Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

甘い薫りは命取り

ブラック・ロータス抽出液
接触毒 セーヴ難易度20
初期効果:3d6耐久力ダメージ 予後効果:3d6耐久力ダメージ
製作難易度35 市価4500gp(高っ!)
「ダンジョン・マスターズ・ガイド3.5版」 p295記載

 

のっけからデータを載せといてなんですが、D&Dでもオバロでもなくゴブリンスレイヤーがメインの記事となります。

 

まずはファンタジー小説における「黒蓮/ブラック・ロータス」登場の流れ

1, 詩人ホメーロスによる古代ギリシア叙事詩オデュッセイア」にて、食べる事により世のすべての苦痛を忘れるという「ロートスの実」が描かれる


2, 上記を元にして、毒や眠りをもたらすという「黒蓮/Black Lotus」(実在しない)の伝承が出来上がる


3, さらに上記を元にして、ロバート・E・ハワードファンタジー小説「英雄コナン」シリーズに、悪い魔法使いが眠る時に使用する麻薬、あるいは毒薬の原料として「黒蓮」が登場*1


4, ハワードの影響をうけた作家、小説郡により広まりファンタジー小説において「黒蓮」が定番化する*2

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冒険者コナン「黒海湾の女王」より 黒蓮によって眠りに落ちるコナン


以上を基礎知識(コメ欄指摘通りロートスの実から生まれた伝承という点は風説です)として知った上で本題。ゴブリンスレイヤー9巻に登場した「黒蓮」の元ネタがどこから来た物であるのか、情報が錯綜しているためにここで纏めておく。

 

 ゴブスレ9巻では主人公&牛飼娘の話とは別に女神官パーティによる雪山攻略が行われており、ここに登場する「氷の魔女」を倒す為に必要なアイテムとして銀の矢、黒真珠、魔女の髪、黒蓮の名が挙げられている。

この一連の流れはゲームブックファイティング・ファンタジー」シリーズの9巻「雪の魔女の洞窟」*3が元ネタになっている

…のだが。

上記4つのアイテムは「雪の魔女の洞窟」が元ネタではなく、「ファイティング・ファンタジー」シリーズ5巻「盗賊都市」において、ラスボスである闇の王者ザンバー・ボーンを倒すのに必要なアイテム、銀の矢/silver arrow、黒真珠/Black Pearls、魔女の髪の毛/Hag’s hair、ハスの花/Lotus flowerが元ネタになっている

…のだが。

上記のとおり盗賊都市での元ネタは「ハスの花」であっても黒蓮では無い。では更なる元ネタは存在するのか?
実はゴブスレシリーズにおいて「黒蓮」は9巻が初出ではない、ゴブリンスレイヤー7巻特装版のドラマCD「プリーステス・ソリティア*4が初出となる。
そしてこのドラマCDの題名はT&Tソロアドベンチャー「カザンの闘技場」のシナリオ「ソーサラー・ソリテア」が元ネタになっている

 …のだが。

 ゴブスレ公式Twitterでの紹介文「ゴブリンスレイヤー不在のある日、女神官は受付嬢とともに教本で冒険を学ぶ――。 ゴブリンをはじめ、首狩り族、黒蓮の花、マンティコアといった脅威に、女神官はソロで挑めるのか!」
これを見ればわかるように、ドラマCD作中で女神官がプレイするソロアドはゲームブック「ソーサリー」シリーズ1巻「魔法使いの丘」まんまとなっており、女神官が黒ハスの花畑でラリってお陀仏も「魔法使いの丘」のバッドエンドに起因する。よーやく元ネタに辿りついた、なげーよ!

 

 まあブラック・ロータスと見るや元ネタはマジック:ザ・ギャザリングのアレ、と断言する人も結構見られるがこれはいささか短慮と言わざるを得ない。黒蓮1つをとってもこのように膨大なファンタジーの系譜を辿らなければならず、他の細々としたネタでもゴブスレでは広範囲かつ多重的に元ネタがあることが多々であり、読んでいて頻繁に本棚をひっくり返す羽目になる…

 

追記:あらためて話題をD&Dに戻して
D&D3版を作ったのはWotCだからD&Dでのブラック・ロータスマジック:ザ・ギャザリングのカードが元ネタ、という事も当然無い。
D&DではTSR時代、AD&Dの頃よりBlack Lotus Extractが存在するし(下に追記アリ)、3版系後続であるパスファインダーRPGにも存在する。
D&D5版には今の所無いようだが、ググってみた感じ過去のデータを元に5版Verを自作しようとするプレイグループも海外のフォーラムでは散見されている。
まあそれだけ海外ファンタジーにおいてブラック・ロータスはありきたりな物という事だ。

さらに余談。D&Dでは伝統的にプレイヤーが毒を使う事には大きな制約が課せられており、マジックアイテムの購入&自作ルールが整備化され、これらの入手が容易くなったD&D3版系においても毒の扱いは未だ厳しい物がある。

とりあえず入手困難、自作するにもけっこうな時間がかかる上に素人が扱ったらそれだけで毒に侵される可能性がある、費用対効果も悪い、そもそも毒を使うこと自体が「悪の行為」とルルブに明記などなど、これらのやっかいな制限の為PCが戦術に毒を組み込むことはまず無い(…無いよね?)。

よって自分が使わないアイテムはチェックしないというマンチ体質の筆者も、この記事を書くまでコアルールにブラック・ロータスが載っている事を知らずにいたわけだがw改めて調べると追加ルール集である各サプリメントにも大量の毒データが記載されていおり、ざっと数えてみたところ和訳された範囲の3.0及び3.5版だけでも毒が87種類に麻薬が13種類!ホント多すぎだろどうしろってんだよ、まったくイカれてるぜ!

まあこれらは「シナリオ通りにやったから&ルールに書いてあるから仕方ない」というDMお得意の殺意の否定、PC虐めのバリエーションを増やす為に存在する。といったわけでもなく、ただ単に「データーは多ければ多いほど良い」というパラノイアがD厨では多数派を占めていたというだけであろう…たぶんね。

 

さらに追記:
D&DにおけるBlack Lotusの初出はどこであるのか。以前から色々ググってはいたが、各版のデータやらドラゴン誌やらバルダーズ・ゲートやら自作データやら多数引っかかるため特定困難であったのだが、どうやらAD&D1stよりさらに遡りオリジナルD&Dの4番目のサプリメント(追加ルール集)『Gods, Demi-gods & Heroes』(1976)において「英雄コナン」関連の品として記載されたのが最初のようだ。

この本はエジプト、ヒンドゥーケルト、アステカ、マヤ、北欧、中国、フィンランドギリシャ各神話、ついでに「英雄コナン」シリーズとエルリック・サーガの神々及び英雄たちのデータ集というものであり、よーするにオタの大好きなアレ、FGOとかと同じようなノリをRPG最初期からやらかしてたわけである。

なお後にプレミアムボックスセットとして2013年に復刻版が出版されるが、著作権に配慮しコナンとエルリック関係のデータはごっそり削除され(残当)、それに伴い初代ブラックロータスのデータも黒歴史*5として消えゆくこととなった。

*1:おそらく1933/3「象の塔」が初出だが、「不死鳥の剣」が発掘できず手元にはハヤカワ版しかないので詳細を確認出来てない

*2:リン・カーター経由でクトゥルフ神話へとか、日本では栗本薫グイン・サーガ」など

*3:ちなみにゴブスレでは氷の魔女と雪男/サスカッチであったが、元ネタでは雪の魔女と雪男/イエティである

*4:このドラマCDでは蜥蜴僧侶が「飛びかかり」とか妖精弓手が落とし穴に落ちたら「軽業」でとか何気なしに会話しているが、これは確信犯的にD&D3版系ルール用語が元ネタとなっている。ゴブスレ本編では他のゲームブックネタやウィザードリィソードワールドネタなども多いが、D&Dネタに限ってはこの手が好きな世代の想像するクラシックD&Dでは無く、比較的新しいD&D3版系が殆どである

*5:誤解を招く書き方なので補足させてもらうと、当時のTSR著作権を無視していた訳ではなく、一応ムアコックアーカムハウスにはガイギャックスが手紙を出して使用の許しを得ていたし、バルスームはコネのあるHeritage社を通じて出版権を委託、ヴァンスやライバーなど交流のある作家には(一部事後承諾とはいえ)直接に使用許可をもらっていた。また指輪物語に関しては、当時のアメリカの著作権法ではライセンスが更新されていなかったために保護されていないと考えていた。このような状況から推測するとコナンも当時出版権を委託されていたディ・キャンプあたりにコンタクトを取って許可をもらっていた可能性が大きい。まあこの後にクトゥルフエルリックのゲーム化権を取ったケイオシアム社に訴えられたり(ムアコックからの手紙は有るので裁判すれば勝てたがそんな余裕はないしなによりブライアン・ブルームに反対された)トールキン財団の代理人に訴えられたりコナンも結局消えてるので、どのみち駄目っぽいが…