Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

「リッチ」の使用は問題ない?

漫画「BASTARD!!」での鈴木土下座ェ門事件などによりD&D関連の著作権に関して非常に厳しい対応をとられるのが知れ渡たり、以降より現在に至るまで出版業界ではそれらモンスターの名称は微妙に改変されたりするのが常であるが、少なくとも3版当時「リッチ」の名称使用ぐらいは問題なかったのではないかと思われる。

2000年代初頭、D&D3版の基幹をなすd20システムはオープンゲームライセンスとして、そのコアルールの大部分をSRD(system reference document)として公開、それにはモンスターマニュアル収録のクリーチャーデータも殆どが含まれていた。

逆説的にMMに載っていてSRDで公開されていない「差分」がTSRもといWotC社の主張するD&Dオリジナルモンスターらしい。
FAQによると以下の11体が勝手に使っちゃいけないものになる。

  • ビホルダー
  • ガウス
  • キャリオン・クロウラー
  • ディスプレッサービースト
  • ギスヤンキ
  • ギスゼライ
  • クオトア
  • マインド・フレイヤ
  • スラード
  • アンバー・ハルク
  • ユアンティ

そしてSRDにはリッチ・テンプレートも詳細まで載っている。
だからといって今のWotCに「リッチ使っていい?」と質問しても「あなたの弁護士に聞いてください」とアメリカンな返しをされるオチが付くかもしれないが…


しっかしファイナルファンタジーが未だにマインドフレイアを使っているのはどういうわけなのか?
D&D的には有名な悪役だが、わざわざ著作権的に危険を冒す必要があるほどFF的に重要なモンスターとは思えないし。

 

追記:Wiki,)によると、クラーク・アシュトン・スミスの小説「魔術師の帝国」がリッチの初出とされている。
が、この短編中では古代の魔術王ヘスタイオンが蘇生させられたり、主人公(?)の魔術師二人が最終的にアンデッドにされたりしてるが、どちらもゲーム設定のような知識や力を求めるあまり自発的にアンデッドになった物では無い。
それに作中で最初にLich(創元の大瀧訳では"屍"、ナイトランド叢書の安田訳では"ミイラ")という言葉が使われるところでは、ただの古びた死体を指しており(骨になるまで古びたものにはskeleton、他にはmummieなども使用)「アンデッドと化した魔術師」という固有名詞としては「リッチ」は使われていない。

結局これらの先行するファンタジー小説からイメージをいただいたとしても、今現在のゲーム設定に見られるような「リッチ」はD&Dが造り上げたと言っていいだろう。

 

さらに追記:「動く死体」にLichの語をあてたのは上記「魔術師の帝国」(1932)が最初期だが、ガイギャックスが直接の参考にしたと言っているのはガードナー・フォックス著作の短編「The Sword of the Sorcerer」(1969)であり、こちらではちゃんと古びた茶色い衣装を纏ったアンデッドの魔術師をリッチと描写している。

このような神話、伝承では見られなかったがいつの間にかD&Dで設定され後のファンタジーRPGで定説化している物(トロルの再生能力とか)は多々あり、遡った元ネタまで調べだすと切りが無い…

 

もひとつ追記:最近(2020年末)になってWikipediaリッチ (アンデッド)の個別記事が出来たようだ。
そこでは古典ファンタジーでのlichという言葉の使われ方からD&Dへの流れやソースとなった英記事へのリンクが張られており、ぶっちゃけ上の追記の需要がかなり薄くなったわけだが、まあ多くの人が目にするWikipediaに正確な記事が纏められた事はありがたい。