漠(火星)、遭遇するモンスターTharks/緑色火星人などが書かれていたが、これらのバルスーム要素は後の版に引き継がれる事は無かった。


リン・カーター
『World’s End』

*ガイギャックス的に上記シリーズがオススメらしいが未訳である。ヒロイック・ファンタジー(レムリアン・サーガ)ほかクトゥルー関係やアンソロ本編集で活躍

またコナンの模作や下記ディ・キャンプと組んでコナンシリーズの続編を手がけた事もあり、その流れもあってクトゥルー神話にも黒蓮が出てくるのは大体この人が原因である


L.S.ディ・キャンプ
『闇よ落ちるなかれ』『悪魔の国からこっちに丁稚』


L.S.ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット

『ハロルド・シェイ・シリーズ』 『CARNELIAN CUBE』(未訳)
*異世界転移して現代知識でチート(雑なまとめ)

*ハロルド・シェイシリーズ第一巻『神々の角笛』は北欧(スカンジナヴィア)神話の世界に異世界転移するお話だが、作中に山の巨人/Hill Giant、霜の巨人/Frost Giant、火の巨人/Fire Giantが登場し、これがD&Dジャイアント種別の直接の参照元となっている可能性が高い。また塩素ガスを吹く竜も登場する。


オーガスト・ダーレス

 

ロード・ダンセイニ
*ハイエナ型獣人種「ノール」の名をダンセイニ著の短編『ナス氏とノール族の知恵比べ/How Nuth Would Have Practised His Art upon the Gnoles』より拝借した模様。
なおD&D系での初出であるオリジナルD&D Vol2『Monster & Treasure』解説では、ノームとトロールの交配種というふざけた設定について「たぶんサンセイニ卿/Lord Sunsanyがはっきりとさせなかったのだろう」といった記述があるが、これはおそらくダンセイニ卿/Lord Dunsanyのタイプミスと思われる(Dの隣のキーがSの為)。


フィリップ・ホセ・ファーマー
『階層宇宙』シリーズ


ガードナー・フォックス
『Kothar』『Kyrik』シリーズ(未訳)
*上記の作品は…まあ名前から察しがつくかもしれないが、コナンの巻き起こしたヒロイック・ファンタジーブームに乗っかった蛮人タイプの主人公である。作者自体はファンタジー小説よりアメコミ方面で有名だが、RPGの歴史的にはリッチの直接の元ネタを書いた人

 

ロバート・E・ハワード
『英雄コナン』シリーズ

*コナンはクラス:バーバリアンの原型であるが、作中のコナンは原始的な直観&パワー描写以外にも、盗賊や海賊を生業とし狡猾な戦士としての立ち回りも多い為、D&Dにおいてキャラ再現される場合はローグ(シーフ)混ぜになることが多い

*上記でコナンはバーバリアンの原型と言い切ってしまったが、D&Dにおけるクラスとしてのバーバリアンは他の物に比べ登場はやや遅く、この作家リストが書かれた時点では実装されていない。また後のAD&D1stファイターサブクラス:バーバリアンの特徴は、魔法とマジックアイテムを嫌悪しそれを破壊する事で経験値を得る、また高レベルになるとバーバリアンの集団を召喚できるようになるという不可思議なもので、コナン再現に向いているとは言い難い。

ともあれ、ガイギャックスはD&D誕生以前のミニチュア・ウォーゲーム『Chainmail』ファンタジーサプリメント冒頭にて「J.R.R.トールキンロバート・E・ハワードなどのファンタジー作家が描いた壮大な戦いを再現」と説明、またデイヴ・アーネソンもBlackmoorキャンペーン(実質最初のRPGセッション)の誕生に関しコナンに言及しているので、どのみちファンタジーRPGのイメージ源泉として最重要な作家であるのは違いない。

 

Sterling E. Lanier
『HIERO’S JOURNEY』
*ポストアポカリプス物らしいが、この作家の著作は全て未訳。サイオニックや後のガンマワールドに影響か?


フリッツ・ライバー
『ファファード&グレイ・マウザー』(二剣士)シリーズ
*剣と魔法/sword and sorcery*2の代表的作品であり、蛮人ファファードと盗賊グレイ・マウザーのコンビによる冒険譚は最もD&Dのプレイスタイルに近いと評される。またグレイ・マウザーはクラス:シーフの原型の1つであり、作中で巻物から呪文を使うシーンがクラス能力である「魔法のアイテム使用」に影響を与えた

*後のAD&D1st神格本『Deities & Demigods』(1980)にはファファードとグレイ・マウザーのキャラクターデータほかネーウォン世界の神々のデータが記載、さらには『Lankhmar–City of Adventure』(1985)以降『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズの世界をAD&Dルールで遊ぶためのサプリメントがいくつか出版、TSR公式Dragon誌にライバーの新作短編が掲載されるなどフリッツ・ライバーとガイギャックスは懇意な間柄となっていた
またAD&D1st『Monster Manual』記載のモンスター「Berserker/バーサーカー」のイラストが「ひげもじゃ、おさげ、斧と剣の二刀流の大男」という、かなりファファードっぽい物になっているのも注目すべき点だろう


H.P.ラヴクラフト


A・メリット
『Creep, Shadow! 』『ムーン・プール』『蜃気楼の戦士』
*自分としては『イシュタルの船』を強く推す。異世界転生オレツウェイ、個性的な仲間(ハゲ)、さらわれた巫女(ヒロイン)を救え!、メリケン的マッチョヒーロー!!

*上記『ムーン・プール』を雑誌掲載当時にラヴクラフト怪奇小説史上の傑作と称賛していた、また作中に登場するポナペ島古代王朝の遺跡チャウ・タ・レウル/Chau-te-leur(新訳ではカウ・トゥ・レウル)をオマージュとしてクトゥルフ/Cthulhuが生まれたのでは?という情報がついったちほーに流れていた


マイケル・ムアコック
ストームブリンガー』『魂を盗むもの』ホークムーン・シリーズ(特に最初の3冊の本)
*ダークヒーロー、魔剣(インテリジェンス・アイテム)、法と混沌の対立(上記、魔界の紋章がインスパイア元)、諸神格が多元宇宙にわたって陰謀&抗争を繰り広げる世界観、紅衣の公子コルムに移植した手と目(ヴェクナの手と目)

ここの作品群の中では比較的新しい為か、エターナル・チャンピオンシリーズの総括たるエレコーゼやホークムーンのブラス城年代記はリストに入っていない


アンドレノートン
*ペンネームは男性名だが女性作家。60歳を過ぎてからガイギャックスのD&Dプレイグループに参加した(1976)というからオドロキ、すごいおばあちゃんだ。

なお彼女はその2年後の1978年に小説『Quag Keep』を執筆するが、こいつは「RPGプレイヤーがゲームの世界に異世界召喚される」という、どこぞで聞いたような設定を持つ物だった。(しかもグレイホーク!)

最古のRPG小説からしてこうだった訳で、中々にこのジャンルの因果は深い。

 

*『Quag Keep』冒頭でノートンはガイギャックスに謝辞を述べているが、ここではD&Dことをウォーゲームと説明している。この今までにない全く新しい概念のゲームを「ロールプレイング」と呼ぶようになるのは1975~76年頃であるが、この時点ではまだあまり一般的ではなかったようだ。なお皮肉なことにロールプレイングが世に広く認知されるようになったのは出版1年後のジェームズ・ダラス・エグバート三世失踪事件からである。


アンドリュー・J・オファット
『Swords Against DarknessⅢ』
*SFマガジンなどで短編が少数和訳されたのみ

 

フレッチャー・プラット
『The Blue Star』


フレッド・セイバーヘーゲン
『アードネーの世界』

マーガレット・セント・クレア
『THE SHADOW PEOPLE』『SIGN OF THE LABRYS』
*上記ダンセイニ著作『ナス氏とノール族の知恵比べ』の続編ともいえる短編『The Man Who Sold Rope to the Gnoles』を執筆しているが、こちらの作品もガイギャックスは読んでいたようである。


J.R.R.トールキン
ホビットの冒険』『指輪物語
*スマウグ(財宝を抱えた強大なドラゴン)、エルフ、ホビット(ハーフリング)、ドワーフミスリルバルログ(バロール)、エント(トリエント)、塚人(ワイト)、オーク、ホブゴブリン、ウォーグ、野伏 (クラス:レンジャー)
注意点として『シルマリルの物語』『終わらざりし物語』などの後年になって追加出版された設定は、時期的にAD&D1stへの影響は無い

*オリジナルD&Dの原型となったミニチュア・ウォーゲーム『Chainmail』ファンタジーサプリメント冒頭では「J.R.R.トールキンロバート・E・ハワードなどのファンタジー作家が描いた壮大な戦いを再現」と説明、同ルールのユニットとしてホビット、エルフ、ドワーフ、オーク、エント、レイス(ナズグル)、バルログも登場する。
またドラゴンの項目では、『ホビットの冒険』に登場する強大なレッド・ドラゴン(つまりスマウグ)を例として挙げている。

*ストーン・ジャイアントは夜に岩石を投げて遊ぶのを好み、また他種の巨人より岩投げの射程距離が長くキャッチするのも上手いといった記述が『Monster Manual』に見られるが、これは『ホビットの冒険』にて、トーリン御一行が霧ふり山脈越え時に「石の巨人」を目撃したシーンがおそらく元ネタになっている。

*なおガイギャックスがトールキン、特に『指輪物語』を否定的に扱う理由について「著作権的な問題でD&Dに指輪物語の影響は少ないと強く主張する必要があった」説が根強いが、初期Dragon誌のコラムを読んだ感じでは「トールキンファンに色々言われてニワカうぜぇ!とブチ切れた」といった印象が強く、何よりそれ以上にここに挙げられた作家リストの傾向からして「ホビットの冒険はともかく、指輪物語はガイギャックスの趣味ではなかった」という単純な理由が一番かと思われる。

*トールキンとD&Dの関係性についてはガイギャックスが色々とぶっちゃけているんで、ココを読んで各自判断願いたい


ジャック・ヴァンス
『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』『終末期の赤い地球』
*キューゲルはクラス:シーフの原型の1つ、上記グレイマウザーと同様に作中で呪文書から魔法を使うシーンがある(まあキューゲルは呪文を間違えたりして大変な目に合うのがいつものオチだが)他にもD&Dの呪文関係に多大な影響を及ぼしている

*終末期の赤い地球は「ファンタジー世界だと思ったら、実は科学文明が衰退した遥か遠い未来の地球」という世界観(所謂ダイイング・アース)であるが、コレはC.A.スミスのゾティーク連作にインスパイアされている。なお後年になると今度は『終末期の赤い地球』にインスパイアされたジーン・ウルフ作新しい太陽の書』が生まれるが、この作品の主人公セヴェリアンの持つ剣「テルミヌス・エスト」を元ネタとしてラノベヒロインD&D3.0版で武器マーキュリアル・グレートソード(サプリメント『武器・装備ガイド』収録)が生まれると言う、1930年代から2000年初頭まで続く細くて長い繋がりが見て取れる

*飛ぶように駆けることが出来る魔法の長靴、握れば自動で敵に斬りかかる意思を持った剣、悪意ある魔法を跳ね返す護符、絹で眼球をちりばめたローブ、アイウーン石(未訳morreion収録)、魔法杖などなど直接D&Dに影響を与えたとおぼしきマジックアイテムも多く目につく


スタンリイ・G・ワインボウム


マンリー・ウェイド・ウェルマン


ジャック・ウィリアムスン


ロジャー・ゼラズニイ
『影のジャック』『真世界アンバー』シリーズ
*ジャックもクラス:シーフの原型の1つであるが、後年の上級クラス:シャドウダンサーの元ネタにもなっていると思われる。
神話をベースとしSFとファンタジーを融合させた作品を多く書いたゼラズニイだが、作品ごとの当たり外れが大きい、というか個人の好き嫌いの傾向が大きく出ることが多い。
(アンバーシリーズはファンタジーファンに絶大な人気を誇るが、一部SFファンには低く見られていたり)
個人的にはヒューゴー賞取った『わが名はコンラッド』は大ハズレだが、『ロードマークス』のわけわかんなさが大好き。それと『影のジャック』は「ダークソウル」(特に3作目)との共通点が非常に多い気がするが、マイナーさゆえその点についての指摘考察などは見たことが無い

 

以上の作家の内、ディ・キャンプ&フレッチャー・プラット、ハワード、フリッツ・ライバージャック・ヴァンスラブクラフト、A.メリットが「AD&Dに最も直接的な影響を与えた」との事。(ガイギャックス的にトールキンが含まれていないのは留意すべき点)


なお日本においては翻訳の関係で直接的にはAD&D1stが入ってこず、ザナドゥ、初代ファイナルファンタジーウィザードリィ、バスタードなどからの間接的な影響となってしまったが、それに比べるとマイケル・ムアコックエターナル・チャンピオンシリーズは順調に和訳されていったこともあって、80年代後半の日本ファンタジー界隈に与えた影響は目に見えて大きかった。

*1:EN Worldフォーラム Q&A with Gary Gygaxスレ#403

*2:1961年、ファンタジーサブジャンルに新しい名称が必要だというムアコックの呼びかけに応えて、フリッツ・ライバーがこの用語を提案した

「亡国の吸血姫」描写から見るルール その2

アンデッドになった者の蘇生関係 73pから81pぐらい

どうやらD&D、ユグドラシル、転移後の世界でそれぞれ設定が違うみたい

D&Dでは:倒した後、高位の蘇生呪文であれば生者として復活
ユグドラシルでは:アンデッドからの種族変更はワールドアイテムが必要
転移後では:倒した後、高位の蘇生呪文であればアンデッドとして復活するが、アンデッド化の元凶を取り除けば元に戻ったという記録もある

まあ「亡国の吸血姫」で生者としての復活が不可能だった原因については〈始原の魔法〉やキーノのスキルの絡みもあるので、さらなる検証が必要か。

 

"ちなみにスライムゾンビは存在しない。どんな種族でもゾンビ化、スケルトン化はする。ただし例外的に骨格がない者にはゾンビ化、スケルトン化が起こらないとユグドラシルでは決まっていた" 89p

D&D3版系ではゾンビ及びスケルトン・テンプレートを適用出来る元種族は「(アンデッドを除く)骨格を持つ実体のあるクリーチャー」となっていた。

 

"ゾンビの移動速度は鈍い" 100p

D&D3版系ではゾンビ化すると1ラウンドに1アクションしかとれなくなる。
つまり通常ならば移動後に攻撃orダブル移動、となるところがゾンビだと移動か攻撃のどちらかのみとなってしまう。

このようにゾンビ化はある意味弱体化でもあるため、ヒット・ダイス(オバロでの種族レベル)に対し脅威度(オバロでの難度)は1/3程と他のモンスターに比べるとかなり低い。

 

"信仰系魔法職者の存在が神の力があることを保証している。だからこそキーノは神の力だけを借りるなり、奪うなり、盗むなりして皆を元に戻せないか、という研究も試みた"  92p

キーノちゃんはウルプリーストにでもなるつもりなの?

ソーサラーからじゃ前提条件の1つの<知識:宗教>8ランク以上がかなりきついなぁ。

 

"そんな凄い炎の杖を振り回す炎の巨人の王を倒すなんて出来ないよ"
"剣を棄ててレーヴァティンを取り出した際の余波を食らって" 200p

ユグドラシルではスルトの持っている炎の剣はレーヴァティンでは無く、レーヴァティンは杖という解釈のようだ。
ちなみにD&Dのスルト(神格ランク14、中級神)は超巨大サイズの+5ブリリアントエネルギー・フレイミングバースト・ロングソードを持っている。

 

"装備されているアイテムは、着用者の能力などと結合され、同じだけの抵抗力を持つ。例えば悟がネックレスを装備した時と、地面に落ちたネックレス。同じ耐久力を持っていたとしても簡単に破壊されるのは地面に落ちている方だ" 339p

D&D3.5eでアイテムがセーヴィング・スローしなければいけない状況でのルールはほぼ上記と同じである。
通常、ダメージ魔法を食らっても装備品にそのダメージが及ぶ事はないが、セーヴィング・スローを自動失敗(出目1)した場合、ランダムで所有するアイテム1つにダメージが入る。
この時、所有者のセーヴ・ボーナスを使用してダメージを半減できるかの判定を行えるが、アイテムが地面に落ちていた場合はアイテム自身のセーヴ・ボーナスを使用する。
このボーナス値はマジック・アイテム作成時に必要な術者レベルにより算出されるが、知性を持つアイテム(インテリジェンス・アイテム)などはキャラクターと同様の独自のセーヴ値を持つ。
当然、高位のマジックアイテムはダメージ半減できる確率は増えるし、魔化されてない通常のアイテムはセーヴ出来ない。

これらのルールをそのまま運用すると地面に落ちたアイテムは魔法の品であっても壊れやすい、ネックレスなどの小さなアイテムはHPも硬度も低いのでなおの事である。
武器落とし後にファイアーボールかましてくるようなひどいDMもけっこういるので要注意。

*補足:アイテムのヒット・ポイント及び硬度はアイテムの種類、大きさ、材質、魔法的な強化、ドワーフ造りなどによって決定される、また物理攻撃による武器、盾へのダメージは「武器破壊」ルールによるものでセーヴ半減出来ない。

 

"ユグドラシルの場合、金貨はひとまとめにされ重量はない扱いだった。ゲームだからこそだが、その恩恵は今でも受けている。ではこの世界の貨幣は同じ扱いなのか。それとも一枚一枚に荷重判定があり、合計されていくのだろうか。もし、そうだとすると面倒なことになる" 145p

ウォーゲームの影響が色濃く残るAD&D1st、その後継でありシステマチックに進化したD&D3版系では当然厳密な荷重のルールがあり貨幣ほか諸々のアイテムに重量(3版系ではポンド)が決められている。

貨幣の荷重といえば、財宝の全てが銅貨だった為に重くて持ち帰れなかったとかいう古典的嫌がらせが有名であるが(ガイギャックスが息子相手にやらかしていた)そういった面倒事を別にしても、まず荷重計算がめんどくさい。

「鉛筆と紙」でプレイするRPGでは、これはとんでもなくプレイアビリティを損なうルールに見えるだろうが、21世紀の電脳キッズたる筆者は全てエクセルのキャラクターシートにぶち込んで計算していたので、その点については苦労した覚えは無い。

 

 *重量がらみの余談。あなたがもしD&D初心者なら、キャラメイクする時に名前はすぐに決めなくてもいいが、とりあえず体重は決めておこう。

最初の冒険で君が名の知れた英雄になる事は無いだろうが、死体となって引きずられる可能性は高いからだ。

 

 

追記:リアリズムの追及がゲームを良くするという幻想が残っていた初期RPG(電源、紙問わず)では、プログラム容量の制限などあったにもかかわらず、荷重ルールをシステムに導入したものも多かったと思う。

初期と言うにはちょいと遅いが、1989年にファミコンに移植されたアクションRPGハイドライド3 闇からの訪問者」は、荷重ほか時間の推移、腹減り、睡眠と意欲的にリアル要素を取り入れたゲームであった。

が、しかし、この「リアル」が実際のゲームプレイにどのような影響を与えたかと言うと、
ザコ敵を倒してレベル上げ>やがて小銭が溜まる>重くて動けない>おなかが減って餓死>わたるが死んじゃう!
といった具合に、なんともしょうもない理由でゲームオーバーを迎える羽目に。

そしてこの「小銭による重量制限の圧迫」を解決する手段もあるのだが、それも「草原にポツンと両替機が落ちている」(ノーヒント)といったものであり、勇者が背中に両替機(そこそこ重い)を背負いながら戦闘&両替を続けるという…リアルからはかけ離れた、なによりとてもカッコ悪いものとなってしまっていた。

呪文 その29

〈シャイニングバースト/陽光爆裂〉第7位階

《サンバースト/陽光爆発》 ウィザード8Lv、ドルイド8Lv呪文

オバロではカルマでダメージが変動したようだが…D&D3.5eでの特徴としては半径80フィートの[光]の爆発(盲目の副次効果)と、やたらと効果範囲が広いが呪文Lvに対してダメージはかなり低い。ただしアンデッドや粘体、スライム、カビ系に対してはダメージが増え、さらにヴァンパイアに至ってはセーヴ失敗にすると1発で灰にする事が出来る。

追記:16巻227pではエルフ王デケムが〈ウォール・オブ・スケルトン/骸骨壁〉とその奥のアインズを攻撃するのに使用したが、効果範囲が「爆発」の呪文である為、複数ある壁のうち手前1枚の破壊に留まった。
そもそもD&Dと同仕様であるならば広範囲という利点はあるもののダメージの低い〈シャイニングバースト〉は状況的に向いてない気もするが、骸骨製の壁とアインズ(カルマ値極悪)に対しアンデッド特攻が良く効くと判断したのかもしれない。

 

〈ファイヤー・ストーム/炎の嵐〉信仰系第?位階

《ファイアー・ストーム/火炎嵐》 クレリック8Lv、ドルイド7Lv呪文

ファイアーボールなどの爆発(正確には拡散)とは違い、効果範囲は術者がある程度制御できる。複数個の火炎効果範囲を自在に設置することが出来るため、乱戦時でも味方に当たらないようにしやすい便利な攻撃呪文。

 

〈クリエイト・ウォーター/水創造〉第1位階
《クリエイト・ウォーター/水の創造》 クレリック0Lv ドルイド0Lv パラディン1Lv

D&Dだと術者レベルあたり2ガロンの水を作り出す、ナスターシャだと30ℓくらい?
まあ『亡国の吸血姫』によると、0位階の水創造生活魔法が別にあるようなのでD&Dと仕様はちがうかも。

 

〈デハイドレーション/脱水〉第4位階
《Desiccate》クレリックドルイド、 ウィザード各2Lv呪文、上位の複数版(マス)は6Lv、ダメージ上限Up版である《Wither》は4Lv

未訳の砂漠環境本『Sandstorm』記載の呪文。生物に乾燥ダメージ+脱水効果、ウォーターエレメンタルや植物にはダメージアップという、亡国の吸血姫での描写とおおむね同じ効果。さらに同様の乾燥ダメージ魔法としては基本ルール記載の《ホリッド・ウィルティング/恐るべき枯渇》ウィザード8Lvがあるが、こちらは呪文レベル相応に強力な範囲ダメージ魔法である。
また特に電源系のD&Dゲーマーにおいては、対エネルギー防御(レジストエナジー呪文やデーモン、デヴィルの種別など)を気にせずに「生きているクリーチャー」相手ならばとりあえず効く呪文である為、この系統を重用する人も多い。


追記:
TRPGガープス/GURPS』にて登場した呪文《脱水/Dehydrate》が名称的に元ネタのようだ。Lvを上げれば瞬間発動可能かつ低コスト、対生物ダメージ魔法としてかなり強力であり、そちら界隈は有名な呪文(……らしい。自分はもっぱらD&D専でガープスはルールブックを読んだこともなかったので知らなかった)。
またガープスの《脱水》には習得前提として《水破壊/Destroy Water》及び《水作成/Create Water》呪文が必要な点や、ガープスの水霊は《脱水》呪文が弱点でありこれより多くのダメージを受けるといった点も含め、亡国の吸血姫における一連の水関係呪文の描写はガープスの水霊系呪文がその発想元と思われる。

 

 

"巻物に似せた罠などがあってね。使おうとした瞬間、大爆発などもありえます" 『亡国の吸血姫』122p

《エクスプローシヴ・ルーンズ/爆発のルーン 》ウィザード3Lv

本や地図、巻物などに書かれたこのルーンを読むと爆発する、D&Dのトラップ用呪文としてはポピュラーなもの。

同様の罠呪文としては他に《セピア・スネーク・シジル/セピア色の蛇の印》ウィザード3Lv呪文があるが、これは印を記した本を読んだ途端に中からヘビが襲いかかってくるといったものであり、これがヒルマの使用した〈タトゥー・オブ・ヴァイパー/毒蛇の刺青〉の発想元となったと思われる。

 

〈マリオネット/人形化〉 ?位階

あえてD&D3.5eで探せば呪文大辞典収録の《パペッティア/人形操り》バード3Lvが近いか。
この呪文が効いたら対象は術者の真似をするよう強制される、自殺的な行為にはもう一度抵抗(意思セーブ)出来るが、これに成功しても1d4ラウンドの気絶という「効いたら詰み」な呪文である。
自分とこのプレイグループには過去にこれを愛用するバードがいたが、そりゃ脳筋デカブツを操るのは楽しいだろうね。

 

〈ヘルフレイム/獄炎〉第7位階 アインズが使用
ヘルファイアー・ストーム/地獄の業火の嵐》デヴィルの領域7Lv呪文 『不浄なる暗黒の書』初出『魔物の書Ⅱ』で強化

こちらにも書いたが[火]の抵抗では軽減できない地獄の業火を起こす、その代り最大ダメージは低めな呪文。

「亡国の吸血姫」描写から見るルール その1

異世界かるてっと」という題を初めて見た時、なんとなく『この世の彼方の海』みたいな話なのかなと感じたものだが、改めてアニメを見終わった今考えると騎馬戦=〈一なる四者〉と考えればだいたいあってる(そうか?)


閑話休題

"モモンガは自分の骨の手を見て、首をかしげる。自分からは自分の体が普通に見えており、不可知化アイコンが出ていないから、どうも自信が持てない" 16p

この部分、不可知化していても自分が見えるのはユグドラから引き継いだ仕様なのか、それとも現地仕様なのかはわからないがD&Dでは対応する能力を持っていなければ自分の姿も装備品も見えない。
よって巻物などを使用するためには一旦地面に置いてインビジを解除し、見えるようになったスクロールを拾い上げた後読み上げる、などといっためんどくさい小技が当時は当然のように行われていた。

他にも視界が損なわれるような状況に対応するため、巻物整理器の何処に何のスクロールが入っているか記憶しているとキャラシーに明記してDMにアピール、ポーションには 結び玉を付けたヒモを巻き付けて手探りで判別出来るように(当然ラベルには効果を書いておく、自分が死んでも仲間が使えるように)とか色々あったなぁ…

これらルールとリアリズムのせめぎ合いから生まれたテクニックの数々、あんまやりすぎるとプレイアビリティを損なう事になりかねないが、TRPG特有の味としてD&D5版なんかにも引き継いでいって欲しい気もする(老害感)

 

追記:今季アニメ『ゴブリンスレイヤーⅡ』1話においてポーションを「手先で触っただけでも間違えないようにする」為、結び玉を付けたヒモを巻き付けるという、上記の老害ムーブが行われていた。

この行為に対しアニメ感想サイトなどで「RPGのショートカットコマンドをリアルで表現するとあんな風になる」といったコメントも見られたが、別にそのような深い解釈をするまでもない。D&D系では昔から行われてきた小技の一つである。

 

あらゆる状況に対応出来るようになるためプレイヤーはサプリメント(追加ルール本)を買い込み、ルールとDMが許す限りの強化をPCに施し、またルール外状況に対しても少しでも有利になるべく、知恵をひねって口プロレス……

それらは所謂「和マンチ」と呼ばれる、後ろ指をさされる行為なのであろうが、全ては過酷な環境を生き抜いてきた古強者たちの適応の結果なのである。

 

"無論、より上位の明かりが灯るアイテムも幾つか持っている。しかしながらここで強い力を持つマジックアイテムを見せる必要はないと考えた。手札を見せるのはもっと後にすべきだ。それにーつは ヴァンパイアにバッドステータスを与える太陽のごとき明かりを作り出す物だったりする" 43p

D&Dでは吸血鬼が日光を浴びるとバッドステータスでは済まされない、たった2ラウンドで灰になっちゃう。よって"太陽光であるかのように"光を発する呪文やアイテムは対ヴァンパイアの切り札となりうる。
アイテムとしてポピュラーな物は《サン・ブレード/太陽剣》(FFにも継承された)など

 

 "恐ろしい形相となった母の表情だが、それは痛みに耐えているだけではない。
上位の魔法になればなるほど、集中力を要するようになる。無論、それらの魔法を使えるようになるころには術者自身の集中力もまた釣り合うように研ぎ澄まされていくので、通常時には何も問題はない。しかし、こういった特別な時だけは集中する必要が出てくる場合がある" 65p

3.5版と違い技能判定では無くなってしまったがパスファインダーRPGでの精神集中ルールはここ

上記の描写やルールから読み取れるように、呪文の発動妨害のために広範囲の持続ダメージ呪文をというのはかなり効果的である。

ちなみに自分とこのプレイグループでは、ウォーメイジがレッサー・エクステンド・メタマジック・ロッドで持続時間延長したアイス・ストーム呪文をザコ集団や術者相手に打ち込むという戦法が一時もてはやされていた。

 

"キーノは -共に食事を取る父と母も- 右手に嵌めた指輪に視線を送るが、サファイヤを思わせる青の宝石は何も変わらずいつもの色を湛えていた" 53p

まあ指輪に込められたディテクト・ポイズンで毒見をしている描写なんだろうが…
「魔法の存在する世界ならば有って当然の描写」「当然であるが故に詳しくは書かない」というくがね氏のスタンスが良く示されているシーンである。

甘い薫りは命取り

ブラック・ロータス抽出液
接触毒 セーヴ難易度20
初期効果:3d6耐久力ダメージ 予後効果:3d6耐久力ダメージ
製作難易度35 市価4500gp(高っ!)
「ダンジョン・マスターズ・ガイド3.5版」 p295記載

 

のっけからデータを載せといてなんですが、D&Dでもオバロでもなくゴブリンスレイヤーがメインの記事となります。

 

まずはファンタジー小説における「黒蓮/ブラック・ロータス」登場の流れ

1, 詩人ホメーロスによる古代ギリシア叙事詩オデュッセイア」にて、食べる事により世のすべての苦痛を忘れるという「ロートスの実」が描かれる


2, 上記を元にして、毒や眠りをもたらすという「黒蓮/Black Lotus」(実在しない)の伝承が出来上がる


3, さらに上記を元にして、ロバート・E・ハワードファンタジー小説「英雄コナン」シリーズに、悪い魔法使いが眠る時に使用する麻薬、あるいは毒薬の原料として「黒蓮」が登場*1


4, ハワードの影響をうけた作家、小説郡により広まりファンタジー小説において「黒蓮」が定番化する*2

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冒険者コナン「黒海湾の女王」より 黒蓮によって眠りに落ちるコナン


以上を基礎知識(コメ欄指摘通りロートスの実から生まれた伝承という点は風説です)として知った上で本題。ゴブリンスレイヤー9巻に登場した「黒蓮」の元ネタがどこから来た物であるのか、情報が錯綜しているためにここで纏めておく。

 

 ゴブスレ9巻では主人公&牛飼娘の話とは別に女神官パーティによる雪山攻略が行われており、ここに登場する「氷の魔女」を倒す為に必要なアイテムとして銀の矢、黒真珠、魔女の髪、黒蓮の名が挙げられている。

この一連の流れはゲームブックファイティング・ファンタジー」シリーズの9巻「雪の魔女の洞窟」*3が元ネタになっている

…のだが。

上記4つのアイテムは「雪の魔女の洞窟」が元ネタではなく、「ファイティング・ファンタジー」シリーズ5巻「盗賊都市」において、ラスボスである闇の王者ザンバー・ボーンを倒すのに必要なアイテム、銀の矢/silver arrow、黒真珠/Black Pearls、魔女の髪の毛/Hag’s hair、ハスの花/Lotus flowerが元ネタになっている

…のだが。

上記のとおり盗賊都市での元ネタは「ハスの花」であっても黒蓮では無い。では更なる元ネタは存在するのか?
実はゴブスレシリーズにおいて「黒蓮」は9巻が初出ではない、ゴブリンスレイヤー7巻特装版のドラマCD「プリーステス・ソリティア*4が初出となる。
そしてこのドラマCDの題名はT&Tソロアドベンチャー「カザンの闘技場」のシナリオ「ソーサラー・ソリテア」が元ネタになっている

 …のだが。

 ゴブスレ公式Twitterでの紹介文「ゴブリンスレイヤー不在のある日、女神官は受付嬢とともに教本で冒険を学ぶ――。 ゴブリンをはじめ、首狩り族、黒蓮の花、マンティコアといった脅威に、女神官はソロで挑めるのか!」
これを見ればわかるように、ドラマCD作中で女神官がプレイするソロアドはゲームブック「ソーサリー」シリーズ1巻「魔法使いの丘」まんまとなっており、女神官が黒ハスの花畑でラリってお陀仏も「魔法使いの丘」のバッドエンドに起因する。よーやく元ネタに辿りついた、なげーよ!

 

 まあブラック・ロータスと見るや元ネタはマジック:ザ・ギャザリングのアレ、と断言する人も結構見られるがこれはいささか短慮と言わざるを得ない。黒蓮1つをとってもこのように膨大なファンタジーの系譜を辿らなければならず、他の細々としたネタでもゴブスレでは広範囲かつ多重的に元ネタがあることが多々であり、読んでいて頻繁に本棚をひっくり返す羽目になる…

 

追記:あらためて話題をD&Dに戻して
D&D3版を作ったのはWotCだからD&Dでのブラック・ロータスマジック:ザ・ギャザリングのカードが元ネタ、という事も当然無い。
D&DではTSR時代、AD&Dの頃よりBlack Lotus Extractが存在するし(下に追記アリ)、3版系後続であるパスファインダーRPGにも存在する。
D&D5版には今の所無いようだが、ググってみた感じ過去のデータを元に5版Verを自作しようとするプレイグループも海外のフォーラムでは散見されている。
まあそれだけ海外ファンタジーにおいてブラック・ロータスはありきたりな物という事だ。

さらに余談。D&Dでは伝統的にプレイヤーが毒を使う事には大きな制約が課せられており、マジックアイテムの購入&自作ルールが整備化され、これらの入手が容易くなったD&D3版系においても毒の扱いは未だ厳しい物がある。

とりあえず入手困難、自作するにもけっこうな時間がかかる上に素人が扱ったらそれだけで毒に侵される可能性がある、費用対効果も悪い、そもそも毒を使うこと自体が「悪の行為」とルルブに明記などなど、これらのやっかいな制限の為PCが戦術に毒を組み込むことはまず無い(…無いよね?)。

よって自分が使わないアイテムはチェックしないというマンチ体質の筆者も、この記事を書くまでコアルールにブラック・ロータスが載っている事を知らずにいたわけだがw改めて調べると追加ルール集である各サプリメントにも大量の毒データが記載されていおり、ざっと数えてみたところ和訳された範囲の3.0及び3.5版だけでも毒が87種類に麻薬が13種類!ホント多すぎだろどうしろってんだよ、まったくイカれてるぜ!

まあこれらは「シナリオ通りにやったから&ルールに書いてあるから仕方ない」というDMお得意の殺意の否定、PC虐めのバリエーションを増やす為に存在する。といったわけでもなく、ただ単に「データーは多ければ多いほど良い」というパラノイアがD厨では多数派を占めていたというだけであろう…たぶんね。

 

さらに追記:
D&DにおけるBlack Lotusの初出はどこであるのか。以前から色々ググってはいたが、各版のデータやらドラゴン誌やらバルダーズ・ゲートやら自作データやら多数引っかかるため特定困難であったのだが、どうやらAD&D1stよりさらに遡りオリジナルD&Dの4番目のサプリメント(追加ルール集)『Gods, Demi-gods & Heroes』(1976)において「英雄コナン」関連の品として記載されたのが最初のようだ。

この本はエジプト、ヒンドゥーケルト、アステカ、マヤ、北欧、中国、フィンランドギリシャ各神話、ついでに「英雄コナン」シリーズとエルリック・サーガの神々及び英雄たちのデータ集というものであり、よーするにオタの大好きなアレ、FGOとかと同じようなノリをRPG最初期からやらかしてたわけである。

なお後にプレミアムボックスセットとして2013年に復刻版が出版されるが、著作権に配慮しコナンとエルリック関係のデータはごっそり削除され(残当)、それに伴い初代ブラックロータスのデータも黒歴史*5として消えゆくこととなった。

*1:おそらく1933/3「象の塔」が初出だが、「不死鳥の剣」が発掘できず手元にはハヤカワ版しかないので詳細を確認出来てない

*2:リン・カーター経由でクトゥルフ神話へとか、日本では栗本薫グイン・サーガ」など

*3:ちなみにゴブスレでは氷の魔女と雪男/サスカッチであったが、元ネタでは雪の魔女と雪男/イエティである

*4:このドラマCDでは蜥蜴僧侶が「飛びかかり」とか妖精弓手が落とし穴に落ちたら「軽業」でとか何気なしに会話しているが、これは確信犯的にD&D3版系ルール用語が元ネタとなっている。ゴブスレ本編では他のゲームブックネタやウィザードリィソードワールドネタなども多いが、D&Dネタに限ってはこの手が好きな世代の想像するクラシックD&Dでは無く、比較的新しいD&D3版系が殆どである

*5:誤解を招く書き方なので補足させてもらうと、当時のTSR著作権を無視していた訳ではなく、一応ムアコックアーカムハウスにはガイギャックスが手紙を出して使用の許しを得ていたし、バルスームはコネのあるHeritage社を通じて出版権を委託、ヴァンスやライバーなど交流のある作家には(一部事後承諾とはいえ)直接に使用許可をもらっていた。また指輪物語に関しては、当時のアメリカの著作権法ではライセンスが更新されていなかったために保護されていないと考えていた。このような状況から推測するとコナンも当時出版権を委託されていたディ・キャンプあたりにコンタクトを取って許可をもらっていた可能性が大きい。まあこの後にクトゥルフエルリックのゲーム化権を取ったケイオシアム社に訴えられたり(ムアコックからの手紙は有るので裁判すれば勝てたがそんな余裕はないしなによりブライアン・ブルームに反対された)トールキン財団の代理人に訴えられたりコナンも結局消えてるので、どのみち駄目っぽいが…