Tomb of the Overlord

オーバーロード 元ネタ考察 備忘録

はじめに

このブログは丸山くがね氏の小説「オーバーロード」について、
そのユグドラシル世界に大きく影響をあたえているであろう、ダンジョンズ&ドラゴンズ3.5版(以降D&D3.5e)視点から、元ネタを考察していく個人的な備忘録です。
オーバーロード」内からのものは〈山カッコ〉、D&D3.5e出典のものは《二重山カッコ》で表記しています。
またD&D3.5eについては、特に記載ない限り基本ルールブック3冊(PHB,DMG,MM)からの出典です。

自分は3版系で邦訳された分はほぼ全てルールブックを揃えていますが、なにぶん物量が多く未訳まで含めると甚大な量となります。また丸山くがね氏がプレイ経験を明言しているクラシックD&D(赤箱)、ダンジョンズ&ドラゴンズ4版、ソードワールドガープスなどについての知識はほとんどありません。
そのため勘違い、的外れな考察もあるかもしれませんがそこはご了承ください。

追記ログ

2024/02/05 ファンタジーRPG必読作家リスト
ロバート・E・ハワード及びJ.R.R.トールキンの箇所に追記

2024/01/26 D&D(←この時点で要注意)というお話
ウィザードリィ談義あるあるについて追記

2024/01/22 トールキンにまつわるガイギャックス語録
ホブゴブリンに関する注釈を追記

2023/12/09 呪文 その29
呪文〈デハイドレーション/脱水〉ついて追記

2023/11/24 ファンタジーRPG必読作家リスト
ダンセイニ卿及びマーガレット・セント・クレアの箇所に追記

2023/11/19 ボブの話(水星の魔女とはあまり関係無い)
ドラゴンクエストについてさらに追記

2023/10/13 「亡国の吸血姫」描写から見るルール その1
アニメ『ゴブリンスレイヤーⅡ』について追記

2023/09/11 ニンジャのワザマエ 及び 呪文 その5
弐式炎雷のスキルについて、メテオスウォームの威力について修正追記

2023/08/21 1986年の怪物誌
ウィザードリィ モンスターズマニュアル』、『モンスター事典』、『ファイナルファンタジー モンスターマニュアル 天野喜孝イラスト集』ほか追記

2023/07/25 AD&D1stから見るWizardryのモンスター
ドラゴンのデータ比較について追記

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如何にして「地下牢」は「迷宮」と化したか

初期のRPGが「地下迷宮」を主な舞台としていた理由、つまりD&Dの根本的な起源「ダンジョンアドベンチャー」に関わる諸説については、数々の尾ひれの付いた、かつ断片的な風説がネット上に散見されている。

ツイッター上の幾人かの識者には割と核心的な情報を呟いている人もいないでもないが、その性質上それらがわかりやすく纏められて広がっている様子もなく、また「D&Dは指輪物語をもとにつくられたゲーム」説に反論する為の重要な要素も含まれているため、自分が調べられた限りの物をここに記しておく。


調査のきっかけとなったのはWikipediaの記事「デイヴ・アーネソン」の記述である

~『D&D』と"ダンジョン探検のコンセプト"の中で、のちに"トールキンに影響を受けたと判断されたもの"[20]は「ブラックムーア」を起源とし~

トールキンに影響を受けたと判断されたコンセプトとは何なのか、ブラックムーアでの起源はどういった物なのか具体的に何も説明していない一文であるし、何より以降の文章と内容が繋がっていない、なんとも作りの甘い記事である。

といったわけで、次は上記文書のソースとして脚注に示されているDragon誌15号の記事「D&D Ground and Spell Area Scale」を当たってみよう。

このガイギャックス著の記事は「D&Dの距離スケール*1は混乱しやすい物になっているけど、これはミニチュアウォーゲームが元になっているんだ、AD&Dではわかりやすくするからごめんね」といった趣旨の物であるが、途中に「『CHAINMAIL』攻城戦のルールにあった、中立の第三者が審判となりトンネル採掘などの地下活動を紙の上で実施するというコンセプトをデイヴ・アーネソンがブラックムーアの「ダンジョン」*2に取り入れた」といった文章が差し込まれている。

要するに「ダンジョン探検は、指輪物語におけるモリアの坑道のシーン再現を目的としたのでは無く、ミニチュアウォーゲームの攻城戦ルールが起源」といった主張が上記Wikipedia記事にて示されているわけである。

同様な「ダンジョンアドベンチャーはミニチュアウォーゲームの攻城戦が起源説」はDragon誌26号の記事『D&D, AD&D AND GAMING』においても改めて主張されているが、しかしこの説を鵜呑みにして信じるわけにはいかないようだ。

何故ならこの頃のガイギャックスはAD&Dルールブックのロイヤリティ支払いに関しアーネソンとの関係が悪化しており、訴訟を控え様々な形でD&Dの起源を自分の方に近づけようと、また「AD&DはD&Dとは異なる全く新しいゲーム」という主張を展開していたからだ。

*なお裁判では契約書に書かれたD&Dルールブックがどこまで含まれるかの解釈が重要な論点となり、D&Dがどれだけガイギャックスのオリジナルルールだったかの数々の主張はほぼ無駄足となった

 

上記「RPGミニチュアウォーゲーム攻城戦起源説」*3は、恐らく輸入されたDragon誌を読んだ僅かなAD&D1stゲーマーが広めたのだろう、日本においてもかなり昔から断片的な誇張を伴った形で何度か耳にしたことがあったが、初期D&Dの研究が進んだ現状では古い風説の1つでしかない。


近年の文献や実際に最初期Blackmoorキャンペーンに参加したという人物の証言を自分が読んでみた印象では、何故「ダンジョン」なのか?どうして「地下迷宮」となったのか?という疑問に対する答えとしては

  • デイヴ・アーネソンが新しいゲーム*4の舞台としてご自慢の「ミニチュアの城」を使用した
  • 地下へ地下へと冒険の舞台を拡張していくうち迷宮と化した
  • アーネソンのデモンストレーションをプレイしたガイギャックスがそれに倣いグレイホーク城の地下を舞台としたキャンペーンを開始し、これがD&Dとなった

といった点が真相のようだ。

 

ともあれ、オリジンがどうであったかと実際にD&Dをプレイしたゲーマーがどう受け取ったかは別である。地下迷宮を探索する自分たちのキャラクターにモリアの坑道を進む旅の仲間の姿を重ね合わせるのは容易であり、「D&Dは指輪物語を元に作られたゲーム」説が正しくは無いとしても、指輪物語が「地下迷宮」(ダンジョン)のイメージ成立に多大な影響を与えたというのは一概に間違いとは言えないだろう。

 

参考文献リンク

ジョン・ピーターソン氏の初期D&D検証ブログ

playingattheworld.blogspot.com

 

ジョン・ピーターソン著作のD&Dの歴史に関する研究本(アマゾンリンク)

Game Wizards: The Epic Battle for Dungeons & Dragons 

 

 

最初のファンタジー・ロールプレイングはデイヴ・アーネソンのキャンペーンだというロブ・クンツの証言

kotaku.com

 

史上初のダンジョン攻略、最初期Blackmoorプレイヤーの証言アーカイヴ

The First Dungeon Adventure

城の地下に逃げ込んだ悪い魔法使いの討伐を領主から命ぜられるという、ダンジョンアタックのアーキタイプがこの時点で完成しているのがすごい

 

アーネソンがブラックムーア城として使用した、Kibri社のNゲージ用ブロンツォーロ城のミニチュア。現在でも購入できる

viessmann-modell.com

 

*1:1”=マップ上での1インチ=屋内スケールでの10フィート=屋外スケールでの10ヤードとなる、AD&D1stMMでもフィートとインチとマップ上でのインチが混在していて自分はそれと知らず読んでいたため混乱した

*2:ここでのダンジョンは単に地下牢という意味だけで無く、本来の語源である「城の天守」の意も含めている

*3:RPG ダンジョン 起源 地下通路」などでググれば出てくるが、本来ガイギャックスが主張したダンジョンアドベンチャーの起源からはかなりかけ離れた物も見られる。

*4:それ以前の卓球台で行っていたナポレオニック・キャンペーンと異なり、ゲームの進行、状況の把握は全てレフリー(アーネソン)の語りによって行われた。またガイギャックスも初期はミニチュアを使用していなかったようだ。D&D3版を経験した身としてはもっとタクティカルな、Chainmailから地続きのゲームとしてD&Dが発展したのかと想像していたのだが違ったようだ。

終末期の赤い地球、kindleで読めるってよ

最果てのパラディン』2期に『葬送のフリーレン』、『ダンジョン飯』とファンタジーアニメが立て続けに放映され、またゲーム界隈では『バルダーズ・ゲート3』日本語版発売に『ウィザードリィ:狂王の試練場』リメイクと話題沸騰、各SNSではファンタジー談義に花が咲いている今日この頃。
俺もいっちょかみして承認欲求満たしてー!とか思ったものの、ツイッターなどはやっていないのでここに書くことにした。

 

さて、『葬送のフリーレン』にハンバーグ(ゴリラも入るか?)が登場したことが色々と物議を醸していたようだ。
ファンタジー異世界にドイツ地名由来の物品が存在することへの違和感ツッコミご意見に対し「あの世界のひき肉焼き料理を適切な日本語に翻訳した結果、ハンバーグと意訳された」という教科書的回答*1がすぐに広まり、その後さまざまな指摘考察、というより大喜利ネタ化のいつもの流れで沈静化した話題だったわけだが…


例のパターン、忘れてません?
古典ファンタジーから脈々と続く、定番のアレですよ?

すなわち
クラーク・アシュトン・スミス『ゾティーク』連作

ジャック・ヴァンス『終末期の赤い地球』シリーズ

ジーン・ウルフ新しい太陽の書

の系譜に連なる…
あろひろし『雲界の旅人』とか、山田正紀『宝石泥棒』とかもそう!

つまり『葬送のフリーレン』の世界は「実は科学文明が衰退した遥か未来の地球」、所謂「ダイイング・アース」ものだったというパターンもアリなんじゃない?

 

失われたはずの先史時代の料理「ハンバーグ」が、長命種であるドワーフの文化に「お祝い事の時に振る舞う料理」として生き残っていたとか。

 

あの地図の南の方のジャングルでは、今でも謎の大型サイズ類人猿の目撃証言があり、それが遠路はるばるザインの村まで伝わってきたとか(ホビット庄に伝わるじゅう/ムマークの伝承のごとく)

*まあどのみちファンタジー世界にゴリラがいてもおかしくないさ!

 

なお「葬送のフリーレン ゴリラ」で検索しようかとすると
フリーレン ゴリラ どうなった
フリーレン ゴリラ 死亡
フリーレン ゴリラ 生きてる
フリーレン ゴリラ 正体

などサジェストがぞろぞろ出てきて、中々に味わい深い。

 

ところでダイイング・アースというサブジャンル名自体、上記ジャック・ヴァンス著『終末期の赤い地球』から採られているわけだが、この短編集及び『切れ者キューゲル』シリーズが初期D&D、すなわちRPGの源流に大きな影響を与えていることはこのブログでも度々書いてきた。(ココココ

そういった事情を抜きにしてもヴァンスお得意の異国情緒たっぷり、めくるめく異世界を味わえる本作は(キューゲルシリーズのようなユーモアは無いものの)控えめに言って傑作であり、ぜひ一読と言いたいところなのだが、近年『終末期の赤い地球』はえらくプレミアがついており、令和6年現在アマゾンや古本屋系サイトで2万円近くと気軽にお勧めしかねる代物となっている。

ところがぎっちょん(死語)いつのまにやらこれが電子書籍化され今kindleなら500円ぐらいで買えるようだ。いい時代になったもんだよなぁ、おい!(インターネットの無い時代に足を棒にして古本屋巡りをした思い出を懐かしみつつ血涙)

*1:年季の入ったファンタジーファンならば『グイン・サーガ』後書きだったかの「ウマって書いてるけどこれは馬じゃないよ」を思い出し懐かしい気持ちになったことだろう

オレは実は祝福されたクロスボウボルトで一回刺されただけで死ぬぞオオ!

つい最近、マジック:ザ・ギャザリングのアップデートにてラクシャーサ関連カードのクリーチャータイプから「猫」のカテゴリが外される事になり、そちら界隈では色々と話題になっているようだが、当然ながら「そもそもヒンドゥー神話のラクシャーサは猫じゃ無くね?」といった疑問もあがっていた。
MTG(あるいはファイナルファンタジー)のラクシャーサが何故トラの頭を持つ獣人タイプのモンスターなのか?

まあこのブログを読んでる人の大半が察しているとおり、結論から言うと例によって「AD&D1stモンスターマニュアルでそう書かれたから」で済んでしまうのだが、もうちょっと踏み込んだ起源については昔一通り調べたことが有るのでついでに書き留めておく。

 

ガイギャックスが語るところによれば*170年代に放送された特撮ホラーテレビドラマ『事件記者コルチャック/ナイト・ストーカー』のファンであり、これの11話「地獄をさまよう悪霊ラクシャサ」 (Horror in The Heights / The Rakshasa)に登場するものがD&Dラクシャーサの元ネタになったとの事。

現物を見てもらった方が早いだろう、YouTubeの動画はここ

*自称ブラフマーの使者である怪しいインド人から貰ったクロスボウで獣人…というよりはチューバッカみたいなラクシャーサを射殺すコルチャック

上記のシーンをインスピレーション元として「古代インドの悪霊」「幻術の達人」「ESP(思考探査の呪文)を使い友好的であると錯覚させる」「魔法的強化の無い武器では傷つかない」「クレリックの祝福を受けたクロスボウ・ボルトに当たると死ぬ」(ヴァンパイアの弱点みたいでいいアイデアだと思ったらしい)といった設定が生まれ、そしてモンスターマニュアルにてデイヴ・トランピアによるイラストにより「パイプタバコを吹かすトラ人間」のビジュアルが与えられた。

(グーグルイメ検で見てもらえばわかるように、MMに記載されたトランピア作のイラスト中でも傑出した作品である)

 

なお「祝福されたクロスボウボルトで一撃死」の設定はD&D3.0版までは残っていたが、さすがにシステマチックな3版系のルール処理にそぐわないとデザイナーが判断したのだろう、D&D3.5版では《ダメージ減少15/善および刺突》(善属性の刺突武器以外ではダメージが15減る)へとこれが改変され、また現在のD&D5版でも似たような物理耐性をラクシャーサは持っているようだ。

 

RPGモンスターの定番設定が実際の神話伝承と食い違っていた場合、とりあえずガイギャックスのやらかしを疑え、というおなじみのアレでした。

*1:EN Worldフォーラム Q&A with Gary Gygaxスレ2005/7/9 #3,994

D&D(←この時点で要注意)というお話

みんな映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ:アウトローたちの誇り』は見た?
すっごく面白かったよね、特に吹き替え版がサイコー!
もちろん、くがねちゃんもツイッターで話題にしていたよ。
さあ未視聴の人はすぐにチェックするんだ、今ならアマプラでレンタル500円!
と、オバロファンにも一通りアピールしたところで本題に。


さて、この映画の評価とか感想を色々ググっていたのだが、「D&Dかと思ったらAD&Dだった」といったコメントを2、3見かけることがあった。

いや……まあねぇ、言いたいことはわかるよ、うん。

言わんとするところを正確に書くとすれば「クラシックD&D4版(1985年和訳)で使われていたミスタラ・キャンペーンセッティングかと思って見に行ったらAD&D2版(1991年和訳)で主流のフォーゴトン・レルム・キャンペーンセッティングだった」となるんだろうけど。

オレちょっと詳しいよアピールにしてもこれじゃあ大半の人には伝わらないだろうし、かといってそれを理解できる人には「30年以上前に和訳された本からの狭い知識によるやや的外れな書き込み」とわかっちゃうんだよ。AD&D系でもフォーゴトン・レルムが標準世界とは限らないし、同じレルムでも映画の舞台は2ndの頃から数百年(130年程でした)経ってるし…


上記のようなD&DとAD&Dが別物と理解している*1のはまだいい方で、ネット上のファンタジー雑語り、D&D系に関する蘊蓄などの書き込みを見ると、D&D系全般、オリジナルD&D、AD&D1st、クラシックD&D4版、現在のD&D5版など、それぞれの違い、出版時期、影響などについて混同してしまっている物が多数見られる。

D&D系の雑学については版やキャンペーンセッティングについて書かれていない時点で、その情報精度を疑ってかかる必要があるよというお話でした。
(まあ自分もD&D3版系で頭が凝り固まった人間なので、偉そうなことは言えないのだが)

 

以下、ざっくりとした版の説明早見表

"元祖" "最初のRPG" "白箱"→オリジナルD&D(1974)

"あらゆるRPGの源流" "ザナドゥファイナルファンタジーBASTARD!!の元ネタ"→AD&D1st(1977~1979)

"新和D&D" "赤箱" "ミスタラ" "ロードス島戦記リプレイ初期" "レベル最大36Lv" "キュア・オール" "エルフは職業"→クラシックD&D4版/BECMI(1983)

"新和のAD&D" ”多種多様なワールドセッティングを展開” "バルダーズ・ゲート1及び2"→AD&D2nd(1989)

"文庫版D&D"→クラシックD&D5版/Rule Cyclopedia(1991)

"オバロの元ネタ" "ゴブスレや最果てのパラディンにも影響" "エベロン" "ネヴァーウィンター・ナイツ"→D&D3rd及び3.5版(2000,2003)

"現在のD&D" "バルダーズ・ゲート3"→D&D5版(2014)

 

追記:
ツイッター上にて「ウィザードリィはD&DやAD&DがベースだけどD&Dに種族による能力修正は無かったからエルフが他種族より体力面で劣るのはWizが発祥」といったやり取りを見かけた。
見事なまでのWiz談義あるある勘違い、ビオ略激おこ案件である。

ウィザードリィ開発当時のRPG主流であったAD&D1stにおける種族:エルフは「敏捷力/Dex+1、耐久力/Con-1の能力修正」「弓、ショートソード、ロングソード使用時、命中判定に+1」「マジック・ユーザーを中核としたマルチクラスが可能」「赤外線視能力」「隠し扉の発見にボーナス」「隠れ身不意打ち成功率にボーナス」「睡眠と魅了の呪文に対して抵抗力を持つ」「グールの麻痺攻撃に対する耐性」「レイズ・デッド呪文では蘇生できない」といった特徴を持ち、また「エルフは人間ほど頑丈ではない」とも記述されている。
これらは80年代に数百万いたとかいうAD&Dゲーマーの常識、つまるところRPGエルフ設定の不文律となっていたものだ。

むしろウィザードリィ独自の改変で日本のRPGエルフ観に影響を与えたものといえば筋力ペナによる戦士適正の無さと、知力及び信仰心ボーナスによるさらなる術者適正の部分である。

*知力ボーナスのあるエルフという点については『Monster Manual』記載のサブ種族「グレイエルフ」の影響もあるかと思ったが、「チェインメイルと盾で身を固め、全員が剣で武装している」と記述されている為、やはりNPCエルフ遭遇データと同じくグレイエルフも魔法戦士(ファイター/マジックユーザーのマルチクラス)を主に想定していたようだ

*こちらにも書いたが、ウィザードリィ#1開発時のAD&DルールではエルフはNPCしかクレリックになれないので、高い信仰心ボーナスによる僧侶適正という点もウィザードリィ独自の特徴

 

というか、そもそも「D&DとAD&D」って表記自体がマズいよねぇ。Wizardry#1(1981)のベースとしての文脈ならオリジナルD&DおよびAD&D1stとしなければならないのだが、新和D&Dのみの経験者にとってはこれが無自覚でクラシックD&D4版(1983)とAD&D2nd(1989)になってしまい、ウィザードリィの元ネタ談義としては前提から破綻しているという……

*1:おそらくオリジナルとクラシックD&D系、AD&D1stと2ndの違いは分かっていない

1986年の怪物誌

最近になって昭和の頃によくあったRPGモンスター解説本なんかを色々と読み返していたのだが、あらためて見るとなぜかやたらと1986年出版の物が多い事に気が付いた

 

出版物を主とした雑な日本RPG年表

1984/12/1 『火吹山の魔法使いファイティング・ファンタジーゲームブック

1985/11/21 日本ファルコムザナドゥ』発売

1985/12/1 『ウィザードリィ モンスターズマニュアル』

1985/12/1 『パックス砦の囚人』AD&Dアドベンチャーゲームブック邦訳開始

1986/5/27 『ドラゴンクエスト』(ファミコンゲームのほう、念のため) 発売

1986/8/21 ポプコム別冊『RPGモンスター大事典』

1986/9  『コンプティーク』誌 ロードス島戦記連載開始

1986/10/1  『モンスター事典』ファイティングファンタジー

1986/10/1  『モンスター・コレクション―ファンタジーRPGの世界 』

1986/11/15  『RPG幻想辞典』

1986/12/5 『モンスター大図鑑』 

1987/1/26 『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』 発売

1987/4/26 スティーブ・ジャクソンイアン・リビングストンが来日サイン会
*ゲームブックブームの絶頂期

1987/5/1 『ザナドゥ データブック Vol.1』

1987/7/1 『D&Dがよくわかる本─ダンジョンズ&ドラゴンズ入門の書』

1987/12/18 『ファイナルファンタジー』 発売

1987/12/22 『ウィザードリィ 狂王の試練場』ファミコン版 発売

1988/2/10 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』 発売

1988/10/1 Truth In Fantasy1 :『幻想世界の住人たち』

1988/11/10 『BASTARD!!』 2巻発売 *鈴木土下座ェ門事件

1988/12/1 『TVゲーム怪物イラスト大事典』(ファミコン必勝本

1989/3/1 『ファイナルファンタジー モンスターマニュアル―天野喜孝イラスト集』

1989/10/1 『ロールプレイング・ゲームの達人』(現代教養文庫

1990/4/1 Truth In Fantasy6:『虚空の神々』

 

1985年に和訳された新和赤箱D&Dの販促から始まったグループSNEの活躍
ロールプレイング・ゲームの入門編として、あるいはファミコン買えってもらえない子の代替品として急激に部数を伸ばしたゲームブック界隈
国産パソコンゲームにおいてはザナドゥブラックオニキスのヒット
そしてファミコンからドラゴンクエストの発売

1986年は海の向こうからやってきた小さなうねりが重なり合い、やがて大きな波となった起点の年ともいえるし、ロールプレイング・ゲームの主流がいまだ紙と鉛筆でプレイするものであり、今までにない未知のゲームとしてのきらめきを持っていたぎりぎり最後の時期だったともいえよう

 

以下、個別の書籍レビュー、購入の参考にでもなれば

 

ウィザードリィ モンスターズマニュアル』 エム・アイ・エー 定価780円 新書
著者:ゲーム・アーツ(竹内誠) イラスト:ABE JAPAN

参考書籍『指輪物語』『ホビットの冒険』『魔法の国ザンス①カメレオンの呪文』『聊斎志異』『アラビアンナイト』『グリム童話』『ペロー童話集』

Wizardry #1に登場する全モンスターをイラスト化し解説した図鑑。
一般的なモンスターは別としてウィズ固有種なぞは僅かな情報からモンスター設定をでっち上げなければならなかったのだろう、出典不明の謎情報(恐らくは独自解釈)の多さが目立つ
ワータイガーが中国で共産党入りして秘密諜報員として活動とか、それはさすがにどうなの?的な解説もあるが、ともかく当時の人の苦労が偲ばれる。

当然D&D固有モンスターは存在しないのだが、(下記『モンスター大図鑑』に比べると少数ながら)すでに一部にAD&D出典とおぼしき記述がある。
例えば、ファイアージャイアントの説明には「ドワーフのようながっしりとした身体」「肌は石炭のように黒い」「目は赤色」「歯はオレンジ」「大きな剣を好む」といった特徴が書かれているが、これらは全てMonster Manualでの記述と同一である。

しかしながらコボルドを犬科の動物を思わせる頭部が特徴としつつも、皮膚を「灰色の鱗」(これは末弥純デザインのファミコン版に引き継がれる)とするなど、AD&Dでの「錆がかかった茶色~錆びがかかった黒」とは異なっている点もある。

 

----------ここから1986年の出版----------

別冊ポプコムRPGモンスター大事典』 小学館 定価1500円 A5判
著者:ポプコム編集部 イラスト:柳 柊二

参考文献:AD&D1st Monster Manual、Monster Manual 2、Fiend Folio、Deities & Demigods、ザナドゥ・マニュアル、Wizardryマニュアル、ULTIMAⅣマニュアル、ほか

参考文献の濃さから察せられるだろうが、これが手持ちのモンスター解説本の中で一番AD&D要素をストレートに味わえる(てかこれ新和TSRに話通してんのかなぁ?)。
基本的にAD&D1st各ルールブックとウィザードリィ#1よりピックアップしたモンスターの解説和訳及びカラーイラスト化と思ってよい。

つまり左利きのリザードマン、ポールアームを担いだ豚顔オーク3人組など原典に近いイラストを柳柊二氏の素晴らしいアートで鑑賞できる(あとはサターン星人のごとき尖り頭のワードナとか)。

特筆すべきはDe&De(AD&D1stの神格本)までも参考文献にしている為、『ドルアーガの塔』の元ネタをカラーイラスト化したものも…

それとドラゴンクエスト3の一部モンスターが、この本を参照してデザインされた疑惑が出てきたが詳細は下記に

 

 

ファイティングファンタジー 『モンスター事典』 社会思想社 定価880円 文庫
S.ジャクソン、I.リビングストン 監修 M・ガスコイン

原題は〈奈落の底から〉(数年前に復刻版が出てた)、ファイティングファンタジーアドベンチャーゲームに登場するモンスターたちをまとめた解説本である。

AD&Dから影響を受けたモンスター及び設定もないでもないようだが(マインドフレイヤが元ネタっぽい"頭脳殺し"やエルフの種別分けなど)、解説文以上にイラストの独自色が強く出ており、それは読者の記憶にファイティングファンタジーシリーズの強烈な印象を残すこととなる。
(このエルフのイラストを見てしまうと、設定はどうあれD&Dや指輪物語でのエルフと同一視することなど到底不可能であろう)

余談、Wikipediaミミックの記事には"「やつし」などの訳語が使われる事もある"とあるが、この「やつし」の出典はファイティングファンタジーシリーズの擬態モンスターであるImitator/イミテイターの訳語であるため、正確には「ミミック=やつし」ではない。現状ミミックをやつしとしているのは自分が知る限り『ゴブリンスレイヤー』(またオメーか)だけである。

 

 

『モンスター・コレクション - ファンタジーRPGの世界』  富士見ドラゴンブック 定価480円 文庫
著者:安田均グループSNE
カバーイラスト:天野喜孝 本文イラスト:木戸一行、米田仁士末弥純

「あのモンスターの弱点は!?」古今東西の主要モンスター74種を集め、イラストとともに、その由来、特徴、弱点、正しい対処法などをくわしく解説。冒険者必読の一冊!!と帯にあり、各モンスター紹介と小説やゲームでの扱いを(ややD&D系を重点的に)詳細に解説。
また最終ページは新和D&Dの広告となっているのが時代を感じる(手持ちのは初版だがエキスパートルールセットまで発売中となっている)

特徴:現在でいうTRPGのみを"ロールプレイング・ゲーム"と記述し、他の物はコンピューターRPGゲームブックとジャンル分けしている。
RPGの例として"『ドラゴン・クエスト』(コンピューターゲームではない、念のため)"と今の常識からは考えられない注釈がある

ドラゴン各種に対し"D&DとアドバンストD&Dのルールでさえ、微妙に食い違っている"とAD&D(この頃は1st)と(クラシック)D&Dでの違いについてもちゃんと記述している点は、当時としては珍しくポイント高い

各モンスターの対処法として「眠り/スリープ」の呪文が利くかどうか、幾度にもわたり記述。まあD&D系だとそれは重要よね。

ホビットの冒険』におけるトロールが、日光で石化する弱点を持つ特徴について"ゲームにおいてこの性質を再現しているものは少ない"と苦言を呈しているが、そもRPGトロールトールキンではなくポール・アンダースン『魔界の紋章』由来のものである

ホブゴブリンについてはAD&Dにおける描写(戦闘集団、日光が苦手でないから地下でも地上でも遭遇する)やトールキンでの扱い(ウルクハイ起源説)などには触れず、"ホブゴブリンとは田舎ものゴブリンという意味" "田舎者だけに力は強い"と、独自解釈を展開。そしてこれは現在でもゴブリンスレイヤーに引き継がれている

 

 

RPG幻想辞典』 日本ソフトバンク出版事業部 定価1500円 A5判
著者:早川浩 イラスト:Nikov *雑誌『Beep』連載の記事を纏めなおし書籍化したもの

参考文献:AD&D1st Monster Manual、Monster Manual 2、Fiend Folio、Deities & Demigods、RUNEQUEST、TUNNEL&TROLLほか神話伝承関係や幻想文学などの文献多数

序文にて「日本でのRPGの歴史は浅く受容のされ方がかなり特殊だった。まず『ウルティマ』『ウィザードリィ』などの完成されたコンピューターRPGが入ってきて、これを真似るような形でソフトが作られていったこと、また『指輪物語』もD&Dの歴史的背景も無かった。これでは幅広いバックグラウンドを持ったRPGを楽しむ発想は生まれるべくもなかった」と警鐘を鳴らし、このギャップを埋めるべく本書を書いたとの事だが、それから40年近くたった現在でもトールキン関係以外の状況は改善しているとは言い難い

主なコンテンツ:まずコンピューターRPGとボード版RPGの違いを解説、D&D及びルーンクエスト及びトンネルズ&トロールズを紹介、ファンタジーの背景として『アーサー王伝説』と『指輪物語』の紹介、RPGの源泉として各神話の解説、キャラクター種族、魔法、武器防具、モンスター、ダンジョンの歩き方講座。おまけに付録としてオリジナルボード版RPGアルビオン』の掲載と、これ1冊で盛沢山RPGの包括的な解説書となっている。


特徴:「モンスターマニュアル」の章における各解説については、語りだしは神話伝承ベースだが詳細はAD&D1stとなっているパターンが多い。モンスターのチョイスもAD&Dサプリメントのマニアックなモンスターが多めであるが、ルーンクエストグローランサー)からのダック(アヒル人間)なんかも記載されている(てか出典は書いて欲しいよう)。

RPG的ファンタジー背景世界の源泉として指輪物語を重要視し紹介に紙面を割き、"ボード版RPGの元祖『D&D』は『指輪物語』をもとにつくられたゲームだ"と、今となってはやや正確さを欠く記述が。Appendix Nにあるような剣と魔法の小説にはまったく触れておらず、一言ムアコックへの言及があるくらい。

巻末スペシャルサンクスにて千葉大SF研ほか複数のゲームサークルの名を挙げている

 

 

『モンスター大図鑑』 出版:スケール 定価2800円 A4判ハードカバー
イラストはウルトラマンのデザイナーとして名高い成田亨
本文解説はゲーム・アーツの竹内誠、後にウィザードリィ関連のノベライズを手掛けることになる人物である

参考文献:ギリシヤ神話、ウィザードリィ・モンスターズマニュアル、ケルト妖精物語、指輪物語
参考ゲーム:ウィザードリィ夢幻の心臓2、ファンタジアン、ウルティマⅣ、ブラックオニキス、アークスロード

"この本のモンスターたちは、コンピュータゲームのロールプレイング・ゲームの中に登場するものだけを選択してある。その中でも、そのゲームにしか登場しないオリジナルは排除し、神話や伝説などで有名なものを掲載している"

特徴:ぱっと見登場モンスターはややウィザードリィ色が強いか?AD&Dについての言及は一切無いが、ゾーン/Xornとまったく同じゾルン/Zornローパー/ Roperそっくりのリーパー/Reaperなど、D&D固有モンスターも表記の細工により登場させ、(コメ欄指摘によるとこれらパチモンモンスターはウルティマⅣが出典元との事。しかしながら解説文はAD&D1stモンスターマニュアルの元ネタまんまという巧妙なずらしが仕込まれている)さらにはジャイアントや各色ドラゴンの性格&ブレスウェポンの記述など、AD&D1stモンスターマニュアルからの引き写しが多くのモンスター解説で見られる(…というかこれ全部比較するのめんどくさくてやらないけど体感4割はMMの和訳みたいなもんだな)。

メイルフィックについて"古代の人間が現れる前から存在した悪霊"と『ウィザードリィ モンスターズマニュアル』の設定を引き継いでおり、この時点ではパズズ像の姿では無い。

----------ここまで1986年の出版----------

 

 

Truth In Fantasy1 :『幻想世界の住人たち』  新紀元社 定価1806円 A5判

著者:健部伸明と怪兵隊 本文イラスト:森コギト

この本におけるモンスター解説はあくまで神話伝承ベースの知識であり、RPGでの扱いについては軽く触れる程度。AD&D準拠の解釈記述は一切出てはこない。

参考文献として大量の神話関係の海外資料ほか、参考ゲームには指輪物語ロールプレイング、ルーンクエスト、ペンドラゴン、ドラゴン・クエストコンピューターゲームではない、念のため)キングアーサー、ドラゴン・ウォーリアーズ などの各TRPGの名を挙げているのだが、これにD&D系は入っていない……著者は新和D&Dの翻訳に携わったにもかかわらず、だ。意図的にD&D系を除外しているのは明らか。

このTruth In Fantasyシリーズは当時学校の図書館にも置かれていたが非常に人気があり常に貸し出し中、事前の根回しが無ければとても借りられない程であった。

 

 

ファミコン必勝本『TVゲーム怪物イラスト大事典』 JICC出版局 定価780円 新書

監修:北枕獲 イラスト:品川るみ、加藤俊章、西川多恵子、鳥越浩二、芳尾英明、鳥飼規世

―はじめに― 今開く、愛すべき怪物の世界!
ファミコンRPGは、モンスターの特性が再現されていない事が多い。実体を持たないはずのモンスターを剣で切るなんてことを、平気でやってくれる。これじゃ、モンスターの魅力は半減だ。ゆえに、この本ではファミコンには、あまりこだわっていない。ゲームでは分からない本当のモンスターの姿を、みんなにも知ってほしいんだ。きっと、きっと、キミも彼らのとりこになるに違いない。

序文より抜粋、良い文章だねぇ。
著者の北枕獲(夢枕獏ではない、念のため)はファミコン必勝本編集部のライターだが、ハドソン製RPG邪聖剣ネクロマンサー』のモンスター監修にも関わっていたようである。

対象読者がファミコンユーザー、つまり当時のガキンチョということもあって(唐突に現れるゼラチナス・キューブを除けば)D&D固有と言えるモンスターは少なく一般的なチョイスとなっており、これらをかなり砕けた文体で解説しているのだが、その内容をよくよく読めば大半はAD&D1st準拠になっているというギャップがすごい(例:キャタピラーの項目でパープル・ウォームとキャリオン・クロウラーを解説している)

漢字には全てルビを振ってある親切設計だが、説明無しにデミ・ヒューマノイドだのローフルだのインフラビジョンが飛び出してくるあたりD&Dゲーマーの性分が隠しきれていない

コボルドについて"体毛は無く灰色か茶色のウロコにおおわれているとゆー説と、赤黒い毛におおわれているとゆー説がある。どっちが正しいかはまだコボルドに会った事がないんで分からない"
スライムについて"実はスライムは植物なんだよ" "たいていのゲームではやられ役として出演しているスライムだけれど、本来のグリーンスライムはかなり恐ろしいモンスターなんだぞ"
と原典との差異についてそれとなく触れているあたり、分かってる感が強い(注:クラシックD&D4版赤箱においてはグリーンスライムの解説に植物の記述は無い、明らかにAD&D1stの知識で書かれている)

あとがきにて「もしモンスターに興味が湧いたら、J.R.Rトールキンの『指輪物語』を読んでみるといい。例えば、オークを豚顔にしたのも、トロルを鬼族にしたのも、みんなこの作品からだ。RPGファンや、モンスター・ファンにとっての聖典だからね」と、ここでも単純化しすぎた指輪物語評が。まあ80年代は情報が限られすぎていて何処もそんな感じだったから仕方ない

 

ファイナルファンタジー モンスターマニュアル 天野喜孝イラスト集』 JICC出版局 定価980円 B5判
監修:北枕獲  イラスト:天野喜孝

FF1及びFF2で使用されたカラーのイメージイラスト十数点とモンスターのモノクロイラストをまとめた本。
Monster Manualそのままの書名といい、よくこれ当時出せたなと思う。新和から何らかの措置はなかったんだろうか?当然ながら参考文献などについでは書かれていない。

特徴:イラストに添えられてる解説文を書いたのは上記『TVゲーム怪物イラスト大事典』著者の北枕獲であるが、本書においてはAD&D準拠の記述はかなり抑え気味となっており、当り障りのないコメント程度のもの……というか矢鱈と不安を煽る割には、攻略の役に立たない微妙な情報が多い。

例:「こんな連中に苦戦するようなら、冒険など止めた方がいい。すぐ家に帰って、地道な仕事に就きなさい」 「パーティの1人や2人は死ぬ覚悟をした方がいいかもしれない」 「彼らを見かけたら、すぐに逃げることを勧める(逃げられれば、だが…)」 「弱点はあるはずだ、きっと…」

しかしながらゲーマーとしての性分か、素でD&D用語(ウィザードリィかもしれないが少なくともFF1,2内では使われていない)を使用してしまっている箇所もある。
クロコダイルについて「彼らの厚い皮膚は、並のレザーアーマー以上のAC/アーマクラスがある」
ゴーストについて「彼らを哀れと思うなら、解呪/ディスペルをして、成仏させてやって欲しい」

明らかに自分のよく知るAD&Dのモンスターであるのに、詳しく書くわけにはいけない北枕獲の胸中はいかばかりか。

 

 

Truth In Fantasy6 :『虚空の神々』 新紀元社 定価1748円 A5版

こちらはモンスター解説本では無く、ケルト及び北欧神話の解説本。この頃に出ていた神話解説本としては専門的過ぎずお手頃で手に入れやすく、のち多くの日本産RPGに影響を与えた。

問題点としてやや強引な独自解釈が多く「スルトの持つ炎の剣はレーヴァテイン」説や「ブリューナク」(原典の神話伝承では記述が確認できない)の発祥地といういわくつきの本でもある。

当時の自分にとってこの本とメガテン攻略本、漫画『孔雀王』が神話伝承オカルト蘊蓄ソースとしての大半を占めていた。

 

わかったこと

 * オッサンが特に版を指定せずD&Dと言った場合、それすなわち1985年に和訳されたクラシックD&D4版であることが未だに多いが、それ以前から輸入ボードゲームを遊んできた層、つまり日本におけるRPG黎明期にゲームデザイナーやライターになったような人たちにとってその範となっていたのはあくまでAD&D1stであり、グループSNE内ですらクラシックD&D系ではない

*RPG解説本で一見D&D要素が薄いものであってもジャイアントやドラゴンの説明にはAD&D1stモンスターマニュアルからの引き写し、孫引きが多い

*RPG黎明期は大学のSF研、ゲームサークルなどアマチュア集団からの情報筋が強い

*ウィザードリィファミコンに移植される前から日本では人気があった

*ザナドゥ取説とかもそうだけど、RPG解説本でAD&Dルールブック風の書名を取り入れたものは当時多かった模様(Monster Manual>モンスターズマニュアル、 Player's Handbook>プレイングマニュアルなど)

*素で忘れられがちではあるが、原典のギリシャ神話におけるキメラはライオンと山羊と蛇(尻尾)を組み合わせたモンスターであり、ドラゴンの頭も翼も生えていない。
これをライオンと山羊とドラゴンの最も最悪の部分をあわせもつ三位一体の怪物としたのはオリジナルD&Dからである。
上記文献では『幻想世界の住人たち』 を除く全ての本で、ドラゴンの頭が生えたD&D系のイラストとなっている。

 

疑問点

*88年末ごろにはRPGの基礎知識としてのD&D系蘊蓄の需要が低下している
ゲームブックブームも急激に冷え込み出版数が減少、ファミコンの普及市場拡大もあって日本におけるRPGの主流が電源系に移ったためか、あとはこの件に鈴木土下座エ門事件の影響はどれだけあったのだろう?

*現在におけるアウルベアおよびアックスビークの普及度の微妙な高さ
上記モンスター各解説本には『RPG幻想辞典』ぐらいにしか載って無いにもかかわらず、けっこう色んなRPGに今でも登場しているような…

ザナドゥ魔導物語の影響力がそこまであるとは思えず、近年の物は韓国産MMO発祥の流れもあるかも?

*「豚顔オーク」は広く普及したが、「和風甲冑を着たホブゴブリン」は伝播されず「田舎者」が一部に広まった件

*トールキンが『指輪物語』でオークをブタの顔を持つ人間のようなモンスターとして登場させ、それがRPGの定説となったと書かれている本が複数みられる……正確なところどうなの?(ちゃんと読んでない)

指輪物語聖典化し、他の「剣と魔法」のファンタジー小説に全く触れないのは、ゲーム資料として『Monster Manual』は読んだけど『Dungeon Master's Guide』までは読んでない、みたいなライターが多かったのかな?(DMGがクッソ読みづらいという問題もある)

*ガーゴイルの設定について、魔法の武器でないと傷つかないとしている物はAD&Dでの記述"SPECIAL DEFENSES: + 1 or better weapon to hit"を元ネタとしているのだろうが、中には「剣では歯が立たないが、メイスやハンマー、アックス/斧などの武器は有効」とする文献もいくつか見られる。これは石っぽい外見から想像を膨らませた独自解釈が広まったのか、それともD&D系以外の元ネタとなったゲームなどがあるのか?

*富士見文庫のファンタジー・ファイルシリーズは現在も電子書籍でお手軽に入手可能だが、モンスター・コレクション(とその改訂版)だけは電子書籍として復刊していない、D&Dの版権関係が原因?でもスペル・コレクションでもがっつりD&D系について記述してるし、イラストレーターから権利許諾が取れなかったという可能性の方が高いか?

*最近のインタビューから見るに堀井雄二がD&D系に明るくないことは明白だが、ドラクエ3にはドラゴンヌを元ネタとする「ラゴンヌ」が登場。こいつは一応和訳された新和D&Dサプリメントにも登場したが、その時の和訳名は「ドラゴニー」だったため、これを参照した可能性は低い。

上記文献の中でネタ元本として可能性が高いと思われるのは『RPGモンスター大事典』であり、これにはドラゴンヌ他アカイライミミックも記載されている。さらに本誌で描かれたミミックは宝箱に目と歯が付いたものであり、原典AD&D1stのミミックイラストよりは大分ドラクエの物に近い

追記:コメ欄指摘によると「歯と目が付いた宝箱」というビジュアルのミミックウルティマⅠ及びウルティマⅣが初出のようだ。『RPGモンスター大事典』のミミックイラストも恐らくウルティマミミックに影響を受けたものだろう。

 

以下、参考画像

*ミミック各種、左からMonster Manual、RPGモンスター大事典、RPG幻想辞典、TVゲーム怪物イラスト大事典。なおTVゲーム怪物イラスト大事典ではドラクエ3での扱いを重点的に解説しているが、イラストでは腕(擬足)が生えていたりとやはりAD&D1st準拠である

 

*アケイライ各種、左からFiend Folioザナドゥマニュアル、RPGモンスター大事典、ドラクエ3ザナドゥではアチャイライ表記だが、RPGモンスター大事典ではアカイーライと、ドラクエ3でのアカイライに近い

 

*左からギル、カイ、ドルアーガ。上段は元ネタのDeities&Demigods 、下段はRPGモンスター大事典から

*モンスター大図鑑より成田亨デザインのメイルフィック、ウィザードリィ モンスターズマニュアルで描かれた「日本神話において"荒御魂"として現れたマイルフィク」の影響が大きい。